村八分(読み)ムラハチブ

デジタル大辞泉 「村八分」の意味・読み・例文・類語

むら‐はちぶ【村八分】

江戸時代以降、村落で行われた私的制裁。村のおきてに従わない者に対し、村民全体が申し合わせて、その家と絶交すること。「はちぶ」については、火事と葬式の二つを例外とするところからとも、また「はずす」「はねのける」などと同義の語からともいう。
仲間はずれにすること。
[類語]排他的閉鎖的自己中排外主義人種主義不寛容のけ者爪弾き仲間外れ排斥排他除名排除疎外排撃擯斥ひんせき指弾人払い厄介払い締め出す弾き出すロックアウトシャットアウト

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精選版 日本国語大辞典 「村八分」の意味・読み・例文・類語

むら‐はちぶ【村八分】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 江戸時代以降行なわれた私刑的な慣習で、村のおきてに違反した者に対して、一切の取引・交際を絶つこと。「はちぶ」については、喪事・火事の二つの場合だけは例外とするところからいうとする説や、仲間からはずす、はねのけるなどの語からきたものであるとする説などがある。むらはずし。むらはじき。むらはね。
    1. [初出の実例]「この秩序の攪乱者は、村八分の制裁を受けねばならなかったのである」(出典:俳句の世界(1954)〈山本健吉〉二)
  3. 転じて、一般に仲間はずれにすること。
    1. [初出の実例]「田舎者根性のもうひとつの特色は、いわゆる村八分を生みだしたりする、共同体志向ということなんじゃないか、と思うんですが」(出典:新西洋事情(1975)〈深田祐介〉植民都市歓迎の背景)

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改訂新版 世界大百科事典 「村八分」の意味・わかりやすい解説

村八分 (むらはちぶ)

日本の村落社会において伝統的に行われてきた制裁の一種で,ムラの決定事項に違反した人物なり家との交際を絶ち,孤独な状態に追いやるもの。より一般的には,村落社会で執行されてきた制裁の総称。〈村八分〉とは,家々の重要な交際の機会10種類のうち,火事と葬式をのぞく8種類の交際を絶つことからいうのだとする俗説が広く流布しているが,根拠はない。ハチブはハブクとかハズスという言葉と関連するものと思われる。ムラがムラの秩序を破った者に対し一定の制裁を加えることは古くから行われてきた。中世の惣村((そう))の掟にも制裁に関する条項がみられ,近世の村法(そんぽう)や明治以降の村規約の中にも多く発見できる。

 制裁の種類としては,罪の軽い順で罰金,絶交,追放という三つがある。もっとも広範に現在なお行われているのは罰金であるが,その歴史は古い。比較的軽い制裁であり,ニワトリを放飼いにした場合,共有山へ規定以外の道具を携帯して入った場合など,個別の行為に対してである。それに対し,絶交と追放は家そのものをムラの成員として認めない制裁であり,非常に厳しいものであった。しかも,絶交の場合,茜頭巾(あかねずきん)をかぶらせたり,縄帯(なわおび)をつけさせるという付加的な制裁を加えることもあった。追放は絶交よりもさらに厳しいもので,完全にムラの外に追い出し,他村へ流れていくようにしたのもあるが,多くは道切り道祖神で守られた平和で安全なムラの中から村境の外へ追放し,さびしい一軒屋の生活を危険な空間で送らせるものであった。絶交にしても追放にしても,制裁を受けた家は孤独な生活を送らねばならなかったが,不安な生活を長く続けることは事実上困難であり,一方で絶交,追放という制裁に期間が定められるということがほとんどなかったことは,制裁がそれほど長期間でなかったことを示している。制裁された家が改悛してムラの秩序と連帯が回復すれば,制裁の目的は達成されたのであり,謝罪したりわびを入れれば制裁は解除された。

 村八分に代表される村落社会での制裁は,ムラの秩序維持のためのものであり,ムラの秩序を無視したり,壊したりする者の出現前提としており,ムラの強固な連帯や結合そのものを示すというよりも,村落秩序の動揺が現れたものと理解される。ムラにおける制裁は近世の年貢村請制のもとで有効な役割を果たし,領主にとっても危険な存在ではなかったが,明治以降の一元的な国家法のもとでは認めがたい存在として否定され,ムラでひそかに行われる陰湿な制裁に転化した。そして,第2次大戦後の人権意識のたかまりのなかで,しばしば村八分が社会的問題となり,ムラの封建性として糾弾された。村八分はすでにムラの連帯を保つために存在するのではなく,多数派少数派を,あるいは全体が自立した個を否定し,押さえ込もうとするために発動するものとなり,その末期的姿を示しているといえよう。
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百科事典マイペディア 「村八分」の意味・わかりやすい解説

村八分【むらはちぶ】

八分とも。村の秩序を乱した者に制裁として交際を断つこと。火事と葬式の二つを除いた八分の交際を断つ意ともいうが,〈はじく〉〈はぶく〉が語源らしい。普通村寄合の席で決まり,所によっては赤ずきんをかぶせたり,村から退去させる。有力者を仲介に立て,酒食を提供して詫(わび)を入れると許されるが,以後ほとんど発言権はなくなる。現代では法律上,共同絶交とも呼ばれ,人権侵害違法行為とされ脅迫罪などに該当するが,村落共同体の規制力が弱まるにつれ無力化した。
→関連項目脅迫罪私刑村寄合

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「村八分」の意味・わかりやすい解説

村八分
むらはちぶ

村社会の秩序を維持するため,制裁として最も顕著な慣行であった絶交処分のこと。村全体として戸主ないしその家に対して行なったもので,村や組の共同決定事項に違反するとか,共有地の使用慣行や農事作業の共同労働に違反した場合に行われる。「八分」ははじく,はちるの意とも,また村での交際である冠・婚・葬・建築・火事・病気・水害・旅行・出産・年忌の 10種のうち,火事,葬を除く8種に関する交際を絶つからともいわれ,その家に対して扶助を行わないことを決めたり,村の共有財産の使用や村寄合への出席を停止したりする。八分を受けると,共同生活体としての村での生活は不自由になるため,元どおり交際してもらう挨拶が行われるが,これを「わびを入れる」という。農業経営の近代化に伴い,各戸が一応独立的に生計が立てられるようになってからは,あまり行われなくなった。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「村八分」の解説

村八分
むらはちぶ

江戸時代を中心として共同体の秩序維持のために村によって行われた制裁行為。暴行窃盗などの刑事犯や村落共同体の秩序を乱す者に対して,火事と葬儀以外の日常的交渉を断絶させること,すなわち残りの八分の村内の日常的な交際関係を絶つということにその名の由来があるとされる。さまざまな迫害行為をともなうこともあった。改悛があったときには詫びをいれさせ,謝り酒を出させるなどの手続きで解除された。近代国家成立後は減少したが,遺風として残された場合もある。村ハジキ・村ハブキ・村ハズシ・村ヲ除ク・惣トシテハズスなどの呼称がある。

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旺文社日本史事典 三訂版 「村八分」の解説

村八分
むらはちぶ

江戸時代の村の農民に対する制裁
村ばね・村はぶきともいう。放火・殺人・共同作業の怠慢・盗みなどの非行によって,葬式と火事の二分を除いたほかは,村民から絶交される処分。入会 (いりあい) 権などを失い,事実上村生活が不可能になった。

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世界大百科事典(旧版)内の村八分の言及

【脅迫罪】より

…告知する害悪の内容は条文に列挙されたものに限られる。判例では,いわゆる〈村八分〉が名誉に対する害悪の告知として脅迫罪になるとされているが,異論もある。人を脅迫する行為は,なんらかの行為を強要するために行われることが多いが,脅迫罪は,その目的を問題としていない。…

※「村八分」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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