児童文学作家、民話研究者。東京・神田に生まれる。本名美代子。東洋高等女学校卒業後、銀行などに勤めたのち、海軍水路部に徴用される。太平洋戦争下に童話を書き始める。長野県に疎開。戦後まもなく、童話を書きためたノートをもって、やはり長野にいた坪田譲治を訪ねる。以後、師事。1948年(昭和23)、帰京して、横浜銀行労働組合書記になる。詩的、象徴的な初期短編をあつめた童話集『貝になった子ども』(1951)で児童文学者協会新人賞受賞。人形劇の演出家で民話研究者でもあった瀬川拓男(たくお)(1929―1975)と知り合い(のち結婚)、民話の世界に目をひらかれる。瀬川とともに民話の採訪に行き、信州の小泉小太郎伝説をみいだす。この伝説をふまえて、長編『龍(たつ)の子太郎』(1960。国際アンデルセン賞優良賞)を書く。貧しさをこえていきたいという民衆の願いがこめられた代表作になる。続いて、『まえがみ太郎』(1965)、『ちびっ子太郎』(1970)など民話の再創造の仕事をする。このほか、子育ての体験を根っこにもつ幼年童話『ちいさいモモちゃん』(1964。野間児童文芸賞)を第一作とする「モモちゃん」シリーズ全6作、『オバケちゃん』(1971)のシリーズ全9作、現代の少年少女が被爆体験と出会う『ふたりのイーダ』(1969)に始まる『直樹とゆう子の物語』五部作(『死の国からのバトン』『私のアンネ=フランク』『屋根裏部屋の秘密』『あの世からの火』)、瀬川康男(1932―2010)絵による『いない いない ばあ』(1967)、司修(つかさおさむ)(1936― )絵の『まちんと』(1983)といった絵本など多様な作品がある。どの作品にも、民話的な構想と語り口が生きているのが松谷文学の特徴といえる。『民話の世界』(1974)や、『ラジオ・テレビ局の笑いと怪談』(1987)といった、現代の社会でも生まれている民話を集大成した『現代民話考』全12巻(1985~1996)、『現代の民話』(2000)などもある。雑誌『びわの実ノート』編集同人。
[宮川健郎]
『『松谷みよ子全集』全15巻(1971~1972・講談社)』▽『『モモちゃん』シリーズ全6作(1978~1992・講談社)』▽『『松谷みよ子あかちゃんの本 いない いない ばあ』(1982・童心社)』▽『『絵本・平和のために まちんと』(1978、新編1983・偕成社)』▽『『現代民話考』全12巻(1985~1996・立風書房)』▽『『松谷みよ子民話珠玉選』全10冊(1986~1998・童心社)』▽『『松谷みよ子全エッセイ』全3冊(1989・筑摩書房)』▽『『オバケちゃんの本』全9冊(1991~2001)』▽『『松谷みよ子の本』全10巻・別巻1(1994~1997・講談社)』▽『『ふたりのイーダ』改装新版(1995・講談社)』▽『『龍の子太郎』(1995・講談社)』▽『『日本の神話』新装版(2001・のら書店)』▽『『読んであげたいおはなし 松谷みよ子の民話』上下(2002・筑摩書房)』▽『『貝になった子ども』『ちびっこ太郎』(偕成社文庫)』▽『『まえがみ太郎』(講談社文庫)』▽『『民話の世界』(講談社現代新書)』▽『『民話十二か月』1~12月の巻(講談社文庫)』▽『『現代の民話』(中公新書)』▽『万屋秀雄著『現代児童文学の展開 現代児童文学作家論2』(1986・大阪教育図書)』▽『神宮輝夫著『現代児童文学作家対談6 いぬいとみこ・神沢利子・松谷みよ子』(1990・偕成社)』▽『宮川健郎著『現代児童文学の語るもの』(1996・日本放送出版協会)』▽『小西正保著『私の出会った作家と作品――児童文学論集』(1997・創風社)』▽『佐藤宗子著『「児童文学」をふりかえる』(1997・久山社)』▽『伊藤英治編『松谷みよ子の本・別巻 松谷みよ子研究資料』(1997・講談社)』▽『万田務著『心の棲み家――昭和の作家群像』(1998・双文社出版)』
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(2015-3-11)
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… そうしたなかで,当時文学的にも社会的にも無名だった若い世代は,模索の手を未明の伝統という聖域へ伸ばし,53年の早大童話会による〈少年文学宣言〉を皮切りに,未明の伝統への否定的克服の道を歩みはじめた。60年,外国児童文学の洗礼を受けた石井桃子,瀬田貞二,渡辺茂男らのグループが《子どもと文学》を刊行したことでその動きはさらに強まり,57年,いぬいとみこの長編幼年童話《ながいながいペンギンの話》を筆頭に,神沢利子,佐藤さとる,中川李枝子,古田足日,松谷みよ子,山中恒らの新人作家がそれぞれの処女作をひっさげて登場,60年を越えた時点で日本の児童文学地図は完全に塗りかえられるに至った。以来今日まで,翻訳や評論・研究の分野を含め,また読書運動など普及の面も含めて児童文学は盛況の一途をたどっている。…
※「松谷みよ子」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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