農業の一形態。穀作、蔬菜(そさい)作などの耕種部門と養畜部門とを有機的に結び付け、その適切な運営によって農業経営全体の生産性を高めようとするものである。耕種農業に養畜を取り入れること(複合的農業)の効用として、畜産物の生産、厩肥(きゅうひ)の生産、畜力利用などがあげられる。また、作物の茎葉、野菜くずなどの飼料への利用のほか、飼料作物を輪作作物の一つとして組み込むことにより、土壌の地力維持を図ることができる。
有畜農業は、輪栽式農業に典型的にみられるように、「家畜なければ農業なし」といわれた西欧において発達した農法である。わが国においては、水田稲作を主としてきたため輪作があまり発達しなかった。しかし、昭和初期の農村不況のころ堆(たい)厩肥で購入肥料を節約するため有畜農業が奨励されたことがあるが、いわゆる寄生地主制による制約などもあって、一般に関心は低かった。
第二次世界大戦後、有畜農業の必要性がしだいに認識されるようになってきた。しかし、1960年(昭和35)以降、高度経済成長に対応して、農政によって稲作を中心に農業の近代化=機械化が急速に進められた。このため、農村人口は急速に減少するとともに、水稲単作農業と兼業農家が増大し、稲作と畜産の結び付いた有畜農業の発展はほとんどみられなかった。
1967年に米生産は1445万トンのピークに達したが、同時に「過剰」が発生し、減反政策がとられるようになった。農業近代化政策は畜産を欠いた稲単作農業を推進するため、わが国の家族的農業経営の合理性と矛盾するばかりでなく、農業生産力の基礎である地力の低下をもたらすことになる。
そこで、地力の低下を防ぎ、減反=転作と結び付けるためにも、有畜農業である有畜複合経営が提起されてきたのは当然である。
自然力の利用、すなわち自然生態系のなかで行われる農業にとって、有畜農業(有畜複合経営)は今後ますます重要となるであろう。
[佐藤 正]
穀作,蔬菜(そさい)作,果樹作その他の耕種部門と養畜部門とを有機的に結びつけた農業生産形態。農業における養畜の役割には,畜産物の生産,厩肥(きゆうひ)の生産,畜力利用の三つがある。厩肥は肥料として,畜力は農作業の能率化のために役立つ。一方,耕種部門からは作物の茎葉,野菜くずなどの副産物が生産され,これらが家畜の飼料として利用される。さらに,年間を通じて土地の効率的な利用を図るため,同じ土地に同じ作物を栽培することによって生ずる収量の減少,病虫害の発生などを避けるために,夏作物・冬作物,イネ科・マメ科・根菜類などの種類の異なる作物の組合せによる輪作が要求される。飼料作物も輪作作物として重要な役割を果たす。このようなことから,有畜農業は有効な農業生産形態とされる。
欧米の農業は一般に有畜農業である。日本の農業は水田稲作を主としてきたため輪作が発達しなかったことと,農地改革前には地主制といわれた土地所有制に規制されて無畜農業を特徴としてきた。農地改革後,畜産の進展が現れたものの1960年代以降一つの部門に集中した規模拡大が行われ,畜産では糞尿公害を引き起こすなど大きな問題になってきた。また,60年代末ごろから米の生産過剰が現れ水田の他作物への利用が求められるようになってきた。このため,経営内あるいは地域内での耕種部門と養畜部門の結合が日本の農業にとっても課題になってきた。
執筆者:栗原 幸一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
宇宙事業会社スペースワンが開発した小型ロケット。固体燃料の3段式で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発を進めるイプシロンSよりもさらに小さい。スペースワンは契約から打ち上げまでの期間で世界最短を...
12/17 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
11/21 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新