ある時点に疾病であった者の数をそれに対応する人口で割ったものをいう。疾病別あるいは人間集団別(性、年齢、地域別等)に計算することもできる。有病率は、どの人間集団にどんな疾病の有病率が高いか、あるいは低いかを論ずる(記載疫学)ために求められるものである。しかし、結核のような慢性疾病では、ある時点で調査しても患者の存在をとらえられるが、赤痢のような急性疾病では、すぐに治癒してしまうので、時点調査で患者の存在をとらえることは困難である。したがって、有病率は慢性疾病では高く、急性疾病では低い値となる。そこで、ある疾病の有病率をその疾病の罹患(りかん)率で割って、その疾病の平均有病期間を計算することも行われる。このように急性疾病の有病率は低い値となりがちなため、急性疾病のそれは統計学的に意義の小さいものになることが多い。なお、割り算の分母である人口は、その疾病に罹患する可能性のある人口でなければならない。たとえば、子宮癌(がん)の有病率では女性の人口が分母となる、などである。
[杉田 稔]
元来は,ある時点における,ある人口中である疾病をもつ人がどのくらいいるかを率として示した指標で,その人口の健康状態あるいはそれをとり囲む諸環境の質的状況を写しだすものであるが,通常は,分母にある時点における,ある地域の総人口を,分子にはその時点における,その地域の有病者数または罹病者数を計上して,人口10万(あるいは1万または1000)対の率で示す。また,調査目的によっては(たとえば国民健康調査),同じ有病率でも,分母に世帯員数を,分子に調査期間中の2日目,3日目を継続した傷病件数を計上し,世帯員数1000に対する比率で示す場合がある。この種の有病率を用いた疾病統計には,標本調査ではあるが,患者調査などがある。
有病率は,罹病率同様その正確性において問題点をもつが,死亡率,致死率との関係で,公衆保健対策上あるいは医療上きわめて重要な意味をもつ。
執筆者:飯淵 康雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…しかし戦後,結核に有効な化学療法が開発されたのを契機として,51年に改めて結核予防法が制定され,BCG接種による予防,胸部X線間接撮影による患者発見,さらに化学療法による治療をあわせて,予防,患者発見,治療と一貫した結核対策が確立され,その後の30年間には結核事情は著しく改善された。新法制定の51年以来,日本の結核は有病率(人口集団中の有病者の占める割合,人口1000対で示す),新登録患者数(罹患数)および結核死亡数は,そのいずれをみても順調に減りつづけている。82年の死亡数は5300人前後,人口10万対4.5で,順位は第15位まで下がっている。…
※「有病率」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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