日本大百科全書(ニッポニカ) 「林業政策」の意味・わかりやすい解説
林業政策
りんぎょうせいさく
forest policy
林業政策とは、林業に関する国家や自治体が関係する産業政策をさし、林業経営の育成、人材の育成、林産物の供給確保にかかわるものに分けられる。しかし、現実には立地条件や森林の機能などと関連して、森林資源政策、土地政策、財政政策、治山治水政策、山村地域政策、環境政策などと関連して進められている。
[飯田 繁・佐藤宣子]
第二次世界大戦前の林業政策
江戸時代の林業政策は、幕藩財政強化を目的とした直轄経営、農民による分収造林制度と森林の荒廃防止を目的とした利用制限、禁伐制度を軸に展開した。
明治政府の形成とともに幕藩の直轄林は明治政府に移されたが、その他の森林原野は土地官民有区分、地租改正によって所有が明確にされた。しかし、この過程において多数の入会(いりあい)林野が国有林に編入されたため、各地に反対運動が起こった。政府は1899年(明治32)国有土地森林原野下戻(さげもどし)法によって一部を民有林に移管したものの、大部分は国有林として囲い込んだ。
明治政府の林業政策は、国有林を軸に推進されるが、木材需要は少なく、富国強兵がうたわれた時期であり、国家財政へ寄与すること、軍艦などに使用する大材を生産すること、などをおもな目的とした。民有林に関する政策は、1897年(明治30)第1次森林法の制定によって始まり、同法は木材の安定供給と治山治水を目的に掲げた。しかし、森林法は保安林制度の創設や森林の開墾規制などによる森林保護・規制という側面が強く、木材生産は市町村財政の強化という点において重視された。
第一次世界大戦から日中戦争の時代になると、日本の木材需要は徐々に増大し、それに対応して林業政策は、財政的、治山治水的視点からしだいに木材増産視点へと変わっていった。また、昭和恐慌以降は、農村安定という視点から、中小規模の林業経営を補強するための民有林政策が強化された。戦争の拡大にあわせて、国有林の増伐が始まる。民有林では、1939年(昭和14)の第3次森林法によって森林組合制度が改定され、半強制的な伐採が強行された。その結果、大量の伐採跡地が放置され、山林の荒廃が広がっていった。
[飯田 繁・佐藤宣子]
第二次世界大戦後の林業政策
戦後民主化の一環として1947年(昭和22)に御料林が国有林へ移管され、また、国有林主導の木材増産対策をいっそう強化するために北海道国有林と府県国有林が統一された。民有林では、荒廃した森林を復旧するため、造林補助金が公共事業費として支出された。さらに、森林法の改正(1951)によって伐採が規制されるとともに、伐採跡地の造林が義務づけられた。しかし、高度成長に伴う木材需要の増大は、国産材の供給能力を超え、木材価格の高騰を招来した。そのため、1961年、木材価格安定緊急対策がたてられ、国有林の増伐がさらに実施されるとともに、大量の外材を輸入する道が開かれた。また、木材価格の高騰は林業の造林投資利回りを上昇させ、中小規模の農家林家を中心に活発な造林がなされた。1960年、農林漁業基本問題調査会は家族経営的林業を担い手として林業生産性の発展を図ることを答申した。それを受けて担い手と林業構造に関するさまざまな議論がなされた後、1964年に林業基本法が制定された。その下で林業構造改善事業が講じられ、おもに森林所有者の協業体である森林組合の経営基盤の強化が図られた。しかし、高度成長に伴う木材需要の増大に対し、国産材の供給能力は限界に達し、丸太の輸入関税が撤廃され、外材が大量に輸入されることになった。1969年には外材が国産材を上回り、以後、為替(かわせ)相場などの影響を受け、国産材の生産量はしだいに低下していった。
1980年から市町村ごとに林業関係者を組織し、活性化を図ろうとする「地域林業」政策や、1991年(平成3)に流域ごとに林業活動を再編しようとする「森林の流域管理システム」政策が打ち出された。しかし、山岳林が多く機械化の困難性や森林資源の未熟性といった不利な条件に加え、林業就業者の高齢化、若者の林業離れ、不在村所有者の増加などが重なり、国産材生産の減少傾向が続いた。さらに1985年のプラザ合意以降の円高は外材製品の輸入を増大させ、2000年(平成12)の木材自給率は18.2%となった。一方で、森林に対する国民の要請の多様化や持続可能な森林経営に向けた国際動向などを受け、林業基本法は、2001年に森林・林業基本法に改正された。同法は、森林の多面的機能の持続的発揮を基本理念の第一に掲げ、その目的を達するために林業の健全な発展が必要と位置づけた。2003年には「地球温暖化防止森林吸収源10カ年対策」が決定され、削減カウントに参入するために間伐が促進された。
さらに、基本法の改正後、2000年代後半になって林業再生の兆しが現れている。国際的な木材需給の逼迫(ひっぱく)と国内の人工林資源の充実のなかで、南九州や東北、北海道などで木材産業が国産材利用を拡大し、2009年の木材自給率は27.8%まで回復した。こうしたなかで、2009年に政権交代した民主党は、森林・林業の再生を新成長戦略の一つに位置づけた。同年、10年後に木材自給率50%を実現するとした「森林・林業再生プラン」が示され、それを反映した「森林・林業基本計画」が2011年7月26日に閣議決定された。同計画は、路網の整備、森林施業の集約化および必要な人材育成を軸として、効率的かつ安定的な林業経営の基盤づくりを進めるとともに、木材の安定供給と利用に必要な体制を構築し、日本の森林・林業を早急に再生していくための指針と位置づけられている。このように、林業政策は大きな転換点にある。
[飯田 繁・佐藤宣子]
『日本林業調査会編・刊『諸外国の森林・林業――持続的な森林管理に向けた世界の取り組み』(1999)』▽『堺正紘編著『森林政策学』(2004・日本林業調査会)』▽『林業経済学会編『林業経済研究の論点――50年の歩みから』(2006・日本林業調査会)』▽『梶山恵司著『日本林業はよみがえる――森林再生のビジネスモデルを描く』(2011・日本経済新聞出版社)』▽『遠藤日雄編著『現代森林政策学』改訂版(2012・日本林業調査会)』