翻訳|folic acid
ビタミンB群の一つ。かつてビタミンMやビタミンBCともよばれていた。分子式C19H19N7O6、分子量441.40。融点250℃。黄橙(おうとう)色針状結晶。酢酸、アルカリ、ピリジンに易溶。プテリジンとp(パラ)-アミノ安息香酸からなるプテロイン酸に、グルタミン酸が結合したプテロイルグルタミン酸で、おもにトリまたはヘプタグルタミルペプチドの形で存在する。1941年ミッチェルHerschel K. Mitchell(1913―2000)らによりホウレンソウなどの緑葉中からある種の乳酸菌生育因子として抽出され、ラテン語の葉foliumにちなんで命名され、ホラシンfolacinともよばれていた。酵母や肝臓などからも抽出され、造血に有効な因子で、微生物の増殖を促進する。
生化学的に活性な型はテトラヒドロ葉酸FH4であり、炭素1分子を含むメチル基、メチレン基、ホルミル基、メテニル基などの転移酵素の補酵素として作用する。哺乳(ほにゅう)類は葉酸の構成成分であるプテリジンは合成できるが、これをほかの二つの構造(p-アミノ安息香酸、グルタミン酸)と結合できないので、テトラヒドロ葉酸を食物から摂取するか、腸管内の微生物から得る。ジヒドロ葉酸還元酵素は、テトラヒドロ葉酸の再生を触媒する。食物から取り込まれた葉酸はジヒドロ葉酸還元酵素によって生物活性をもったテトラヒドロ葉酸に変えられ、細胞の増殖(DNA合成)に重要な役割を果たす。急速に増殖している癌(がん)細胞は正常細胞より強くこの酵素活性を求めるので、その活性を特異的に下げるメトトレキセートは抗癌剤として使われている。誘導体の一つである5-ホルミルテトラヒドロ葉酸(ロイコボリン)は自然界に広く分布し、ホルミル基をもつが、ホルミル基を移す能力は、活性ホルミル基をもつ10-ホルミルテトラヒドロ葉酸が高い。
自然食品中に含まれる葉酸誘導体は2~6個のグルタミン酸が結合したプテロイルポリグルタミン酸(プテリン化合物)として存在する。葉酸は、高等動物では腸内細菌が産生するので、必要量はごく微量でよく、実験的に葉酸欠乏症をつくりだすのは困難とされる。なお、葉酸の臨床的効果は、他の因子ビタミンB12との共同作用によってのみ著しい治療効果が得られる。
[有馬暉勝・有馬太郎・竹内多美代]
肝臓から抗貧血因子、ホウレンソウから乳酸菌増殖因子として発見されたビタミンであることからもわかるように、ホウレンソウなどの緑黄色野菜、キノコ、肝臓、腎臓(じんぞう)に豊富で、その他の野菜や果実、食肉にもかなり含まれている。しかしながら調理加工、貯蔵中に失われる量が比較的多く、90%に達する例もある。所要量は1日成人0.2~0.4ミリグラム、乳児0.005~0.1ミリグラム、授乳婦0.6ミリグラムと推定されている。核酸やタンパク質の合成・分解に関与し、また骨髄での幼若細胞の成熟にも必要である。葉酸が欠乏すると赤血球の未熟などにより、たとえば巨赤芽球(きょせきがきゅう)貧血などがおこる。
葉酸は妊娠時に要求量が増大するので、アメリカなどでは受胎前のすべての女性に対して葉酸を強化した食事をとることを推奨している。これは葉酸摂取量が不足している場合、神経管異常neural tube defectの新生児が生まれる頻度が欧米で高くなっているからである。
[木村修一]
pteroylglutamic acid.C19H19N7O6(441.40).略称PGA.ビタミンM,ビタミン Bc ともいわれたビタミンB複合体の一つ.1941年,H.A. Mitchellらによって,ホウレンソウの葉の抽出濃縮物から単離され,乳酸菌の生育に必要な因子に対して“folium”(葉)にちなんで名づけられた.化学的には,2,4,5-トリアミノ-6-ヒドロキシピリミジン,ジブロモプロヒオンアルデヒド,p-アミノベンゾイルグルタミン酸を酢酸緩衝液中で順次反応させて合成する.橙黄色の針状晶.明確な融点を示さず,約250 ℃ から炭化する.+23°(0.1 mol L-1 水酸化ナトリウム).水,有機溶媒に難溶,熱湯,フェノール,酢酸,ピリジン,アルカリに可溶.酸性では熱や光に不安定である.λmax 247,296 nm(pH 1),282,346 nm(pH 7.2),256,284,366 nm(pH 13),(log ε :12.8,19.7,27.6,7.2,24.6,24.5,8.6).葉酸のグルタミン酸残基に,さらに2個あるいは5個のグルタミン酸がγ-ペプチド結合したものも知られている.いずれも細胞の増殖促進,造血作用をもつ.補酵素として活性をもつのは葉酸の還元型,5,6,7,8-テトラヒドロ葉酸で,N5,N10 の位置に C1 基,すなわち,ホルミル(-CHO),メチル(-CH3),ヒドロキシメチル(-CH2OH),メチレン(),メチリジン()およびホルムイミノ(-CH=NH)基などを結合して運搬し,プリン,ピリミジンの生合成,したがってRNA,DNAの生合成に関与している.葉酸は,酵母,肝臓,アスパラガス,レタス,ホウレンソウなどに豊富に含まれており,野菜類では主としてホルミル誘導体,酵母や肝臓などではメチル誘導体を含む.ほ乳動物の抗貧血因子である.[CAS 59-30-3]
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 母子衛生研究会「赤ちゃん&子育てインフォ」指導/妊娠編:中林正雄(母子愛育会総合母子保健センター所長)、子育て編:渡辺博(帝京大学医学部附属溝口病院小児科科長)妊娠・子育て用語辞典について 情報
(2014-8-21)
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 抜け毛・薄毛対策サイト「ふさふさネット」毛髪用語集について 情報
…注射用鉄剤としては,デキストラン鉄,ソルビット鉄などの製剤がある。 鉄剤の無効な悪性貧血の治療に肝臓エキス製剤が有効なところから,有効成分の追跡が行われ,1944年に葉酸,48年にビタミンB12(シアノコバラミン)が発見された。ビタミンB12と葉酸のどちらが欠乏しても,DNA合成に支障をきたし,赤血球生成が障害されて貧血を起こす。…
…前者にはビタミンA,D,E,Kなどがあり,脂肪に含まれる必須脂肪酸をビタミンFということもある。後者にはビタミンB1,B2,B6,B12,C,ニコチン酸,パントテン酸,ビオチン,葉酸などがある。
【各種のビタミン】
以下,主要なビタミンの生理作用,欠乏・過剰症について解説する。…
※「葉酸」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加
9/20 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新