英語のpower politicsということばの訳語。普通、権力政治と訳されるが、力の政治、力の政策などとも訳される。国内政治の面では、露骨な権力によって支配する専制的・独裁的な方法をいう場合があり、対外政策の面では、軍事力の誇示ないし威嚇によって目的を達する仕方を権力政治という。しかし、国際政治学のいくつかの学派では、国際政治をパワーpowerの獲得と行使をめぐって展開されるものとみており、国際政治は権力政治であるという考え方をとっている。
1930年代に入って、ファシズムのような独裁的・侵略的な体制が猛威を振るうと、それまで国際道義や国際法の役割を重視した国際政治学は、現実主義的な学派に席を譲り、国際政治は権力をめぐる闘争であるとする見方が広がった。F・シューマンやE・H・カーなどがその学派の先駆であるが、H・モーゲンソーは権力政治の概念をより徹底させて、道義や法などもパワーの一つであると考えた。パワーの観点からみるとき、国家の政策は、パワーの維持(現状維持政策)、パワーの拡大(帝国主義)、パワーの示威(プレステイジ政策)の三つに分けられる、とした。いわば彼によれば、国際政治における権力は自己目的なのである。
しかし、国際政治は確かに権力政治を重要な要素としているが、国際政治がもっぱら権力政治であるとみるのは一面的である。権力という概念自体が本来あいまいであり、軍事力に限られない複雑な要素からなっている。モーゲンソーはパワーの要素として、地理、天然資源、工業力、軍備、人口、国民性、国民の士気、外交の質、政府の質をあげている。測定の可能なものもあり、不可能なものもあって、機械的に集計して一国の力だというわけにはいかない。国際政治を権力政治とする見方そのものが、国際政治をいよいよ権力政治的にしているという側面を見逃すべきではない。モーゲンソーの考え方にかえて、国際政治を諸国の相互依存という観点から把握しようとする立場も現れ、諸国家がそれぞれ国家的利益を追求する権力政治的見方にかえて、全世界的な利益を優先させなければならないとする見方もしだいに有力になっている。
[斉藤 孝]
『E・H・カー著、井上茂訳『危機の二十年』(1952・岩波書店)』▽『F・シューマン著、長井信一訳『国際政治』上下(1973・東京大学出版会)』▽『H・モーゲンソー著、鈴木成高・湯川宏訳『世界政治と国家理性』(1954・創文社)』
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(坂本義和 東京大学名誉教授 / 中村研一 北海道大学教授 / 2008年)
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…国内政治であれ国際政治(世界政治)であれ,政治の本質は権力闘争にあるというとらえかたは,古来,政治的リアリズムの思惟を触発してきたもっとも一般的な政治観である。この視点から遂行される政治をパワー・ポリティクス(権力政治)という。そこでは権力の獲得,拡大,維持が政治行動の規範となる。…
※「権力政治」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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