朝鮮民主主義人民共和国憲法(読み)ちょうせんみんしゅしゅぎじんみんきょうわこくけんぽう

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

朝鮮民主主義人民共和国憲法
ちょうせんみんしゅしゅぎじんみんきょうわこくけんぽう

北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の憲法。正式名称は、「朝鮮民主主義人民共和国社会主義憲法」。全172条からなり、序文金日成(キムイルソン)、金正日(キムジョンイル)の名が連呼されてその業績がたたえられるほか、現在の最高指導者である金正恩(キムジョンウン)についても、国家の「武装力の使命」が「偉大な金正恩同志を首班とする党中央委員会を決死擁護」することにあると明記されている。

 1948年の建国に際して「朝鮮民主主義人民共和国憲法」が制定された。国家元首はソ連の国家体制を模して首相とされており、南北分断が暫定的なものと考えられていたため、首都がソウルになっていた。漢字の使用をやめる前であったので、漢字ハングル交じり文で表記された。1972年には、名称に「社会主義」を加えた「朝鮮民主主義人民共和国社会主義憲法」が新憲法として制定された。制定日の12月27日は、「憲法節」(憲法記念日)として公休日になっている。「マルクス・レーニン主義をわが国の現実に創造的に適用した朝鮮労働党の主体思想」が国家の指導的指針だと明記された。国家元首としての首相制を廃止して主席制が導入されたほか、内閣は政務院、省は部に改称された。その点は中国の国家体制と似ている。1992年の改正では、「朝鮮労働党の領導の下にすべての活動を行う」として、国家に対する党の優越性が明記されたほか、マルクス・レーニン主義という文言が削除された。そのほか、主席と国防委員長の兼務規定がなくなった。これに基づき、金日成存命中の翌1993年4月に金正日が国防委員長に就任した。

 金日成の死後、1998年の改正では、新たに設けた序文で金日成の名を17回も繰り返して業績をたたえ、「永遠の主席」と明記してその職位をいわば「永久欠番」とした。しかし、それにかわる国家元首は明記されなかった。そのため、実質的な権限は国防委員長が掌握し、対外的な活動については最高人民会議常任委員長が担う、という変則的な体制が発足した。政務院・部は、内閣・省に戻された。2009年の改正でようやく国防委員長が国家の最高領導者であると明記された。また、先軍思想が主体思想と並ぶ指導的指針になったほか、軍人が国家主権者に加わった。

 金正日の死後、2012年の改正では新設の国防委員会第一委員長が最高領導者となり、序文において金正日は「永遠の国防委員長」と称されたほか、自国が「核保有国」であることが明記された。2016年の改正では、国防委員長・国防委員会にかわって国務委員長・国務委員会が新設され、金正恩が国務委員長となった。さらに2019年の改正で、国務委員長は代議員にならず「国家を代表する」ことが明記された。これで、金正恩体制は独自の国家体制を築いたことになる。

[礒﨑敦仁 2020年2月17日]

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