5個または10個の枕を入れておく箱、または木製箱型の枕に蓋(ふた)や引出しをつけて小物入れにも兼用する道具をいう。後者は、元来、長方形で中空の箱を枕としたことから、これに引出しをつけてたばこや小物入れとしても利用されたが、しだいに錠前(じょうまえ)付きのものなどが現れて、枕としてよりも金銭など貴重品の保管に用いられるようになった。
一方、漁師が船で沖へ出るときにも枕箱が携帯された。これは、菅江真澄(すがえますみ)の『小鹿(おが)の鈴風(すずかぜ)』に「横一尺あまり、煙草(たばこ)ほくす附竹、鉤などを入れ、之(これ)を夜は枕としてつゆも身を放たぬもの」と説明されているが、通常小形で中空の箱に防水・防湿のため密閉式の印籠蓋(いんろうぶた)や引出しを備え、中には火打石やマッチなどの発火具、たばこなどを入れ、横になるときには枕にも使用するものである。地方によっては、オキバコ、チゲバコなどとよび、やや大形の木箱を船に携える場合もあり、大形のものには釣り用具や網用具、弁当なども入れた。枕箱には節分に用いた豆を入れておき、海上で船が方角を失ったときに撒(ま)けば占えるという所や、賽(さい)を入れておく所もあり、この海上での呪物(じゅぶつ)に対する信仰は船霊(ふなだま)信仰につながるものがある。
[野口武徳]