狂言面(読み)キョウゲンメン

デジタル大辞泉 「狂言面」の意味・読み・例文・類語

きょうげん‐めん〔キヤウゲン‐〕【狂言面】

狂言で用いる面。おかしみのあるものが多い。神・鬼や動物ほか老人醜女の役などに用いる。武悪ぶあくうそふき賢徳おとなど。

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精選版 日本国語大辞典 「狂言面」の意味・読み・例文・類語

きょうげん‐めんキャウゲン‥【狂言面】

  1. 〘 名詞 〙 狂言で用いる面。写実的でおかしみのあるのが特徴。「武悪」「嘯(うそふき)」「賢徳」「乙(おと)」などがある。

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改訂新版 世界大百科事典 「狂言面」の意味・わかりやすい解説

狂言面 (きょうげんめん)

狂言が能と密接に関係するのと同様に,狂言面も能面と関係している。製作者もほとんど共通しており,能面と同様に在来仮面より写実的に作られている。また狂言面のなかには能面の形成過程のうちにその発生を求められるものがあり,地方の古社寺に能面と一緒に伝存している例をよくみる。それは発生の母胎伝承地盤を等しくしてきたことを意味するであろう。しかし狂言は,能が荘重優美な歌舞劇のどちらかというと悲劇的な趣であるのに対して,軽妙なせりふと簡明な所作による喜劇仕立てに特色があるように,その面も多く笑いをさそう表現をとる。そして能が多く過去の世界を扱うのに対して,狂言は当世風つまり現実社会の人々を登場させるので,仮面は能におけるほど発展しなかった。したがってその種類は少なく,大蔵虎明の《わらんべ草》によると近世初期に39種の名があげられているが,そのうち基本的なものは20種前後である。

 翁舞の三番叟(狂言では黒色尉(こくしきじよう)ということが多い)は古来狂言方が演ずるしきたりなので,この面をも狂言面とする考え方があり,同じく延命冠者(えんめいかじや)は古くいろいろに用いられ,やがてこれから〈夷(恵比須)〉や〈福の神〉の面が創作されたと考えられる。この夷とともに〈大黒〉や〈毘沙門〉など,室町時代の庶民信仰を代表する福徳神が,このころ狂言面として成立していった。これらを神仏の類とすれば,鬼の類に〈武悪(ぶあく)〉がある。口をへしめて怒る表情の基本は能面の〈癋見(べしみ)〉であり,それから派生したものといってよい。狂言面の表現の特色は,自ら笑うことによって人に笑いをもよおさせるものと,誇張や歪曲つまり自然に著しく矛盾した表現によって笑いをさそうものと二つあり,〈延命冠者〉系は前者の,〈武悪〉は後者の代表的なものである。ほかに,末社の神に使われる〈登髭(のぼりひげ)〉,男の幽霊である〈鼻引〉,動植物の精霊をあらわす〈嘯吹(空吹)(うそぶき)〉と〈賢徳〉,老人の〈祖父(おおじ)〉,老女や醜女の〈乙(おと)〉〈ふくれ〉〈尼〉などがあり,動物そのものをあらわす〈猿〉〈狐〉〈狸〉〈犬〉〈鳶(とび)〉などもある。猿と狐はそれぞれ日吉山王と稲荷の神の使者として,早くから登場している。しかし動物をのぞいては型として一定せず,その成立過程をあとづけることはむずかしい。ただ,古面と思われるものには,極端な表現による卑俗さは認められず,そのおおらかな趣に,能面よりもむしろ猿楽や田楽の古態が感じられるとする意見もある。
狂言
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「狂言面」の意味・わかりやすい解説

狂言面
きょうげんめん

狂言で使用する面(おもて)。狂言は往々素面劇と規定されるが、特殊な役には仮面を用い、類型面は約20種ある。『三番叟(さんばそう)』の鈴ノ段には黒式(こくしき)の面をつけ、間(あい)狂言では末社(まっしゃ)の神(しん)に用いる登髭(のぼりひげ)を代表面とする。ともに笑みを含む老人の顔を神格化したものである。なお間狂言の木の葉天狗(てんぐ)には鳶(とび)を使う。本狂言で面を必要とするのは全曲の30%弱であり、これらの仮面は使用する役柄によって、(1)人間・亡霊、(2)神仏・鬼、(3)動植物・精霊に大別できる。

 (1)には、とくに高齢の老人がつける祖父(おおじ)、老尼用の尼(あま)・ふくれ、不器量な娘が用いる乙(おと)(乙御前(おとごぜ))などのほか、舞狂言に登場する亡霊には、古くは老人面である鼻引(はなひき)を流用したが、江戸前期からしだいに通円(つうえん)・祐善(ゆうぜん)・塗師(ぬし)など同名の役柄に専用する面が創案され、現在ではそれらを使用することが多い。なお、仏像に扮装(ふんそう)するとき、乙を小道具として使っているのは狂言らしい転用である。(2)には、夷(えびす)・大黒(だいこく)・毘沙門(びしゃもん)・福の神など庶民的な神の面と、鬼や閻魔(えんま)用の武悪(ぶあく)、雷用の神鳴(かみなり)がある。(3)としては、犬・馬・牛あるいは蟹(かに)の精などにつける賢徳(けんとく)(見徳)、昆虫・植物・魚類または蚊(か)の精などに用いるウソフキ(嘯吹)のほか、写実的な猿・狸(たぬき)などがあげられるが、ウソフキには案山子(かかし)の顔とするとぼけた用例もみいだせる。

 以上のうち乙・尼・武悪・猿などにはかなり作法の異なる面がある。能面や舞楽面を原型とするものが多いが、狂言面は人間味が濃く、またなごやかでユーモラスなのが共通点である。もっとも『釣狐(つりぎつね)』の前シテ用の狐の化けた僧を写した伯蔵主(はくぞうす)(白蔵主)および後シテ用の狐などはすごみを感じさせる面を良作とする。

[小林 責]

『野村万蔵著『狂言面――附装束と小道具』(1956・わんや書店)』『青木信二撮影『狂言面礼讃』(1981・芳賀書店)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「狂言面」の意味・わかりやすい解説

狂言面
きょうげんめん

狂言に用いる面。狂言は面を用いない役柄・曲柄が多いが,三番叟に黒式尉 (こくしきじょう) ,間狂言の末社の神に登髭 (のぼりひげ) をつけるほか,本狂言では,(1) 超人的な神仏,鬼,毘沙門,夷,大黒,福の神,武悪,神鳴など。 (2) 特殊な老人の,鼻引,祖父 (おおじ) 。尼,お寮,比丘尼。不器量な娘の乙 (おと) 。亡霊の塗師 (半六) ,通円。 (3) 動物では,犬,馬,牛,かにの精などに賢徳 (見徳) ,蚊の精,昆虫,植物,魚などに嘯吹 (うそふき) 。狐の化けた白蔵主。猿,狐,狸など。間狂言には木葉天狗の鳶がある。また能と違い小道具としても用いる。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「狂言面」の解説

狂言面
きょうげんめん

狂言に使用される仮面の総称。能と比べ狂言では仮面を使用することが少ないため,種類は十数種に限られる。喜劇的な要素の強い狂言自体の性格から,ユーモラスで大らかな表現を示すものが多い。おもな種類には,七福神などの俗信仰を反映した夷(えびす)・大黒・毘沙門,地獄の鬼の武悪(ぶあく),格の低い神を示す登髭(のぼりひげ),男の幽霊の鼻引(はなひき),動植物などの精霊である空吹(うそぶき)や賢徳,老人の祖父(おおじ),老女や醜女を表す尼や乙(おと),現実の動物として猿・狐・鳶(とび)などがある。空吹・賢徳・祖父・乙などには古面が多く,その成立の早さを物語り,猿と狐もそれぞれ日吉社と稲荷社の使者として,狂言以前の成立が推定される。

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百科事典マイペディア 「狂言面」の意味・わかりやすい解説

狂言面【きょうげんめん】

狂言用の木彫の仮面。狂言は素顔を原則とするが,老人,醜女,神仏,鬼,動植物の類は面をつける。乙(おと)(醜女),武悪(鬼),うそふき(蚊の精)など約30種。滑稽(こっけい)化の工作が顕著。能と異なり,狂言では面を仮装の道具としても用いる。
→関連項目仮面

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世界大百科事典(旧版)内の狂言面の言及

【室町時代美術】より

…周文の画風は,彼のあとを襲って将軍家の御用絵師となった小栗宗湛や,雪舟,阿弥派,岳翁蔵丘,祥啓らに幅広く受け継がれている。
[対明交易,能・狂言面]
 1368年(正平23∥応安1)の明の建国は,日本と大陸との交易に新しい局面をもたらした。1401年(応永8)義満は明との国交を開始し,以後1543年(天文12)までの間,遣明船の派遣は17度ほどに及び,多くの明の美術工芸品を新しい唐物として日本にもたらした。…

※「狂言面」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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