日本大百科全書(ニッポニカ)「林学」の解説
林学
りんがく
forestry 英語
Forstwissenschaft ドイツ語
産業としての林業を対象とする科学および技術を研究する学問。その場合、林業にとって土地(森林)は、単に産業(木材生産など)の基盤としてだけでなく、国土・環境保全の役割をもつ森林としても重要である。したがって、林学は、国民の住生活などに必要な資材を提供する林業生産の維持発展を追究するとともに、人間生活と森林とのかかわり合いを調和あるものとさせ、森林資源の再生産を図ることを課題とする。林学は応用科学として自然科学(技術)と社会科学(経済)を結合させている学問で、技術の系統には造林学、森林保護学、森林利用学、林産学、砂防工学が属し、経済の系統には林業経営学、林業経済学が含まれる。造林学は森林の維持造成を、森林保護学は森林被害の予防・駆除を、森林利用学は木材の伐採・搬出を、林産学は木材の物理的・化学的性質およびその利用方法を、砂防工学は森林の理水・砂防を取り扱い、林業経営学は林業の長期生産計画とそのために必要な調査方法を、林業経済学は林業の経済政策とその政策原理を研究対象とする学問である。
林学としての学問が体系化されたのは19世紀初頭のドイツにおいてである。ドイツ諸王侯が領有する財産の有効な管理運営の研究に始まり、木材生産の平均的・保続的な収穫実現を目ざす経営技術の確立が林学を独立科学として分化させた。わが国で林学専門の大学教育が発足するのは、帝国大学農科大学(現東京大学農学部)に林学科が設けられた1890年(明治23)のことで、ドイツのターラント林科単科大学創立80年後である。その後、明治末から昭和初めにかけて全国各地の大学に林学科が開設される。その後、科学技術の発展とともに林学から独立して林産学を形づくるようになり、1950~65年に林産学科が新設された。さらに、1990年(平成2)を前後して、全国の農学部は一斉に明治以来初めての、きわめて大幅な改革と編成替えを断行した。多くの大学で複数の学科が統合され、その結果、林学、林産学の学科名称が消えた。また、学科の規模が維持できたところでも、産業としての林業学の意味合いよりも、森林環境学を前面に出した森林科学が一般名称となった。
[笠原義人]
『大政正隆監修『森林学』(1978・共立出版)』▽『木平勇吉編『森林科学論』(1994・朝倉書店)』▽『只木良也著『森林環境科学』(1996・朝倉書店)』