残酷物語(読み)ザンコクモノガタリ(その他表記)Contes cruels

デジタル大辞泉 「残酷物語」の意味・読み・例文・類語

ざんこくものがたり【残酷物語】

原題、〈フランスContes cruelsリラダン短編小説集。1883年刊。雑誌等に発表した短編小説と詩作品に、未発表作品4編を加えたもの。1888年には同様の短編集「新残酷物語(Nouveaux Contes cruels)」を刊行

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

日本大百科全書(ニッポニカ) 「残酷物語」の意味・わかりやすい解説

残酷物語
ざんこくものがたり
Contes cruels

フランスの作家ビリエ・ド・リラダンの短編集。それまで種々の雑誌に発表した作品に推敲(すいこう)を施し、新たに未発表の4編を加えた全28編(このうち「恋の物語」は7編の詩)よりなる。1883年刊。没落した名流貴族の末裔(まつえい)で、時流に迎合せず、貧窮のなかで孤高の創作を続けた作者の代表作で、格調ある文体卓抜構成で高い評価を得ている。当時の功利的風潮を戯画化した『ビルジニーとポール』『豪華無類の晩餐(ばんさん)』、科学万能主義の倨傲(きょごう)や進歩信仰に毒された民衆愚昧(ぐまい)を嘲笑(ちょうしょう)する『天空広告』『栄光製造機』『トリスタン博士の治療』『断末魔の吐息の化学的分析』、民衆と孤高者との対立を描く『民衆の声』『サンチマンタリスム』『群衆焦躁(しょうそう)』、近代が生み出した狂気の畸形(きけい)的人物像をえぐりだす『最後の宴(うたげ)の客人』『人間たらんとする欲望』、また、そうした現実を超脱する方途を伝奇や神秘、夢想の世界に求めた『ポートランド公爵』『ベラ』『見知らぬ女』など、いずれも近代社会の低劣卑俗に対する仮借なき(したがって残酷な)批判と、その原動力ともいえる作者の高度の理想主義を示した名品である。

[秋山和夫]

『斎藤磯雄訳『残酷物語』(1965・筑摩書房)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

百科事典マイペディア 「残酷物語」の意味・わかりやすい解説

残酷物語【ざんこくものがたり】

ビリエ・ド・リラダンの短編小説集。《Contes cruels》。1883年刊。当時の科学万能主義,愚昧(ぐまい)な大衆,金銭の暴威に対する痛烈な風刺が特異。

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「残酷物語」の意味・わかりやすい解説

残酷物語
ざんこくものがたり
Contes cruels

フランスの作家ビリエ・ド・リラダンの短編小説集。 1883年刊。 27の短編と7編の詩を収め,全巻を通じて,高度の理想主義と,近代社会の低劣卑俗に対する痛烈な嘲笑が示されている。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の残酷物語の言及

【映画】より

…リラダンが〈映画〉を予見したことは通説になっている。例えば《残酷物語》(1883)の中の〈天空広告〉という短編では,まだ幻灯機も珍しかった時代に,天空をスクリーンとする壮大な〈映画〉を予見している。 〈映画〉はそもそも〈有用なものと快適なものとをごっちゃにし,遊びながら人間の本当の顔を開示する〉とG.R.ホッケが定義した,〈魔術師〉たちの〈遊戯機械〉〈悪魔の発明〉であったのである。…

【ビリエ・ド・リラダン】より

…こうして彼は,孤高の瞑想のうちに幻こそ現実と信じて壮麗な夢想に遊び,この世の現実を冷笑する。練り上げられた輝かしい文体による短編小説集《残酷物語Contes cruels》(1883),長編《未来のイブL’Ève future》(1886)などは,俗物を嘲弄し,芸術と霊的なるものの至高権を主張しつつ,この世に居場所のない流謫者の憂愁をのぞかせる作品だが,マラルメらごく少数の知己に高く評価されただけで,まったき窮乏のうちに死去した。【清水 徹】。…

※「残酷物語」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

ドクターイエロー

《〈和〉doctor+yellow》新幹線の区間を走行しながら線路状態などを点検する車両。監視カメラやレーザー式センサーを備え、時速250キロ以上で走行することができる。名称は、車体が黄色(イエロー)...

ドクターイエローの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android