哺乳(ほにゅう)類の歯の構成を表記した式をいう。一般に哺乳類は異歯性で4種類の歯をもつが、動物種によって各種の歯数が異なるので、歯式を用いてその数を表す。歯式は、横線の上下に、それぞれ上顎(じょうがく)と下顎の片側の門歯(切歯)incisor、犬歯canine、前臼歯(きゅうし)(小臼歯)premolar、後臼歯(大臼歯)molarの数を左から順次表記する方法が一般的である。前臼歯と後臼歯をまとめて頬歯(きょうし)cheek teethともよぶ。高等哺乳類の祖先の歯数は、普通は以下のようであった。すなわち、上下それぞれのあごの片側に門歯3本、犬歯1本、前臼歯4本、後臼歯3本があり、総数は44本である。したがって、哺乳類の基本式は
となる。門歯は食い切るのに適し、犬歯は獲物を襲うのに役だっているので、この歯列は基本的には肉食に適したものである。しかし、今日の哺乳類でこの歯式を厳密に残しているものは少ない。ヒトの歯は32本よりなり、門歯2本、犬歯1本、前臼歯2本、後臼歯3本で、歯式は
である。ほかに、次のような表記法もある。哺乳類の基本型を示すと
となる。哺乳類の祖先は前述のように肉食獣であったが、現生する草食動物の有蹄(ゆうてい)類をみると、犬歯が消失した雌ウマでは
の計36本となり、また上顎の門歯と犬歯が消失したウシでは
の計32本となる。一方、現生する肉食動物のイヌでは
の計42本で、ネコでは
の計28本である。
[高橋純夫]
哺乳類の歯の種類と数を示す式で,分類上の特徴の一つとして用いられる。哺乳類の永久歯はクジラ類,貧歯類など一部のものを除くと異歯性で,切歯(門歯),犬歯,前臼歯(小臼歯),臼歯(大臼歯)に分かれ,各歯の数が種や属,あるいは科によって一定している。この数は共通の先祖がもっていた原型のままか,あるいはそれから変化してできたもので,系統上重要な意義をもつと考えられるので,それらを分数のように上顎の歯を分子,下顎の歯を分母に見立てて示し,系統関係の考察の資料としたものが歯式である。その表し方には数種類あるが,最も普通なのは次のように,各歯の略号ごとに上と下の歯を対の数(または片側の数)で示し,最後に総数を記すもので,略号は切歯incisorにI,犬歯canineにC,前臼歯premolarにPm,臼歯molarにMが多く用いられる。また略号なしにコンマなどでくぎって示すこともある。乳歯の場合は小文字で表す。
イノシシの歯式I3/3C1/1Pm4/4M3/3=44または
シカの歯式I0/3C1/1Pm3/3M3/3=34または
このイノシシの歯式は,真獣類の基本式(原型)に等しく,同じ歯式をもつものに食虫類のジムヌラ,デスマン科,モグラ科のヨーロッパモグラ,ミズラモグラ,ホシバナモグラなど,食肉類のミアキス(絶滅),奇蹄類のウマ科とバク科,偶蹄類のイノシシ科,カバ科などがある。いずれも原始的な種類である。他のものでは一部の歯が消失するが,オオミミギツネのように上の臼歯が3~4対,下のが4~5対と増えているものもまれにある。なお,ヒトの永久歯の歯式はである。ハクジラ類では歯の数が不安定で,切歯,犬歯,臼歯などの別がないため,歯式では上下の片側の数の範囲を示すだけである。ハセイルカの歯式はである。有袋類の基本式は真獣類と異なり,次のように切歯と臼歯が多くて前臼歯が少ない。
I5/4C1/1Pm3/3M4/4=50
この歯式はオポッサム科(全種類)に見られるだけで,他の科のものは,フクロアリクイ(総計50~52)を除き,つねに切歯などの数がこれより少なく,ウォンバットでは切歯が上下とも1対しかない。
→歯
執筆者:今泉 吉典
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…しかし,はえる時期が代生歯のそれに似ており,機能も生涯にわたって営まれることから永久歯に含めている。したがって,ヒトの永久歯数は代生歯20本,加生歯12本,合計32本であり,歯式ではI2/2C1/1P2/2M3/3=32,あるいはで表される(Iは切歯,Cは犬歯,Pは小臼歯,Mは大臼歯を表す記号であり,片側の上下顎歯数を示している)。永久歯の大きさは,形が乳歯とよく似た切歯や犬歯では乳歯より大きいが,形が似ていない小臼歯,ことに第2小臼歯では乳歯のほうが大きい。…
… 歯の数と形は動物の種類ごとに一定しているため,それらを種の特徴として一つの式で表示することがよく行われる。例えば原型の永久歯式は I3/3・C1/1・P4/4・M3/3=44省略してと書き表し,これを〈歯式〉という。ドブネズミはイヌはヒトはとなる。…
※「歯式」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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