武悪(読み)ブアク

デジタル大辞泉 「武悪」の意味・読み・例文・類語

ぶあく【武悪】

狂言主人から武悪を討つよう命じられた太郎冠者が、殺すに忍びず逃がしてやるが、道で主人と武悪が出会ってしまう。一計を案じて武悪は幽霊に化け、主人をさんざん脅かす。
狂言面の一。目尻の下がった大きな目、下唇をかみしめ上歯を見せた口などが特徴のこっけいな鬼の面。鬼・閻魔えんまなどに用いる。

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精選版 日本国語大辞典 「武悪」の意味・読み・例文・類語

ぶあく【武悪】

  1. [ 1 ] 狂言。各流。太郎冠者は主人に不奉公な武悪を成敗するように命じられるが、殺すに忍びず逃がす。ところが、武悪は鳥辺野で太郎冠者を連れた主人にみつかってしまう。武悪は太郎冠者の機転で幽霊になりすまし、あの世での主人の亡父の話をして、父を懐かしむ主人から太刀(たち)、扇などをもらう。
  2. [ 2 ] 狂言面の一つ。一見、鬼の顔を思わせるが、上歯を一文字に表わし、腫(は)れぼったいまぶたの大きな下がり目など、滑稽で気弱な感じをも示す。鬼、閻魔などに用いられる。
    1. 武悪<b>[ 二 ]</b>
      武悪[ 二 ]
    2. [初出の実例]「ふところより取いだし、ぶあくのめんきて」(出典:虎明本狂言・伯母が酒(室町末‐近世初))

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改訂新版 世界大百科事典 「武悪」の意味・わかりやすい解説

武悪 (ぶあく)

狂言の曲名雑狂言大蔵,和泉両流にある。主人は召し使う武悪の不奉公を怒り,同じく召し使う太郎冠者に,武悪を成敗するよう命ずる。太郎冠者は主人の太刀を持って武悪の家を訪れる。相手は武芸に秀でているので,主人へ魚を進上するように勧め,武悪が川の中で魚を捕るところをだまし討ちにしようとする。が,友情が先立って討ち果たせずに逃がしてやり,主人には〈武悪を討ち取った〉と偽りの復命をする。その後,主人は冠者を伴い東山辺に来ると,武悪が現れる。冠者はあわてて主人の目をさえぎり,ちょうど鳥辺野(とりべの)が近いのを幸い,武悪に〈幽霊に化けて出てこい〉と勧める。武悪は,主命に背いて苦しむ幽霊の姿で再び登場し,あの世で大殿様(主人の父)に会ったと話し,その大殿様からの伝言と称して,小刀,扇などを主人から巻き上げる。さらに冥土には広い屋敷があるからお伴をしようと臆病な主人をおどし,逃げる主人を武悪が追い回す。登場は主人,太郎冠者,武悪の3人で,武悪がシテ前半は狂言としては異様なまでに深刻で緊迫した雰囲気,後半は明るい喜劇性に満ちている。三人三様の性格と劇的状況がよく描き分けられている重厚な名作である。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「武悪」の意味・わかりやすい解説

武悪
ぶあく

狂言の曲名。大蔵(おおくら)流では大名狂言、和泉(いずみ)流では雑狂言。不奉公者の武悪(シテ)を討つよう主人に命じられた太郎冠者(かじゃ)は、太刀(たち)を受け取り討っ手に向かう。冠者は、武悪に川魚の進上を勧め、生け簀(す)に入ったところを後ろからだまし討ちにしようとするが、友情が先だって斬(き)れず命を助ける。武悪を討ったと偽りの報告を受けた主人は、冠者を連れて東山へ赴く。一方、武悪も助命のお礼参りに清水(きよみず)観音へやってきて、鳥辺野(とりべの)のあたりで主人にばったり出くわす。武悪は窮余の策に幽霊を装って現れ、あの世で大殿様に会ったなどとでたらめを述べる。その大殿様の注文と称して、怖がる主人から太刀、小さ刀、扇を預かったうえ、あの世に主人を同道するよう頼まれたと脅し、逃げる主人を追い込んでいく。緊迫した前半とユーモラスな後半は異質であるが、これを統合して1曲に仕立て上げている構成は巧みである。『今昔(こんじゃく)物語集』巻17-4の霊験譚(れいげんたん)や『奇異雑談集』巻2-7の怪異譚を、この曲の原拠とみる説がある。

[林 和利]

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「武悪」の解説

武悪
ぶあく

雑狂言。主人は従者の武悪の不奉公を怒り,太郎冠者にその成敗を命じる。太郎冠者は主人の太刀をもって武悪の家を訪ねる。武悪は武芸にすぐれるため,主人に魚を進上するよう勧め,武悪が川で魚を捕っているときだまし討ちにしようとする。しかし情にほだされて逃がしてやり,主人には命をはたしたと偽って報告した。その後,主人一行が東山にいくと武悪が現れた。太郎冠者は場をとりつくろい,火葬場の鳥辺野(とりべの)になぞらえ,武悪に幽霊に化けてこいという。中入り後,武悪は主命に背いて苦しむ幽霊を装い,あの世で主人の父に会ったと偽り,言葉たくみに刀や扇を巻きあげ,主人を追い回す。前半の深刻さと後半の明るさの対比がきいた名作。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「武悪」の意味・わかりやすい解説

武悪
ぶあく

狂言の曲名。集狂言。主人が太郎冠者に不奉公者の武悪 (シテ) を討ってこいと命じる。冠者は厳命に抗しきれず,武悪をだまし討ちにしようとするが,討つことができずに助命し,主人には武悪を討ったと偽りをいう。その後,冠者を伴って東山辺へ出かけた主人は,命の助かったお礼参りに清水の観音へ行く途中の武悪と出くわす。太郎冠者はあわてて主人の目をさえぎり,武悪に幽霊になって出直せと言う。幽霊姿で現れた武悪は,冥途にいる先代の殿様 (主人の父) のところにお供しようと主人に迫る。前半は緊迫感にあふれ,後半は明るい笑いの世界に転ずる。

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百科事典マイペディア 「武悪」の意味・わかりやすい解説

武悪【ぶあく】

狂言の曲目。主人は,柔順でない奉公人武悪の成敗を太郎冠者に命ずるが,冠者は仲間を殺せず命を助ける。死んだはずの武悪は主人と道で出会い,とっさに幽霊に化けて逆に主人をおどす。前半は劇的な緊迫感が支配し,後半は狂言調にくだけた異色の大曲。
→関連項目狂言面

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歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典 「武悪」の解説

武悪
ぶあく

歌舞伎・浄瑠璃の外題。
初演
明治37.10(東京・東京座)

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世界大百科事典(旧版)内の武悪の言及

【狂言面】より

…この夷とともに〈大黒〉や〈毘沙門〉など,室町時代の庶民信仰を代表する福徳神が,このころ狂言面として成立していった。これらを神仏の類とすれば,鬼の類に〈武悪(ぶあく)〉がある。口をへしめて怒る表情の基本は能面の〈癋見(べしみ)〉であり,それから派生したものといってよい。…

※「武悪」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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