改訂新版 世界大百科事典 「核酸発酵」の意味・わかりやすい解説
核酸発酵 (かくさんはっこう)
5′-イノシン酸(5′-IMP),5′-グアニル酸(5′-GMP)などの呈味性ヌクレオチドをはじめとするきわめて多数の核酸関連物質が微生物によって生産されることを総称していう。
呈味性ヌクレオチドの生産
1913年に小玉新太郎は鰹節のうま味の主成分がイノシン酸のヒスチジン塩であると報告した。60年になり国中明は5′-IMP,5′-GMP,5′-キサンチル酸(5′-XMP)などのヌクレオチドがすぐれた呈味性を有すること,またこれらの化合物がグルタミン酸ナトリウムと強い相乗効果を有することを見いだした。鰹節のうまみは5′-IMP,シイタケのうま味は5′-GMPで,現在グルタミン酸ナトリウムに5′-リボヌクレオチドを88:12の割合でコーティングしたり,顆粒(かりゆう)にした複合調味料が市販されている。呈味性ヌクレオチドの工業的製造法は,1959年国中明,坂口謹一郎ら,つづいて大村栄之助,緒方浩一らにより,酵母RNAの微生物酵素による分解法として開発され,61年ころから生産が開始された。
現在実施されているIMP,GMPの生産法は次の三つに大別される。(1)酵母RNA分解法では,RNAはCandida utilisあるいはSaccharomyces cerevisiaeなどの酵母を亜硫酸パルプ廃液または廃糖蜜を糖源として培養した菌体から食塩水で抽出する。このRNAを国中らはPenicillium citrinum,大村らはStreptomyces aureusの5′-ホスホジエステラーゼを作用させて,それぞれ5′-のAMP(アデニル酸),GMP,CMP(シチジル酸),UMP(ウリジル酸)に加水分解する。後者の菌ではAMPを脱アミノしてIMPにする酵素も含んでいるのでAMPは自動的にIMPに変換される。P.citrinumではさらにコウジカビAspergillus oryzaeのAMPデアミナーゼを作用させてAMPからIMPを得る。RNAを水酸化カルシウムでほぼ定量的にヌクレオシドに加水分解し,生成したアデノシン,グアノシンを化学的にリン酸化してAMP,GMPを得る方法も工業化されている。(2)発酵法と合成法の組合せによる方法では,枯草菌の変異株を用いてイノシンまたはグアノシンを発酵生産し,これを化学的にリン酸化してIMP,GMPを得る。巨大菌Bacillus megateriumの変異株を用いて5-アミノ-4-イミゾールカルボキサミド-リボシド(AICA-R)を発酵生産し,化学的にグアノシンにし,リン酸化してGMPを得る方法もある。(3)直接発酵法ではBrevibacterium ammoniagenesの変異株を用いてIMPまたはXMPを発酵生産し,さらに他の変異株によりXMPをGMPに変換する。
その他の核酸関連物質の生産
呈味性ヌクレオチドから出発した核酸発酵の研究はその後食品添加物としてでなく,医薬などにも多くの用途をもつ種々の核酸関連物質の発酵にまで発展し,アミノ酸発酵とならぶ日本独自の工業をつくりあげた。その代表的なものとしては,イノシン,ATP(アデノシン三リン酸),ADP(アデノシン二リン酸)などのヌクレオシドポリリン酸,種々の糖ヌクレオチドやCDP(シチジン二リン酸)-コリン,CDP-エタノールアミン,FAD(フラビンアデニンジヌクレオチド),NAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド),コエンザイムA(CoA)などの補酵素その他の生理活性ヌクレオチド誘導体の微生物による生産がある。
→発酵工業
執筆者:相田 浩
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報