慢性骨髄性白血病

EBM 正しい治療がわかる本「慢性骨髄性白血病」の解説

慢性骨髄性白血病

どんな病気でしょうか?

●おもな症状と経過
 白血病(はっけつびょう)では、血液の細胞(白血球(はっけっきゅう)、赤血球、血小板(けっしょうばん))のどれか一つが異常に増殖し、他の血液細胞をつくれない状態になっています。白血病は、発症のしかたによって急性と慢性に分類されるほか、増殖する細胞の種類によって骨髄(こつずい)性とリンパ性に分かれます。
 慢性の白血病は、数年にわたり種々の段階の血液細胞が増加し、脾臓(ひぞう)が大きくなったり、赤血球が増加したり、あまりはっきりした症状のでない慢性期がしばらく続きます。そのあと、白血球数が増加する移行期から、最終的に急性の白血病と同じように、がん化した白血病細胞が異常に増殖してしまい、正常の血球細胞がつくれなくなる急性転化期に至るという経過をたどります。
 全身倦怠感(けんたいかん)や脾腫(ひしゅ)による腹部膨満感(ふくぶぼうまんかん)、血液細胞の増殖による胸骨のあたりの痛みなど、あまりはっきりしない症状で受診し、白血球数が通常の10倍に至るといった血球検査の異常から、骨髄の検査が行われて診断がつくことが多い病気です。

●病気の原因や症状がおこってくるしくみ
 慢性骨髄性白血病は染色体異常の結果、細胞の増殖を調節しているチロシンキナーゼという物質がつねに活性化され、さまざまな血液細胞が異常に増殖する病気です。
 この病気の患者さんでは、ほとんどの場合、染色体の異常が認められています。人間がもっている46の染色体のうち、22番染色体が途中から切れて、9番染色体の断片と結合している、つまり、9番と22番の染色体がそれぞれある部分で二つに切断され、互いに入れかわって結合しています。それぞれの遺伝子の断片が結合した結果、新たに融合遺伝子がつくられます。この融合した染色体はフィラデルフィア染色体とよばれ、さらに、このフィラデルフィア染色体上で融合した遺伝子は、bcr-abl(Break-point Cluster Region-Abelson)遺伝子とよばれます。この遺伝子からつくられる物質は、細胞の増殖に関連するチロシンキナーゼと呼ばれる酵素が変化したもので、この変化したチロシンキナーゼは本来の働きに異常をきたし、持続的に細胞増殖を刺激し続けてしまいます。このため、異常な血球細胞の増殖がおこる、と考えられています。
 慢性骨髄性白血病の慢性期は、急性白血病と異なり、種々の白血球、また血小板も異常に増加します。このため、血球がさかんにつくられている胸骨のあたりが膨張することで痛みが現れます。また、増加した血小板を処理するため、脾臓が巨大になりおなかの上のほう、左側がはった状態になります。
 急性期になると、急性白血病と同じく、赤血球が産生できなくなり貧血になります。正常の血小板がなくなるので出血しやすくなります。また、正常の白血球が産生できなくなるので、感染症にかかりやすくなります。
 チロシンキナーゼに関連するこの遺伝子の異常は、おもに後天的におこるのではないかと考えられています。それは、原爆で被曝した人や放射線治療を受けた人に、この病気の患者さんが多いという統計からも推測されています。

●病気の特徴
 慢性骨髄性白血病の発病はすべての年齢層におこりえますが、40歳代~50歳代以降に多くみられます。白血病全体のなかでは、約20パーセントを占めます。
 2001年、慢性骨髄性白血病に対する分子標的薬のグリベックイマチニブ)が発売されました。この薬の登場で、慢性骨髄性白血病は、毎日きちんと薬を内服すれば、長期生存も可能な病気となっています。(1)
 そして、現在、一部の慢性骨髄性白血病は、分子標的療法のみで治癒する可能性があるのではないか、との研究が行われています。(2)(3)


よく行われている治療とケアをEBMでチェック

■慢性期の初期治療
[治療とケア]分子標的療法:チロシンキナーゼ阻害薬を用いる
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] 現在、チロシンキナーゼ阻害薬を用いた分子標的療法が、初期治療の標準治療となっています。この治療は、通常の抗がん薬よりも副作用が少ないものの、心不全、肺出血や末梢動脈閉塞(まっしょうどうみゃくへいそく)などの特殊な副作用が現れることがあります。このため治療に習熟した専門家のもとで治療を行うことが必要です。なお、治療効果の判定には、3、6、12カ月ごとに、血液もしくは骨髄液のbcr-abl遺伝子数などを検査し、評価する必要があります。(4)~(11)

■慢性期で治療に耐性・不耐容の場合とおよび移行期・急性転化期の治療
[治療とケア]分子標的療法:チロシンキナーゼ阻害薬を変更する
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] 初期治療で用いられたチロシンキナーゼ阻害薬を使用していても病気が悪化した場合は、突然変異したチロシンキナーゼの型を検査し、チロシンキナーゼ阻害薬の種類を変更します。悪性度の高い場合、種類の異なるチロシンキナーゼ阻害薬にも反応しない場合は、同種骨髄移植が可能か検討を行います。
 以前行われていたインターフェロンや、急性白血病に準じた抗がん薬の使用は、増加した白血球数を減少させることはできても、生存期間の延長は困難と考えられています。このため、チロシンキナーゼ阻害薬の使用が優先されます。(12)(13)

[治療とケア]同種骨髄移植(どうしゅこつずいいしょく)を検討する
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 同種骨髄移植、すなわち、兄弟姉妹もしくはHLAという型の一致した人からの骨髄移植により、慢性骨髄性白血病を根本的に治癒させることが可能です。しかし、同種骨髄移植は副作用による治療に関連した死亡率が未だ高いのが現状です。そのため、同種骨髄移植にふみきるかどうかは、患者さんの年齢や全身状態、他の治療に対する反応性、骨髄提供者が得られるかどうかといったさまざまな面から、総合的に検討する必要があります。


よく使われている薬をEBMでチェック

慢性期初期治療
[薬用途]分子標的療法
[薬名]第二世代チロシンキナーゼ阻害薬:スプリセル(ダサチニブ水和物)・タシグナ(ニロチニブ塩酸塩水和物)ほか(4)~(7)
[評価]☆☆☆☆

治療抵抗性/急性転化期
[薬用途]分子標的療法
[薬名]第二世代チロシンキナーゼ阻害薬:スプリセル(ダサチニブ水和物)・タシグナ(ニロチニブ塩酸塩水和物)・ボシュリフ(ボスチニブ水和物)(12)
[評価]☆☆☆☆
[薬名]第三世代チロシンキナーゼ阻害薬:アイクルシグ(ポナチニブ、申請中)ほか(13)
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] いずれも内服薬で、1日1回または2回飲む薬です。血球の状態や反応を確認するために、定期的に血液検査や骨髄の検査が必要です。
 第一世代として登場したチロシンキナーゼ阻害薬のグリベック(イマチニブ)は開発当初から有効性が高い薬であることが予想されたため、患者さんに投与しないという行為が倫理的に許されませんでした。このため、無作為ランダム化試験ではなく、交差試験(時期をずらしてすべての患者さんに薬を使用する方法)でその効果の検証が行われました。したがって、予後の改善効果は、過去の治療成績と比較する、という方法論が用いられました。(8)(9)
 また、第二世代チロシンキナーゼ阻害薬は、第一世代チロシンキナーゼ阻害薬のグリベック(イマチニブ)と比較し有効性が高いと報告されています。第二世代の2つの薬剤は、副作用が異なるため、患者さんの併存疾患(糖尿病の有無等)を考慮して薬剤を選択します。なお、第二世代のチロシンキナーゼ阻害薬であるボシュリフ(ボスチニブ水和物)も、海外では、最初の治療(初期治療)で第一世代のグリベックを超える治療成績が公表されています。しかし、2015年2月現在、日本では、最初の治療としてではなく、治療抵抗性の時期にのみ保険適用が認められています。(10)(11)
 治療抵抗性の場合は、チロシンキナーゼ阻害薬の種類を変更します。以前行われていたインターフェロンや、急性白血病に準じた抗がん薬の使用は、増加した白血球数を減少させることはできても、生存期間の延長は困難と考えられています。このため、チロシンキナーゼ阻害薬の使用が優先されます。


総合的に見て現在もっとも確かな治療法
慢性期の初期治療では、分子標的療法を行う
 2001年、慢性骨髄性白血病に対する分子標的薬のグリベック(イマチニブ)が発売され、この薬の登場で、慢性骨髄性白血病は、毎日きちんと薬を内服すれば、長期生存も可能な病気となりました。(1)
 現在、一部の慢性骨髄性白血病は、分子標的療法のみで治癒する可能性に関する研究が進められています。(2)(3)
 初期治療としては、おもに、第二世代チロシンキナーゼ阻害薬を使用します。チロシンキナーゼ阻害薬は、通常の抗がん薬よりも副作用が少ないものの、心不全、肺出血や末梢動脈閉塞などの特殊な副作用が現れることがあります。また、治療効果を確認するため、3、6、12カ月ごとに、血液もしくは骨髄液のbcr-abl遺伝子数などを検査し、評価します。そこで、治療は、習熟した専門家のもとで行う必要があります。
 
治療抵抗性になった場合、薬を変更する。骨髄移植を検討する
 初期の治療では病状が安定せず、悪化した場合は、突然変異したチロシンキナーゼの型を検査し、チロシンキナーゼ阻害薬の種類を変更します。悪性度の高い場合は、種類の異なるチロシンキナーゼ阻害薬でも十分な効果が得られないこともあります。その場合には、同種骨髄移植が可能かどうかの検討を行います。

(1)O'Brien SG, Guilhot F, Larson RA,et al; IRIS Investigators. Imatinib compared with interferon and low-dose cytarabine for newly diagnosed chronic-phase chronic myeloid leukemia. N Engl J Med. 2003 ;348:994-1004.
(2)Mahon FX, Réa D, Guilhot J, et al; Intergroupe Français des Leucémies Myéloïdes Chroniques. Discontinuation of imatinib in patients with chronic myeloid leukaemia who have maintained complete molecular remission for at least 2 years: the prospective, multicentre Stop Imatinib (STIM) trial. Lancet Oncol. 2010;11:1029-35.
(3)Takahashi N, Kyo T, Maeda Y, et al. Discontinuation of imatinib in Japanese patients with chronic myeloid leukemia. Haematologica. 2012 ;97:903-6.
(4)Gurion R, Gafter-Gvili A, Vidal L, et al. Has the time for first-line treatment with second generation tyrosine kinase inhibitors in patients with chronic myelogenous leukemia already come? Systematic review and meta-analysis. Haematologica. 2013 ;98:95-102.
(5)Kantarjian H, Shah NP, Hochhaus A, et al. Dasatinib versus imatinib in newly diagnosed chronic-phase chronic myeloid leukemia. N Engl J Med. 2010;362:2260-70.
(6)Saglio G, Kim DW, Issaragrisil S, et al; ENESTnd Investigators. Nilotinib versus imatinib for newly diagnosed chronic myeloid leukemia. N Engl J Med. 2010 ;362:2251-9.
(7)Jabbour E, Kantarjian HM, Saglio G, et al. Early response with dasatinib or imatinib in chronic myeloid leukemia: 3-year follow-up from a randomized phase 3 trial (DASISION). Blood. 2014;123:494-500.
(8)Roy L, Guilhot J, Krahnke T, Guerci-Bresler A,et al. Survival advantage from imatinib compared with the combination interferon-alpha plus cytarabine in chronic-phase chronic myelogenous leukemia: historical comparison between two phase 3 trials. Blood. 2006 ;108:1478-84.
(9)Kantarjian HM, Talpaz M, O'Brien S, et al. Survival benefit with imatinib mesylate versus interferon-alpha-based regimens in newly diagnosed chronic-phase chronic myelogenous leukemia. Blood. 2006;108:1835-40.
(10)Cortes JE, Kim DW, Kantarjian HM, et al.Bosutinib versus imatinib in newly diagnosed chronic-phase chronic myeloid leukemia: results from the BELA trial. J Clin Oncol. 2012;30:3486-92.
(11)Nakaseko C, Takahashi N, Ishizawa K,et al. A phase 1/2 study of bosutinib in Japanese adults with Philadelphia chromosome-positive chronic myeloid leukemia. Int J Hematol. 2014 Dec 25. [Epub ahead of print]
(12)Takahashi N, Miura M, Kuroki J, et al. Multicenter phase II clinical trial of nilotinib for patients with imatinib-resistant or -intolerant chronic myeloid leukemia from the East Japan CML study group evaluation of molecular response and the efficacy and safety of nilotinib.  Biomark Res. 2014;2:6.
(13)Cortes JE, Kim DW, Pinilla-Ibarz J, et al; PACE Investigators. A phase 2 trial of ponatinib in Philadelphia chromosome-positive leukemias. N Engl J Med. 2013 ;369:1783-96.

出典 法研「EBM 正しい治療がわかる本」EBM 正しい治療がわかる本について 情報

六訂版 家庭医学大全科「慢性骨髄性白血病」の解説

慢性骨髄性白血病
まんせいこつずいせいはっけつびょう
Chronic myelocytic leukemia
(血液・造血器の病気)

どんな病気か

 造血幹細胞(ぞうけっかんさいぼう)(すべての血液細胞のもとになる細胞)が腫瘍化して発生する血液腫瘍(けつえきしゅよう)で、白血球が著しく増加する病気です。しかし、いわゆる遺伝性のものではなく、子孫への影響はありません。通常、病気の進展に伴い、慢性期、移行期、急性期に分けられます(図8)。

 最近は、健康診断などにより、白血球の増加を指摘されて発見される場合が多くなってきています。治療は、イマチニブ(グリベック)という薬が主として用いられますが、最近、ダサチニブ(スプリセル)、ニロチニブ(タシグナ)といった新薬が登場して、イマチニブの効果が不十分な場合などに使われるようになってきています。

原因は何か

 すべての遺伝子は、細胞のなかにある46本の染色体(ひも状のもので、1番から22番まで2本ずつある常染色体(じょうせんしょくたい)と、2本の性染色体(せいせんしょくたい)からなる)に存在しています。慢性骨髄性白血病では、ほとんどの場合で9番染色体と22番染色体が途中で切断され、それぞれ相手方の染色体と結合する異常が認められます。

 この異常な染色体をフィラデルフィア染色体と呼んでいます(図9)。この結果、新たにBCR/ABLと呼ばれる異常な遺伝子が形成されます。この遺伝子からBCR/ABL蛋白質が産生され、これが慢性骨髄性白血病の発生原因と考えられます。しかし、どのような原因によってフィラデルフィア染色体が形成されるのかはわかっていません。

症状の現れ方

 慢性期では、全身のだるさ、体重減少、皮膚のかゆみなどのほかに、肝臓あるいは脾臓(ひぞう)の腫大による腹部膨満感(ぼうまんかん)を自覚することがあります。そのほか、胃潰瘍を合併することもあります。しかし、自覚症状がない段階で、健康診断などにより白血球増加を指摘されて発見されることもしばしばあります。

 急性期(急性転化)では、動悸(どうき)・息切れ・全身のだるさなどの貧血症状、皮下出血・鼻血・歯肉出血などの出血症状、発熱などの感染症状のほか、関節痛、骨痛などが現れる場合があります。

検査と診断

①慢性期

 血液検査で、白血球数の増加が認められます。健常人では成熟した白血球のみが血液中に認められますが、この病気では原則として幼若な細胞から成熟した細胞まで、すべての段階の白血球が出現するのが特徴です。また、白血球の一種である好塩基球(こうえんききゅう)の増加をしばしば認めます。

 そのほか、触診あるいは腹部超音波検査などによる脾臓の腫大、血液検査による好中球(こうちゅうきゅう)アルカリフォスファターゼ活性の低下なども参考になります。

 確定診断のためには骨髄検査を行い、骨髄の形態、フィラデルフィア染色体の有無およびBCR/ABL遺伝子の有無を調べる必要があります。しかし、ごく一部に、BCR/ABL遺伝子のみが証明されて、フィラデルフィア染色体を認めない例もあります。

②急性期

 血液検査では、慢性期と異なり幼若な白血球の増加が顕著になります。また、貧血や血小板数の低下の進行を認めます。好中球アルカリフォスファターゼ活性は上昇に転じます。

 骨髄検査では、幼若な白血球の増加とともに、フィラデルフィア染色体以外の新たな別の染色体異常が加わる場合が多く認められます。

③鑑別診断

 白血球が増加するほかの病気としては、感染症、心筋梗塞(しんきんこうそく)甲状腺機能亢進症(こうじょうせんきのうこうしんしょう)などの内分泌疾患、悪性腫瘍、熱傷(ねっしょう)、手術後などがあります。また、一部の薬物や妊娠、寒冷な環境によって白血球が増加することがあります。

 この病気の慢性期と同様に、幼若なものから成熟したものまで、すべての段階の白血球が増加する病気としては、骨髄線維症(こつずいせんいしょう)をはじめとするほかの慢性骨髄増殖性疾患があげられます。しかし、ほかの慢性骨髄増殖性疾患では、フィラデルフィア染色体およびBCR/ABL遺伝子を認めません。

 急性期の場合は、幼若な段階の白血球が著しく増加するという点で、急性骨髄性および急性リンパ性白血病と極めて似た病像を示します。フィラデルフィア染色体の有無、あるいは慢性期が存在していたか否かなどが鑑別材料となりますが、急性期で初めて診断された場合には鑑別が困難な場合があります。

治療の方法

①慢性期

・イマチニブ(グリベック)

 BCR/ABL蛋白のはたらきを抑える薬です。慢性期の症例に対して極めて優れた効果があり、服用を続けた場合には、図10に示したように、血液学的改善およびフィラデルフィア染色体陽性細胞数が減少する確率が非常に高いのが特徴です。

 高価であるなどの問題がありますが、その優れた治療成績により、最初に選択される薬になっています。しかし、十分な効果を得ることができなかったり、副作用(表12)により服用を中止せざるをえない例が約20%にみられます。

 また、この薬のみで完治することは難しいと考えられていることから、効果がある場合でも、長期間にわたり服用を続けることが必要とされています。

・ダサチニブ(スプリセル)、ニロチニブ(タシグナ)

 イマチニブと同様にBCR/ABL蛋白のはたらきを抑える新しい薬です。高価であり、また胸水や心電図異常などの副作用が現れる場合もありますが、イマチニブが効かない場合や、副作用によりイマチニブを続けることができない例などで効果が期待されています。

・インターフェロン

 イマチニブと比較すると効果が得られる確率は劣りますが、インターフェロン療法によりフィラデルフィア染色体陽性の細胞数が減少した症例では、生存期間の延長が報告されています。

 問題点としては、注射薬であることから長期間にわたり自己注射が必要であること、副作用(表13)により継続が困難になる例が約20%あることなどがあげられます。

・経口抗がん薬

 経口抗がん薬であるブスルファン(マブリン)、ハイドロキシウレア(ハイドレア)が白血球数および脾腫のコントロールを目的として使用されることがあります。しかし、この治療法により最終的に病気の進展を防ぐことは困難と考えられています。

造血幹細胞(ぞうけつかんさいぼう)移植

 現在のところ、治癒をもたらしうることがわかっている唯一の治療法です。この治療法を選択するためには、年齢の制限(通常は50~55歳以下)のほか、白血球の型が一致したドナー(骨髄血(こつずいけつ)を提供する人)がいることが必要です。また、移植に伴う合併症の危険もあることから、その適応は慎重に検討されます。

 最近、移植時に行う前処置の治療毒性を軽減した非破壊性(ひはかいせい)造血幹細胞移植も試みられています。

②急性期

 急性期に対しては、投与量を多くしたイマチニブ療法、急性白血病と同様の抗がん薬による化学療法などが試みられます。イマチニブの効果が不十分な例に対してはダサチニブも用いられます。

 造血幹細胞移植については、慢性期での移植と比較すると治療成績が著しく劣るため、適応については非常に慎重に検討されます。

生活での注意

 慢性期では、食事、運動など日常生活全般についての制限はほとんどありません。旅行、スポーツを行うことも原則として問題ありません。

 どの治療法を行っている場合でも、服薬を忘れないようにすることと、定期的な血液検査を受けることが大切です。また、薬剤の副作用が疑われるような症状を認めた場合には、すみやかに医療機関を受診する必要があります。

 急性期で、成熟した白血球や血小板数が少ない場合は、発熱、出血などの症状に十分注意する必要があります。

永井 正


出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

内科学 第10版「慢性骨髄性白血病」の解説

慢性骨髄性白血病(白血球系疾患)

病因・病態・疫学
 慢性骨髄性白血病は造血幹細胞レベルの未分化な細胞に染色体転座t(9;22)(q34;q11.2)が起こることで発症する(図14-10-8A)(Drukerら, 2006;Baccaraniら, 2009).CMLの年間発生率は10万人あたり約1人で,男女比は男性にやや多い.発症率は年齢とともに増加し,発症年齢の中央値は45~55歳である.放射線被曝などが原因となるが,多くの症例で原因は明らかではない.
 t(9;22)によって形成された派生染色体22q-をフィラデルフィア(Philadelphia:Ph)染色体という.Ph染色体上では,22番染色体上のBCR遺伝子と9番染色体上のABL遺伝子が融合遺伝子BCR-ABLを形成する.ABLは基質となる分子のチロシン残基にリン酸を付与するチロシンキナーゼであり,BCR-ABLは恒常的活性型チロシンキナーゼとしてSTAT,PI3K/Akt,Ras/MAPKなどの細胞内のシグナル伝達分子を活性化して,CML細胞に過剰な増殖・生存をもたらす.この結果,骨髄内はCML細胞で占拠され,いずれ末梢血中にもCML細胞が流出するようになる.
経過・症候
 慢性骨髄性白血病を無治療で放置すると,数年続く慢性期の間に付加的染色体異常,Srcファミリーキナーゼの活性化などが起こり,移行期,急性転化期へと病期が進行し,急性白血病様となり予後不良となる(図14-10-9).
 慢性期では自覚症状が乏しく,健診などで偶然発見されることも多い.白血球数が増加すると全身倦怠感,脾腫による腹部膨満感,高ヒスタミン血症に伴う皮膚瘙痒,胃潰瘍もみられる.身体所見では脾腫が40~60%,肝腫が10~20%の症例に認められる.移行期に進行すると,肝脾腫の増悪,発熱などの症状が出現する.急性転化期では急性白血病と同様に骨髄不全による感染症,出血がみられる.
診断・検査
 慢性骨髄性白血病の90~95%の症例がt(9;22)を有しており,これをG-バンド法やFISH(fluorescence in situ hybridization)法などの染色体分析で検出するか(図14-10-8B,C),RT-PCR法でBCR-ABL融合遺伝子を検出することで,確定診断される.G-バンド法には骨髄液を用いるが,FISH法やRT-PCR法は末梢血でも可能である.
1)慢性期:
慢性期では末梢血中に1.2~100万/μLの白血球増加が認められる.最近は健康診断の普及により,軽微の白血球増加で診断される症例も多い.慢性期のCML細胞は分化能を有するため,骨髄球から分節球をピークとする種々の分化段階の顆粒球系細胞が増加し,骨髄芽球の比率は5%未満である.好塩基球数はほぼ全例で増加し,しばしば好酸球増加も伴う.軽度の貧血がみられ,血小板数は30~50%の症例で増加する.骨髄は過形成で,分化傾向を示す顆粒球系細胞が著増している(図14-10-10).赤血球系の造血は.一般に抑制されている.初診時に約30%の症例で骨髄に線維化が認められる.顆粒球系細胞の脾臓の赤脾髄や肝臓の類洞,門脈周囲への浸潤も認められる.生化学検査ではLDH,尿酸,ビタミンB12が高値を示す.好中球アルカリホスファターゼ指数(NAPスコア)は低値である.
2)病期進行診断:
病期進行を診断するための所見として,①白血球数増加(>1万/μL),治療抵抗性の脾腫のどちらかもしくは両者の持続や悪化,②治療でコントロールできない血小板数増加(>100万/μL),③治療と無関係な血小板数減少(<10万/μL),④付加的染色体異常の出現,⑤末梢血中での20%以上の好塩基球増加,⑥末梢血または骨髄での芽球比率の増加(10%以上)あるいは髄外での芽球の増殖がある.①~④は慢性期から移行期への進行,⑤,⑥は移行期から急性転化期への進行の診断に重要である.急性転化期のCML細胞は分化能を失い,芽球のみが増加する.芽球の系統は約70%が骨髄系で,20~30%がリンパ系(ほとんどがBリンパ系)である.また,移行期/急性転化期に病期が進行すると低値であったNAPスコアが上昇する.
3)治療効果判定:
治療が奏功すると,まず血液学的完全寛解(CHR),次に骨髄染色体検査で細胞遺伝学的完全寛解(CCyR)が得られる(図14-10-11).それ以降の微小残存病変は,BCR-ABL mRNAを定量するRQ-PCR法で評価される.体内のCML細胞数が106個以下になると高感度のRQ-PCR法でも微小残存病変が検出されない分子遺伝学的完全寛解(CMR)となる.
治療・予後
1)慢性期CML:
以前に用いられたブスルファン,ヒドロキシウレアは血球数をコントロールできるが病期進行を遅らせず,インターフェロン-α(IFNα)は一部の症例には有効であるものの10年全生存率は約25%にすぎない.骨髄破壊的な同種造血幹細胞移植術(alloHSCT)は,CMLを治癒できる唯一の治療法であり,長期生存率はおおむね50~70%,再発率は20%未満である.しかし,移植時点での病期,年齢などにより治療成績が大きく異なり,移植関連死亡が問題となる.その後開発されたBCR-ABL阻害薬イマチニブは,BCR-ABLとATPの結合を阻害してBCR-ABLのシグナルを遮断する(図14-10-12).イマチニブを未治療の慢性期CML患者に投与した際の8年時点の全生存率は85%(CML関連死亡は7%のみ),病期進行のない生存が92%ときわめて良好な成績である.さらに,イマチニブより強いBCR-ABLの阻害活性を有する第二世代BCR-ABL阻害薬ニロチニブ,ダサチニブが開発され,これらはイマチニブ無効例に有効なだけでなく,初発慢性期CMLに対してもイマチニブより高い治療効果を示す.これらのBCR-ABL阻害薬によってCMRが得られたとしても,薬剤中止により多くの症例が再発することからBCR-ABL阻害薬はずっと継続する必要がある.
2)移行期/急性転化期CML:
移行期/急性転化期CMLにはBCR-ABL阻害薬の効果は限定的であり,移植可能例にはalloHSCTが推奨される.急性転化期CMLには移植前に多剤併用化学療法が必要である.[松村 到]
■文献
Baccarani M, et al: J Clin Oncol, 2009 Nov 2, online publication.
Crawley C, et al: Blood, 106: 2969-2976, 2005.
Druker BJ, et al: N Engl J Med, 355: 2408-2417, 2006.
O'Hare T, Eide CA, et al: Expert Opin Investig. Drugs, 17: 865-878, 2008.

慢性骨髄性白血病(造血幹細胞移植の適応の考え方)

(5)
慢性骨髄性白血病(chronic myelogenous leukemia:CML)
a.予後予測因子
 CMLの予後予測モデルとして広く用いられているのはSokalスコアである.イマチニブの投与後の細胞遺伝学的完全寛解到達率とも相関することが示されている.
b.初発慢性期の造血幹細胞移植の適応
 薬物療法としての標準治療薬であるイマチニブ(あるいはニロチニブ,ダサチニブ)のすぐれた成績から,初発の慢性期CML患者に対してはまずは薬物治療を優先すべきである.しかし,十分な薬物療法を行っても細胞遺伝学的効果が得られない患者(特に既存のチロシンキナーゼ阻害薬が効かないT315I変異を有する症例)に対しては非血縁者間移植も含めて造血幹細胞移植を検討する.
c.移行期,急性転化期における移植成績
 移行期,急性転化後の予後は不良であり,移植を考慮する必要がある.日本造血細胞移植学会が公表しているCMLの急性転化期移植の長期生存率は20%前後である.[神田善伸]
■文献
Koreth J, Schlenk R, et al: Allogeneic stem cell transplantation for acute myeloid leukemia in first complete remission: systematic review and meta-analysis of prospective clinical trials. JAMA, 301: 2349-2361, 2009.
Cutler CS, Lee SJ, et al: A decision analysis of allogeneic bone marrow transplantation for the myelodysplastic syndromes: delayed transplantation for low-risk myelodysplasia is associated with improved outcome. Blood, 104: 579-585, 2004.
Oliansky DM, Czuczman M, et al: The role of cytotoxic therapy with hematopoietic stem cell transplantation in the treatment of diffuse large B cell lymphoma: update of the 2001 evidence-based review. Biol Blood Marrow Transplant, 17: 20-47 e30, 2011.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

デジタル大辞泉「慢性骨髄性白血病」の解説

まんせい‐こつずいせいはっけつびょう〔‐コツズイセイハクケツビヤウ〕【慢性骨髄性白血病】

慢性白血病の一。フィラデルフィア染色体とよばれる遺伝子突然変異により、造血幹細胞に異常が起こり、血球が無制限に増殖する。中年以降に発症することが多い。主症状は極度の疲労感・寝汗・発熱。治療は急速な進行を抑えるための薬物療法が中心で、グリベックチロシンキナーゼ阻害薬)により長期生存率が大幅に改善している。CML(chronic myelogenous leukemia)。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

世界大百科事典内の慢性骨髄性白血病の言及

【白血病】より

…一方,慢性白血病の発病は,非常に緩やかで症状も軽いことが多く,偶然に発見されることも少なくない。慢性骨髄性白血病は,白血球が増えて代謝が亢進するためにおこる倦怠感,微熱,疲れやすさ,脾臓が増大するための腹部膨満感などの症状で気づくことが多い。急性と異なり,血小板が減って出血しやすくなったり,貧血はあっても高度となることはない。…

※「慢性骨髄性白血病」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について | 情報

今日のキーワード

トンガ(国)

太平洋南西部、日付変更線のすぐ西側(南緯約20度・西経約175度)に位置するポリネシア唯一の王国。トンガ海溝に沿って、その西側に南北に連なる諸島をトンガ諸島といい、この諸島をあわせて1970年にトンガ...

続きを読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android