巾着(読み)キンチャク

デジタル大辞泉 「巾着」の意味・読み・例文・類語

きん‐ちゃく【巾着】

布や革などで作った、口をひもで締める小さな袋。金銭・薬などを入れて持ち歩いた。
腰巾着」に同じ。
江戸時代私娼の一。
遊女屋遣手婆やりてばば
「―は亭主を砂利場辺に置き」〈柳多留拾遺・六〉
[類語]ポーチウエストポーチ腰巾着

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精選版 日本国語大辞典 「巾着」の意味・読み・例文・類語

きん‐ちゃく【巾着】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 布、帛または革などで作り、口に緒をめぐらして引き括(くく)るようにした袋。中に金銭や薬などを入れて携帯できるようにしたもの。金入れ。財布
    1. 巾着<b>①</b>〈和国諸職絵尽〉
      巾着〈和国諸職絵尽〉
    2. [初出の実例]「忍禅房金著より文を取出と見て夢覚了」(出典:多聞院日記‐天正八年(1580)二月二八日)
  3. いつも人のそばを離れない者。また、いつもある人のそばにくっついてごきげんをとる人を軽蔑していう語。腰巾着。
    1. [初出の実例]「あまやかす子は親の巾着」(出典:雑俳・楊梅(1702))
  4. 江戸時代、売春婦の異称。巾着女。
    1. [初出の実例]「此外に巾着と云もの有」(出典:浮世草子・好色文伝受(1688)一)
  5. 妓楼で遊女の監督などにあたった遣手婆(やりてばば)の異称。
    1. [初出の実例]「巾着は亭主を砂利場辺におき」(出典:雑俳・柳多留拾遺(1801)巻一四上)
  6. 口元のしまりのよいもののたとえ。特に女陰などにいう。
    1. [初出の実例]「そなたは蛸(たこ)じゃの巾着(キンチャク)のと、めったむせうに誉そやし」(出典:浄瑠璃・忠臣一力祇園曙(1798)大星屋敷)
  7. 客のことを人形浄瑠璃社会でいう。
    1. [初出の実例]「むなぐらをとられて行しやんま山 巾着しぶいたみねの松風〈由平〉」(出典:俳諧・大坂独吟集(1675)下)

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改訂新版 世界大百科事典 「巾着」の意味・わかりやすい解説

巾着 (きんちゃく)

主として腰に下げる装身具の一つで,皮,ラシャそのほか高級織物でつくられ,口を緒でくくり,中にお守札,金銭,印形などを入れるのに用いた。もともと,巾着は火打袋の変化したもので,道中用の腰に下げる火打袋には,皮袋の下に火打鎌(かま)をつけて袋の中には火打石と火口(ほくち)を入れたもの,または袋の中に両者を入れたものもあった。火打袋が袋物であったところから銭を入れるのに便利であり,銭入れとして実用した話が《太平記》に見えている。江戸時代に入ると巾着師という巾着を専門につくる職人があらわれ,元禄時代には皮製品が多く使われたという。その後巾着は実用と同時に装飾を兼ねた提物(さげもの)となり,印籠(いんろう)とともに華美を競うようになった。江戸時代末期になると女夫(めおと)巾着といって守袋と銭入れを兼ねたちりめん製のものが考案され,婦女子の間に人気を呼んだ。当時巾着に金銭を入れたところから,これをすりとる者を巾着切りといい,また絶えず人について歩いている人のことを腰巾着と呼ぶ言葉さえ生まれた。民間の俗信として除夜の鐘の打ち終わらぬ間に巾着をつくると金に不自由しないといい,正月の子どもお年玉としてこれをつくる習俗があった。明治時代に入り,財布,蝦蟇口がまぐち)などの普及に伴い巾着はただ児童用の装身具となってしまったが,洋服の普及に伴いこの必要もみとめられなくなり,迷子札とともにしだいにすたれた。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「巾着」の意味・わかりやすい解説

巾着
きんちゃく

袋物の一種。和装の場合、腰に下げたところから、腰巾着という名称も使われた。実用と装身具的な役割を兼ね、主として硬貨や印判を収める小さな袋物である。袋の材料は絹織物綿織物羅紗(らしゃ)、革類。その形態も円形、楕円(だえん)形、干柿(ほしがき)形などさまざまで固定してはいない。巾着の口紐(くちひも)は打ち紐や革紐を用いた例が多い。革巾着なめし革、印伝革(いんでんがわ)に模様を描いたものが用いられている。元来、発火用具入れの火打ち袋から発したもので、江戸時代初期には前巾着といわれて帯の前(前身頃(まえみごろ))のところに下げ、小銭入れとして使用された。最初の巾着は打ち紐だけであったが、のちには印籠(いんろう)、たばこ入れと同様に、口紐につけた根付(ねつけ)を帯に挟んで腰に下げるようになった。さらに幼児では、迷子札を板や金属板でつくっていっしょに下げたが、この風習は、東京では大正末期まで行われた。江戸末期に現れた女夫(めおと)巾着は、巾着の中を二つに仕切って、一方を小銭入れ、他方を薬や守り札を入れて、非常の際に役だつようなくふうを凝らしたものである。

 また、巾着に硬貨を納めていたところから、これをかみそりで切り取るすりを巾着切と称し、彼らは一時町中を横行した。

 その後財布の発達により巾着の利用は減じた。巾着も明治以降になると、毛糸編物、レースあるいはビーズなどでもつくられたが、財布、がまぐちの普及で祝儀の際の装身具と化した。

[遠藤 武]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「巾着」の意味・わかりやすい解説

巾着
きんちゃく

小物を入れる袋物の一つ。革,布,編物などを袋とし,口を緒で絞めくくる。ハンドバッグにも応用されている。昔の火打袋から出たもので,『秋草』下巻に「印籠巾着の事,室町家の頃まではなかりしものなり,是又近世のものなり,室町家の頃まで腰刀に火打袋を付くる事有しなり,巾着は此火打袋の変作なるべし」とある。その後,17世紀末頃には巾着の上に帯皮をつけ前で帯に下げる前巾着ができた。また『栄花咄』に「禿 (かむろ) も一分の四五十づつは浮世巾着に絶さず」とある浮世巾着は,江戸時代末頃より主として花街で用いられたものだが,形態は前巾着と変らない。

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百科事典マイペディア 「巾着」の意味・わかりやすい解説

巾着【きんちゃく】

口を紐(ひも)で締めた,腰に下げる袋物。火打道具を入れた火打袋の変化したもので,金銭,印章,お守りなどを入れた。江戸時代には専門の巾着師によって,革,羅紗(らしゃ),高級織物などで華美なものが作られ,巾着切り,腰巾着などの語もできたが,明治になって財布や蟇口(がまぐち)が普及してすたれた。
→関連項目染韋(革)

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