本態性血小板血症(読み)ほんたいせいけっしょうばんけっしょう

六訂版 家庭医学大全科 「本態性血小板血症」の解説

本態性血小板血症
ほんたいせいけっしょうばんけっしょう
Essential thrombocythemia
(血液・造血器の病気)

どんな病気か

 慢性骨髄性白血病(まんせいこつずいせいはっけつびょう)などと同じく、造血幹細胞(ぞうけつかんさいぼう)(すべての血液細胞のもとになる細胞)が腫瘍化して発生する血液腫瘍(けつえきしゅよう)疾患です。とくに、血小板のもとになる巨核球(きょかくきゅう)の腫瘍性増殖が特徴的で、結果として末梢血における血小板数が著しく増加します。

 健康診断などで血小板増加が指摘されるほかに、出血あるいは血栓症状(一過性脳虚血発作(いっかせいのうきょけつほっさ)など)により発見される場合があります。

原因は何か

 巨核球の腫瘍性増殖が起こる原因については、詳しくはわかっていません。しかし、約半数の例では真性多血症と同じくJAK2遺伝子の異常が認められており、この異常が発症に関わっていると考えられています。

 慢性骨髄性白血病と異なり、フィラデルフィア染色体(慢性骨髄性白血病)の形成は認められません。また、いわゆる遺伝性の病気ではなく子孫への影響はありません。

症状の現れ方

 血小板増加に伴う血栓(血管内での血の塊)症状を示す場合と、出血症状を示す場合とに大きく分けられます(表14)。約1割程度の症例で出血症状と血栓症状の両方がみられます。一方、無症状の場合も、めずらしくありません。

 出血症状があっても、脳出血などの重い合併症を起こすことはまれですが、血栓症状があると、時に心筋梗塞(しんきんこうそく)脳梗塞(のうこうそく)のような重大な合併症を起こすこともあります。

 急性期への進展はまれですが、進展した場合には出血症状や貧血症状(動悸息切れ・全身のだるさなど)、感染症状(発熱など)が現れます。

検査と診断

 血液検査で、血小板数の著しい増加が認められます。一方で、血小板のはたらきの低下がみられ、血小板凝集能(ぎょうしゅうのう)検査などで異常が認められます。さらに、白血球数の増加を伴うことが多く、幼若な白血球を認めることもあります。通常、貧血は起こりません。脾臓(ひぞう)がはれて大きくなる場合がしばしばあります。

鑑別診断

 血小板は、多くの病気に伴って増加する可能性があり(反応性血小板増多症(はんのうせいけっしょうばんぞうたしょう)表15)、本態性血小板血症と反応性血小板増多症との鑑別が重要になります。一般的に、反応性血小板増多症では白血球の増加を伴わず、血小板凝集能などの血小板機能検査も正常です。また、出血症状あるいは血栓症状を示すことも本態性血小板血症と比較してまれです。

 一方、腫瘍性の血小板増加を起こすものとしては、本疾患のほかに慢性骨髄性白血病骨髄線維症(こつずいせんいしょう)真性多血症(しんせいたけつしょう)などの慢性骨髄増殖性(こつずいぞうしょくせい)疾患と呼ばれる一連の病気があります。とくに慢性骨髄性白血病との鑑別が重要になりますが、本態性血小板血症では慢性骨髄性白血病と異なり、フィラデルフィア染色体およびBCR/ABL遺伝子を認めず、好中球アルカリフォスファターゼ活性も低下しません。

 骨髄線維症、真性多血症とは、骨髄の状態(線維化の有無)、循環赤血球量などにより鑑別します(骨髄線維症真性多血症)。

治療の方法

 血小板数のコントロールと血小板のはたらきを抑える治療が主となり、症状、年齢に応じて選択します。無症状で、血小板数がそれほど多くない場合には、無治療で経過を観察することもあります。

①抗血小板薬

 血栓症の予防のために使用されます。アスピリン(バイアスピリン)、チクロピジン(パナルジン)が主として使われます。

②経口抗がん薬

 血栓による重大な合併症を起こす危険性が高い例や、血小板数が著しく高い(主に100万~150万/μℓ以上)例が対象となります。血小板数のコントロールを目的として、ハイドロキシウレア(ハイドレア)、ブスルファン(マブリン)などが使用されます。

生活での注意

 食事、運動、旅行など日常生活全般についての制限はほとんどありませんが、出血症状が強い場合には外傷に気をつける必要があります。治療の有無を問わず、定期的な血液検査を受けることが大切です。

永井 正


出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

内科学 第10版 「本態性血小板血症」の解説

本態性血小板血症(血小板/凝固系の疾患)

定義・概念
 本態性血小板血症(以下ETと略す)は原発性血小板血症(primary thrombocythemia)ともよばれ,多能性造血幹細胞レベルでの腫瘍化によって生じた疾患で,慢性骨髄性白血病,真性赤血球増加症,原発性骨髄線維症とともに骨髄増殖性腫瘍に分類されている.血小板数が著増,骨髄では成熟巨核球が増加する.
疫学
 年間10万対1~2.5人と推定されている.診断時の平均年齢は60歳であるが,40歳未満の患者が10~25%を占める.小児にはきわめてまれである.男女比は1:1~2と女性にやや多い.ごくまれに家族性にみられることがある(後述の家族性血小板血症を参照).
病因・病態生理
 巨核球系前駆細胞(巨核球コロニー形成細胞)の増加およびその自律性増殖によって骨髄巨核球の数と大きさが著明に増加し,血小板産生も著しく亢進する(正常の10倍から15倍).EPOやトロンボポエチン(TPO)受容体の下流に存在し,細胞内シグナル伝達の中心的役割を担うJAK2チロシンキナーゼの遺伝子変異(JAK2V617F変異)が本症の半数例に検出される【⇨14-9-10)】.またc-mpl遺伝子の変異を1~3%に認め,この変異によってTPO受容体は恒常的に活性化され,血小板増加をきたすと考えられる.この変異は疾患特異性がなく,原発性骨髄線維症の症例にも10%程度に認める.
臨床症状
 血管運動性症状あるいは血栓出血症状を呈することが多いが,診断時1/4~1/3の患者は無症状である.血管運動性症状では,頭痛,失神,非定型胸痛,視力障害,網状皮斑,肢端紅痛症(erythromelalgia)【⇨14-9-10)】などがある.
 血栓出血症状では,血栓症状が出血症状より多い.血栓症は動脈血栓(心,脳,末梢)の方が静脈血栓(下肢深部静脈,腸間膜静脈,脳静脈洞)よりも起こりやすい.血栓症の発症には年齢が深く関与し,高齢者に多く,若年者では血小板数の増加にもかかわらず,血栓症は少ない.血栓症の発生と血小板数・凝固機能との間には明らかな相関がない.出血症状は胃腸管出血が最も多い.
 中等度の脾腫を20~50%に認めるが,骨髄線維症に移行しなければ巨脾はまれである.肝腫大を認めることがある.
検査成績
1)末梢血所見:
血小板数は通常100万/μL以上で,ときに数百万/μLをこえることもある.血小板は大きさ,形,構造の異常が著しく,巨大血小板や巨核球の断片もみられる(図14-11-2).軽度の貧血を認める.白血球の増加は認めるが,通常20000/μL
をこえず,好中球が増加していることが多い.軽度の好酸球・好塩基球増加もしばしば認めるが,白赤芽球症はない.
2)骨髄所見:
骨髄は正形成ないし軽度の過形成で,大型から超大型で細胞質の豊富な成熟した巨核球の著明な増加と血小板の凝集像がシート状にみられる(図14-11-3).深く分葉した巨核球や過剰に分葉した巨大巨核球(牡鹿の角様,stag-horn like)もみられる.赤芽球系,骨髄球系前駆細胞もしばしば増加するが,一般に軽度である.細網線維の増生はあってもごくわずかである.
3)その他:
13q,+8,+9などの染色体異常を5~10%に認めるが,本態性血小板血症に特徴的な異常はない.
診断・鑑別診断
 WHO分類2008(第4版)を表14-11-3に示す.基本的には除外診断であり,血小板増加症をきたす多くの疾患を除外する(表14-11-2).特に慢性骨髄性白血病,真性赤血球増加症,原発性骨髄線維症を除外することが重要である.反応性の血小板増加症との鑑別が問題になるが,反応性では100万をこえることはまれで,経過も一過性のことが多い(表14-11-4).
治療
 はじめに心血管系合併症の危険因子(肥満,喫煙,糖尿病,高血圧,脂質異常症など)を取り除くことが重要である.基本的な治療方針は血小板増加の抑制と血小板機能の制御にある.血栓症の危険因子(年齢,血栓症の既往)に血小板数を加味したリスクの層別化が行われ,これをもとに治療方針が決定される(表14-11-5).
 高危険群では血栓症を繰り返す危険性が高いので,おもに抗腫瘍薬を使用して積極的に血小板数を減少させることが重要である.中間群・低危険群では基本的には経過観察か少量アスピリン投与(80~100 mg/日)を行うが,中間群で心血管系合併症の危険因子がある場合には抗腫瘍薬の使用も考慮する(図14-11-4).
1)化学療法:
抗腫瘍薬としてヒドロキシカルバミド(ヒドロキシウレア)がおもに用いられる.ハイドロキシウレアの投与によって血栓症の発生を有意に減らすことができる.原則として血小板数40万/μL以下を目標にコントロールする.
 アナグレライドは欧米では高危険群の本態性血小板血症の第一選択薬として広く用いられている(わが国では承認されていない).その理由として,有効性が高く80%以上の症例で血小板数を60万/μL以下に減少できること,白血病原性がないため,より安全に使用できる点があげられる.
 インターフェロン-αは胎盤通過性がないので,高危険群で挙児を希望する婦人や妊婦への使用が可能である(わが国では保険適用外である).その有効性は高く,8割以上の症例に効果を認めている.
 最近ではJAK2阻害薬が開発され,骨髄線維症に移行した患者の脾腫の改善に効果を認めている.
2)抗血栓療法:
アスピリンの少量投与が最も効果的である.本態性血小板血症でみられる血栓症は真性赤血球増加症と同様に血小板活性化作用を有するトロンボキサンA2合成の亢進がおもな誘因であるが,少量のアスピリン(100 mg/日)はトロンボキサンA2合成を抑制するので,血栓症の予防に効果的である.特に肢端紅痛症に有効である.ただし血小板数が100万/μLをこえる症例でAPTTの延長がみられる場合には後天性von Willebrand症候群の合併の可能性がある【⇨14-9-10)】.VWF活性が30%以下の場合にはアスピリンの投与は出血を助長するため,ハイドロキシウレアなどであらかじめ血小板数を100万/μL以下に減少させてから投与を開始する.動脈硬化の危険因子である脂質異常症,糖尿病,高血圧症,高尿酸血症に対する治療や禁煙することも血栓症の予防に重要である.
経過・予後・合併症
 多くの症例は長い間血小板数の増加にもかかわらず,良好な経過をたどる.一部の症例は急性骨髄性白血病や骨髄線維症に移行するが,おもな死因は血栓塞栓症である.
家族性血小板血症
 本態性血小板血症の多くは後天性であるが,まれに家族性(常染色体優性)にみられることがある.TPO遺伝子の異常によってTPO過剰産生をきたす本態性血小板血症の家系が報告されている.一方,TPO受容体遺伝子異常による家族性血小板血症の家系がわが国から報告されている.[小松則夫]
■文献
Swerdlow SH, Campo E, et al eds: WHO Classification of Tumours of Haematopoietic and Lymphoid Tissues, IARC Press, Lyon, 2008.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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