改訂新版 世界大百科事典 「染韋」の意味・わかりやすい解説
染韋(革) (そめかわ)
皮革工芸の一種。韋はウシ,ウマ,シカ,サルなどのかわを柔らかくなめした〈なめしがわ(鞣韋)〉のことで,トラ,クマ,イノシシなどの毛のある生皮を意味する〈皮〉,毛を取りあぶらを抜いて堅くした〈つくりがわ(理革)〉を意味する〈革〉とは区別される。染色するには主として〈韋〉を用い,なかでもシカの韋が多く,文様を染めるには,文様を切り抜いた型紙を当てて染料を引く。文様をあらわした染韋を〈絵韋(革)(えがわ)〉ともいう。色をつけた韋には,ほかに熏韋(ふすべがわ)があり,これは型紙を当てた韋にスギの葉をふすべて褐色に着彩したものである。日本における遺品としては,正倉院の大刀,胡簶(やなぐい)などの懸(かけ)に紅紫韋,馬具に花文熏韋が用いられており,東大寺に山水文を精妙に描いた熏韋の箱覆(はこおおい)がある。中世では染韋はおもに甲冑(かつちゆう)に用いられ,目結(めゆい),五星,菖蒲,小桜,不動三尊,獅子牡丹,鴛鴦(おしどり)などいろいろの文様を出した韋がつくられた。それらの染韋のうち,藍韋,小桜韋などは威毛(おどしげ)に,五星韋は小縁に,菖蒲韋は化粧板に,絵韋は弦走(つるばしり),金具所の包韋として使われた。絵韋にはその文様に時代的変化があって,平安時代末から鎌倉時代初めにかけては襷入(たすきいり)の窠文(かもん)や獅子円文,鎌倉時代には襷文にかわって獅子牡丹文,菊枝文,不動三尊文などの絵画的文様がおこなわれ,南北朝以降は獅子牡丹文が小型になり形式化した藻獅子の韋が生まれ,また正平6年(1351)の年紀を染めた正平韋などがつくられた。近世には武家や庶民の間で用いられた巾着(きんちやく),鼻紙袋,煙管(きせる)袋の類に染韋が応用され,京都,大坂,姫路でそれらの染韋がつくられたが,明治時代にはいってから東京駒込の小林総斎,小伝馬町の稲塚米吉らの工人によってもつくられるようになった。
→革細工
執筆者:岡田 譲
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報