日本大百科全書(ニッポニカ) 「林家経済」の意味・わかりやすい解説
林家経済
りんかけいざい
林家が営む経営・生活の総体。林家とは、世界食糧農業機関の提唱で10年に一度行われている世界農林業センサスで定められた、山林を保有する世帯のことである。1990年(平成2)センサスでは、林家は山林保有面積0.1ヘクタール以上とされ、日本では総数251万戸であった。調査の中間年に日本が独自に行う農林業センサスでは、2005年(平成17)は調査対象の林家の下限が1ヘクタールとされたため、戸数は90万戸となっているが、10ヘクタール未満の林家が9割を占めている。また、2005年センサス以降、「林業経営体」が政策的対象に絞られつつある。林業経営体とは、保有山林の面積が3ヘクタール以上で2005年を計画期間に含む森林施業計画を作成している、委託を受けて育林を行っている、委託や立木購入により過去1年間に200立方メートル以上の素材生産を行っている、といういずれかに該当するものをいう。経営体数は20万である(2005)。
第二次世界大戦前から1950年代までは、薪炭生産を中心とした林業所得が林家にとって重要な位置を占めていたが、薪炭生産の解体、用材林業(育林生産)への転換以降は、林業所得をあげうる林家はごく少数の中・大規模層に限られている。しかし、木材価格の高騰、補助金行政、農業生産の一定の展開に支えられて、農民的林業(小規模農家林家の育林生産)が1950年代中葉と1960年代初頭に二つのピークをなして伸展したことは注目しておかなければならない。今日世界に類がないように、人工造林面積が1000万ヘクタール以上にも達しているのも、こうした努力の成果だからである。
高度成長期以降、外材体制の深化、木材価格の低迷、林家経済を支える山地農業のスクラップ化と林家の離村、賃労働者化が進み、個別林家による林業生産は年々著しく後退してきている。林家の主業別構成比は、1960年(昭和35)には農業が78%も占めていたが、以降、農業主業林家は1990年(平成2)の32%に激減し、「恒常的勤務」を主業とする林家が増大している。近年では、50ヘクタール以上保有する林家にあっても平均林業所得は2004年の47万円から2008年の10万円に著減するなど、林業所得に主として依存する林家はほとんどいない。また、固定した雇用先への年間就労という意味で「恒常的勤務」ではあっても、その賃金水準や社会保険の適用水準は低劣で、不安定就労を余儀なくされている者も多い。事実、茶、コンニャク、小梅、きのこなど商品作物の導入と定着に向けての試行錯誤はいまでも続けられており、農業に対する期待も残っている。林家経済の安定化は、林業振興の前提的条件である。外国農林産物への輸入規制、価格あるいは所得保障、地場における雇用条件の抜本的改善などが強く求められている。
[野口俊邦]