日本の村落社会において伝統的に行われてきた制裁の一種で,ムラの決定事項に違反した人物なり家との交際を絶ち,孤独な状態に追いやるもの。より一般的には,村落社会で執行されてきた制裁の総称。〈村八分〉とは,家々の重要な交際の機会10種類のうち,火事と葬式をのぞく8種類の交際を絶つことからいうのだとする俗説が広く流布しているが,根拠はない。ハチブはハブクとかハズスという言葉と関連するものと思われる。ムラがムラの秩序を破った者に対し一定の制裁を加えることは古くから行われてきた。中世の惣村(惣(そう))の掟にも制裁に関する条項がみられ,近世の村法(そんぽう)や明治以降の村規約の中にも多く発見できる。
制裁の種類としては,罪の軽い順で罰金,絶交,追放という三つがある。もっとも広範に現在なお行われているのは罰金であるが,その歴史は古い。比較的軽い制裁であり,ニワトリを放飼いにした場合,共有山へ規定以外の道具を携帯して入った場合など,個別の行為に対してである。それに対し,絶交と追放は家そのものをムラの成員として認めない制裁であり,非常に厳しいものであった。しかも,絶交の場合,茜頭巾(あかねずきん)をかぶらせたり,縄帯(なわおび)をつけさせるという付加的な制裁を加えることもあった。追放は絶交よりもさらに厳しいもので,完全にムラの外に追い出し,他村へ流れていくようにしたのもあるが,多くは道切りや道祖神で守られた平和で安全なムラの中から村境の外へ追放し,さびしい一軒屋の生活を危険な空間で送らせるものであった。絶交にしても追放にしても,制裁を受けた家は孤独な生活を送らねばならなかったが,不安な生活を長く続けることは事実上困難であり,一方で絶交,追放という制裁に期間が定められるということがほとんどなかったことは,制裁がそれほど長期間でなかったことを示している。制裁された家が改悛してムラの秩序と連帯が回復すれば,制裁の目的は達成されたのであり,謝罪したりわびを入れれば制裁は解除された。
村八分に代表される村落社会での制裁は,ムラの秩序維持のためのものであり,ムラの秩序を無視したり,壊したりする者の出現を前提としており,ムラの強固な連帯や結合そのものを示すというよりも,村落秩序の動揺が現れたものと理解される。ムラにおける制裁は近世の年貢村請制のもとで有効な役割を果たし,領主にとっても危険な存在ではなかったが,明治以降の一元的な国家法のもとでは認めがたい存在として否定され,ムラでひそかに行われる陰湿な制裁に転化した。そして,第2次大戦後の人権意識のたかまりのなかで,しばしば村八分が社会的問題となり,ムラの封建性として糾弾された。村八分はすでにムラの連帯を保つために存在するのではなく,多数派が少数派を,あるいは全体が自立した個を否定し,押さえ込もうとするために発動するものとなり,その末期的姿を示しているといえよう。
執筆者:福田 アジオ
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江戸時代を中心として共同体の秩序維持のために村によって行われた制裁行為。暴行・窃盗などの刑事犯や村落共同体の秩序を乱す者に対して,火事と葬儀以外の日常的交渉を断絶させること,すなわち残りの八分の村内の日常的な交際関係を絶つということにその名の由来があるとされる。さまざまな迫害行為をともなうこともあった。改悛があったときには詫びをいれさせ,謝り酒を出させるなどの手続きで解除された。近代国家成立後は減少したが,遺風として残された場合もある。村ハジキ・村ハブキ・村ハズシ・村ヲ除ク・惣トシテハズスなどの呼称がある。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
出典 旺文社日本史事典 三訂版旺文社日本史事典 三訂版について 情報
…告知する害悪の内容は条文に列挙されたものに限られる。判例では,いわゆる〈村八分〉が名誉に対する害悪の告知として脅迫罪になるとされているが,異論もある。人を脅迫する行為は,なんらかの行為を強要するために行われることが多いが,脅迫罪は,その目的を問題としていない。…
※「村八分」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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