機械受容器(読み)きかいじゅようき

日本大百科全書(ニッポニカ) 「機械受容器」の意味・わかりやすい解説

機械受容器
きかいじゅようき

動物がもつ、力学的な変形や振動の受容器をいう。脊椎(せきつい)動物の筋紡錘腱紡錘(けんぼうすい)、および節足動物がもつ張受容器(ちょうじゅようき)は、筋肉の伸縮と張力に関する受容器で、いずれも姿勢や運動の制御に重要な働きをする自己受容器である。節足動物甲殻類の腹部体節にある張受容器は、1本の縦走筋に樹状突起を張った神経細胞で、この筋肉の伸展に応じた脱分極性の受容器電位を発生し、この電位に応じた頻度のスパイク放電を中枢に伝える。樹状突起には抑制性の神経支配がある。一方、脊椎動物の筋紡錘も同様の機構をもつが、抑制性神経支配はみられない。高等脊椎動物の皮膚にある触受容器には、メルケル触覚盤、マイスナー(マイスネル)小体、パチニ小体、毛根終末などがあるが、多くの神経繊維が、たとえば圧迫と温度上昇のような異種の刺激に反応するいわゆる複特異性をもつために、特定の感覚に対応する受容器を同定することはむずかしい。また、脊椎動物の魚類両生類には、側線器から内耳有毛細胞に至るまで、聴側線系といわれる同一の起源をもつ一群の受容器がある。その基本型は、数十本の微絨毛(じゅうもう)(不動毛)と1本の繊毛(動毛)をもつ二次感覚細胞(シナプスを経たのち求心性神経軸索にインパルスを発生させる)である。側線器は水流の受容器であり、内耳前庭においては運動および平衡感覚に関与する。また哺乳(ほにゅう)類がもつ蝸牛(かぎゅう)のコルチ器官にある有毛細胞は音波の受容器であり、成体では動毛がない。同様に、クラゲ巻き貝など多くの無脊椎動物にも有毛細胞をもつ平衡胞がある。一方、節足動物には有毛細胞がなく、毛状感覚子、鐘状(しょうじょう)感覚子などが発達する。機械刺激受容細胞には、細胞に加えられた張力や圧の変化を膜電位変化に変換する仕組みがある。伸張により活性化されるイオンチャンネル(Stretch Activated Ion Channel、SAチャンネル)は、ほかにも筋細胞、卵細胞、大腸菌にまで広く知られ、細胞の力学的変形のほか、浸透圧低下による膨潤にも反応するとされる。

 多くのSAチャンネルはCa2+、Na+などの陽イオンに、比較的選択性の低い透過性をもつが、K+またはCl-透過型のものもある。

村上 彰]

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