改訂新版 世界大百科事典 「楽器博物館」の意味・わかりやすい解説
楽器博物館 (がっきはくぶつかん)
楽器を展示する専門的博物館。音楽史的に重要な役割を果たした楽器を展示するものが主だが,鍵盤楽器,自動楽器また民俗楽器など範囲をしぼったものもある。さまざまな楽器を包括的に整え市民の教養にこたえる教育的なものから,歴史的楽器を中核として楽器学の研究のためのものもあり,後者が最も今日的な形といえよう。これは20世紀に入って古楽の価値が再認識され,また民俗音楽に光があてられたことによって楽器の重要性が認識され,楽器に関する歴史的研究という新しい学問が進んできたことと無関係ではない。現代の活動的な楽器博物館では収集品が単に量的に多いことだけでなく,所蔵品の質,所見の容易さ,保存の状態,個々の楽器に関する資料の整備などが問われている。また正確なカタログの発刊,所蔵楽器による演奏レコード,重要楽器の設計図の配布,保守と修復に関する報告を年報で刊行することなどに力を入れている。さまざまな楽器から我々が学ぶものは,(1)ある時代の楽器の機能の理解によってその時代の音楽像を正しく再現すること,(2)楽器の形態や装飾に学ぶその時代の美意識,(3)製作技術の変遷などであろう。楽器博物館は,宮廷,教会,寺院,神社などで本来は演奏の目的で収集されていたもの,また富裕な貴族や市民による美術品としても価値の高い楽器の収集などが母体となり統合されて博物館に発展した例が多い。
日本では奈良時代に外来の音楽家によって30種ほどの大陸の楽器が演奏された。それが12~13種に淘汰され,保存されたのが正倉院の楽器である。ヨーロッパの代表的な楽器博物館の一つであるウィーン美術史美術館の所蔵楽器は,16世紀チロル大公フェルディナントのアンブラス城所蔵楽器と,17世紀から発展したオピッツィ家の所蔵楽器が第1次大戦後に合併されたものである。
執筆者:大橋 敏成
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報