内科学 第10版 「未熟児貧血」の解説
未熟児貧血(赤血球系疾患)
従来は出生体重2500 g未満の児を在胎週数にかかわらず,未熟児とよんできたが,現在は低出生体重児と定義されている.未熟児貧血は,成熟新生児にみられる生理的貧血が,出生時体重が小さいために高度に出現したものである.未熟児貧血には,生後4~8週頃にみられる早期未熟児貧血と生後3~4カ月頃にみられる晩期未熟児貧血がある.
疫学
多くの未熟児にみられるが,特に1500 g未満の極低出生体重児,1000 g未満の超低出生体重児ではほとんどの例でみられる.
病態生理
早期未熟児貧血のおもな原因は赤血球造血のおもな調節因子であるエリスロポエチンの分泌機構の未熟性にある.すなわち,エリスロポエチンは胎児では肝でおもに産生されるため,在胎期間の短い新生児ほどその産生は肝臓に依存している.しかし,肝でのエリスロポエチン産生放出機構は腎臓に比べて低酸素刺激に対する反応が鈍い.このため,未熟児では,貧血のレベルに見合うだけの内因性のエリスロポエチンの血中濃度の上昇が期待できない.さらに,これに加えてさらに以下の要因が加わる.①出生時より赤血球総数・ヘモグロビン総量が成熟児より少ない.②成熟児より未熟児の方が,体重増加が著明であり,これに伴い循環血液量が急激に増加するために血液が希釈される.③成熟児の赤血球寿命は60~70日であるが,未熟児は35~50日とさらに短い.④未熟児では採血の影響を成熟児より大きく受けやすい.
晩期未熟児貧血の原因は鉄欠乏性貧血である.胎児は胎盤を通して母体より鉄を供給されるが,それは妊娠後期3カ月間が最も盛んである.このため,未熟児では成熟児に比べ鉄の備蓄量が少ない.成熟新生児は外来鉄の供給を受けなくても体重が出生時の2倍になれるだけの鉄を保有しているため,生後6カ月頃から鉄欠乏性貧血が起こりやすい.これに対して,未熟児では保有鉄量が少なく,生後3~4カ月に鉄欠乏性貧血が起こる.
臨床症状
早期貧血では,頻脈・無呼吸・体重増加不良・哺乳力不良・不活発・蒼白などを呈する.
検査成績・診断
早期貧血では,正球性正色素性貧血を呈する.後期貧血では,小球性低色素性貧血で血清鉄低下,血清フェリチン低下などの鉄欠乏性貧血の検査所見を呈する.
治療
貧血の程度が高度であれば,輸血は避けられない.呼吸障害のない未熟児の場合,貧血によると思われる臨床症状がなければヘモグロビン濃度が8 g/dL未満で輸血の適応となるが,臨床症状があれば8 g/dL
以上でも輸血の適応となることがある.
わが国では1991年から多施設共同研究が行われ,現在では,エリスロポエチンを200 IU/kg/回,週2回皮下注で早期貧血の予防治療が行われている.鉄が不足するとエリスロポエチンの効果が期待できないため,鉄剤の経口投与を併用する.[伊藤悦朗]
■文献
Brugnara C, Platt OS: The neonatal erythrocyte and its disorders. In: Nathan and Oski’s Hematology of Infancy and Childhood, 7th ed (Orkin SH, Nathan DG et al eds), pp 21-66, WB Saunders, Philadelphia, 2009.
長尾 大:未熟児貧血.血液症候群I(日本臨牀別冊):405-407, 1998.
中山英樹:未熟児貧血.小児疾患診療のための病態生理(小児内科増刊号),41
:199-202, 2009.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報