村ハチブ(読み)むらはちぶ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「村ハチブ」の意味・わかりやすい解説

村ハチブ
むらはちぶ

「ムラ」の協同生活からの除名・絶交処分で、村規制の違反者に加える制裁として広く行われてきた。村バネ、村ハジキ、村ハズシ、郷バナシなど異称も多く、またカンナベクライ、ハバアキ、モゲ、ヤカンメシなどの蔑称(べっしょう)もいろいろで、かつては広く行われたことを示している。「村ハチブ」は村人全員の合意で発動され、多く「村寄合」で決議され、本人に通告された。門口に青竹を結い、あるいは注連縄(しめなわ)を張って標示する所さえあって、以後一般に公私ともいっさいの交渉を絶ち、ひそかに交際する者があれば同罪に処するのが常でもあった。もっとも、公的場面からの排除はどこでも共通していたが、私的交際はとくに妨げぬ場合もまれにみられたし、葬式互助や災害防除は例外とすることもあった。ただし、「葬儀と防火」互助の二つを除いていっさいの村交際を断絶するゆえ「村八分」と称するという俗間解釈は誤りで、「ハチブ」の原義はハジク、ハッチル、ハブクなどの語意に通じ、「撥分」と記した古い用例もある。また「村ハチブ」処分では「家族ぐるみ」いっさいの交際を絶たれるのがむしろ通例で、さらには面罵(めんば)を加え、あるいは家まわりで騒音を日夜発して威嚇することさえあった。かつての封鎖的な村落生活でこれがいかに痛烈な苦痛を当人に与えたかは容易に推測できよう。それゆえ、やがて改悛(かいしゅん)のほどを仲介人を通じて申し出て、村寄合の席上などで陳謝し、「コトワリ酒」「アヤマリ酒」などとして酒肴(しゅこう)料を提供してようやく免除されることになる。「詫状(わびじょう)」一札を差し出すのも通例で、また解除後も数年間は会席の末座に列するなど公的場面での差別扱いも続き、その記憶は後代にまで残って村人の戒心の「よすが」ともなったのである。「村ハチブ」の発動理由は村協同生活の規約・慣行の違反行為が主で、用水・共有山・漁場などの用益規制違反や協同作業の懈怠(けたい)、あるいは日常の生活態度がとくに村人の反感を買う場合などで、ときには酒乱・暴行窃盗放火などの刑事的犯罪にわたることもあったが、むしろそれはまれであった。そして近世の「村法」や近代の「村規約」に成文としてこの罰則を明記してある場合も多かった。

 近代法制下では「村ハチブ」は脅迫罪ないしは名誉毀損(きそん)罪にあたることになっており、また人権問題として強い非難を浴びてもいる。にもかかわらず「村ハチブ」の制裁が明治以後も広く残ったのは、いわゆる「ムラ」集団においては除名処分としてそれが唯一の自衛手段にほかならぬからであった。しかし、すでに「ムラ」は制度外の存在と化しており、しかも「村ハチブ」は「居住権」に直接かかわる性質のものゆえ、国家法制上まったく排除されることになったのである。

[竹内利美]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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