( 1 )明治時代から見える語だが、当初はもっぱら①の意で使われた。
( 2 )大正から昭和初期にかけて②の軍隊用語として定着したが、第二次世界大戦が始まると、③の意で一般社会でも用いられた。
( 3 )③には「生産疎開」「建物疎開」「人員疎開」の三種類があるが、これは大戦下のソ連における工業施設疎開や、ドイツのベルリンで行なわれた人口疎開に学んで実施されたもの。
太平洋戦争末期,都市への空襲被害を軽減するために,集中している人口,建造物などを分散したこと。政府や軍部は〈空襲恐るるにたらず〉として日本の防空体制は万全であることを宣伝しつづけてきたが,アメリカ軍の本土空襲が時間の問題となった段階になって,ようやく疎開の本格的実施に踏み切った。疎開には生産疎開,建物疎開,人員疎開の3種類があった。生産疎開は,軍需工場の大都市からの分散方針で,早い時期から部分的に実施されてきたが,1944年11月から開始された軍需工場へのアメリカ軍の重点的な爆撃で日本の戦争経済は壊滅的な打撃をうけた。建物疎開は42年の防空法改正,翌年12月の都市疎開実施要綱の閣議決定により推進されることになった。これは防火区域を設定するための空地帯をつくること,重要施設(官公署や軍事施設,軍需工場)を守るため,その周囲の民家をとりこわし空地をつくるものが主だった。建物疎開地域に指定されると住民は強制的に立ち退かされ,家屋はとりこわされた。建物疎開は,初め京浜,阪神,名古屋,北九州の重要都市から開始したが,やがて中小都市にも及び,全国で約60万戸が強制疎開の対象となった。人員疎開も,43年の都市疎開実施要綱の決定から強化されたもので,その主眼点は防空や生産に関係ない老人や婦女子を都市から疎開させることにあり,青壮年など勤労動員の対象となっている人々の疎開は許可されなかった。組織的な人員疎開は,44年夏から本格化した学童疎開によって開始された。
執筆者:粟屋 憲太郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
一箇所に集中する施設、人員などを分散させること。主として日本政府が第二次世界大戦中、空襲の被害を避けるために官庁、軍需工場、民間企業、住宅家屋、人員に対してとった同様処置をいう。1943年(昭和18)11月、本土空襲に対処するため新防空法の一端として実施された疎開は、都市における人員の退避と空襲火災拡大防止のための建物撤去の二つが目的で、疎開の軸となった。人員の疎開としては、〔1〕自発的な意志によるもの、〔2〕勧奨によるもの、〔3〕命令によるものとがあって、親戚(しんせき)、知人を頼って行くものは縁故疎開、命令によって行くものは強制疎開といわれた。強制疎開者は建物疎開地帯の住民であり、家財輸送に優先的便宜が与えられたが、輸送行政面の出遅れ、厳しい荷物制限、費用補助などが少額のため、わずかの身の回りの物を所持しただけの疎開を余儀なくされた。
児童も単独、あるいは保護者とともに縁故疎開を始めるようになったが、学校単位でのいわゆる学童疎開が開始されたのは1944年5月からであった。施策は急速に行われ、学徒動員の学生による建物の取り壊し、疎開荷物を乗せたリヤカーや大八車をひく疎開協力奉仕隊の姿、主要駅の大混雑など、疎開狂乱ともいうべき慌ただしい光景が出現した。
なお近年は、公害防止、地方の労働人口確保、災害に備えての資材やデータの保存の目的から、会社、工場の一部あるいは全部が地方に移転することにも、疎開ということばが使われている。
[梶 龍雄]
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…太平洋戦争の末期,不利な戦局下で予想された空襲の被害を避けるために,大都市の国民学校初等科児童を個人または集団で農村地帯に移住させたことをいう。連合軍による直接的な本土攻撃の危機が増大した1943年12月〈都市疎開実施要綱〉が閣議決定されて都市施設の地方分散がはかられたが,長距離爆撃機B29による空襲が激しくなる中で大都市児童の生命を守るために44年6月〈学童疎開促進要綱〉が決定された。この決定により〈縁故疎開〉を原則としつつ,それが不可能な国民学校初等科3~6学年の児童を半強制的に〈集団疎開〉させた。…
※「疎開」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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