改訂新版 世界大百科事典 「比重選別」の意味・わかりやすい解説
比重選別 (ひじゅうせんべつ)
gravity separation
比重の異なる粒子群から,低比重の粒子と高比重の粒子を選び分けること。比重選別による選鉱および選炭をそれぞれ,比重選鉱,比重選炭という。比重選別は各粒子に対して作用する重力(または遠心力)の大きさが粒子の比重によって異なることを利用した粒子選別法であり,その方法は二つに大別される。その一つは高比重の液体または擬似液体の中での粒子の浮沈分離を利用する方法,すなわち重液選別である。他の一つは緩やかに傾斜したといや平板などの上を流れる水,あるいは上下方向に脈動する水の力学的作用を利用する方法である。
傾斜板上の水流を利用した原始的な比重選別法としてはねこ流しがある。古くから使われている同様な原理の選別装置として,〈バンナーvanner〉もあげられる。バンナーは振動架台の上に取りつけられた一種のベルトコンベヤで,傾斜したベルトの上端から3/4ほどの位置より鉱石パルプを供給し,ベルトの上端からさらに若干の水を流し,ベルト面を流れとは逆の上向きに定速運動させるように設計されているものである。ベルト面に対する粒子の選択的な沈積と流れのかく乱を助けるため,ベルト面に細かな縞状の凹凸を施したものもある。
〈シェーキングテーブルshaking table〉は単に〈テーブル〉とも呼ばれ,膜状の水流と特殊な振動を巧みに利用した比重選別機で,1台当りの処理能力が小さいこと,運転管理に人手を要することなどの欠点もあるが,選別精度が高いのが特徴である。標準的なシェーキングテーブルは図1に示すように,矩形またはそれに近い形状のわずかに傾斜した平板と,それを左右に往復振動させるための駆動機構より成り立っている。0.1~1mm程度に粉砕された鉱石(またはもう少し粗めの石炭)は傾斜した盤の上手の一端(図では右上)から供給される。またこれと同時に,盤の上手からは少量の水が定量供給される。盤は加振機構により左右にゆすられるが,この振動は盤上の粒子を供給端から反対の端(図では左)へ移送するよう,往きと帰りの速度が異なっている。このためにはふつうカム装置とばねが使われている。平板(テーブル)上には高さ数mm以下の桟が多数取りつけられている。盤上に供給された鉱石粒子の一部は水によって押し流され,他の一部は桟の間に沈積する。盤面の振動は粒子の移送だけでなく,桟の間の粒子の成層にも寄与している。水流と振動の作用によって,高比重で微細な粒子は下に,低比重で粗い粒子は上にそれぞれ配位した粒子層が形成される。図の左へ向かって桟の高さがしだいに低くなり,上層の粒子は少しずつはぎ取られて下流,すなわち図の手前へ向かって押し流され,底に堆積した高比重粒子だけが図の左へ移送されていく。こうして盤上には鉱物粒子の比重と粒度にしたがう帯状分布が形成され,これらの粒子は盤の端の異なった位置で落下することにより,分離・回収される。
〈スパイラル選別機spiral concentrator〉はらせん状のといの形をした湿式比重選別機である。図2-aのようならせん状のといの上部から供給された鉱石パルプはといを流下する過程で水の作用力,重力および遠心力により,高比重で細かな粒子はらせんの内側に集まり,低比重で粗い粒子はらせんの外側に偏析する。図2-bはそのようすをといの断面で示したものである。といの内側に沈積した高比重の粒子はといの数ヵ所に設けられた分離板とポケット(穴)に回収される。この回収のため,といの内側に付属する別の小さなといから洗浄水が供給されるしくみになっている。
〈ライケルトコーンReichert cone〉は簡単な構造で大量処理ができることを特徴とする比較的新しい湿式比重選別機である。図3に示すように,この装置はパルプを分散供給するための円錐形の分散板と,選別のための逆円錐形の分離板の組合せから成り立っている。分散板によって分離板の周辺から供給されたパルプは,重力によって送円錐形の盤面を流下するうちにしだいに流れの厚みを増し,加速される。その過程で高比重で微細な粒子は優先的に盤面に沈積し,その表面に沿って緩やかに流下するが,低比重で粗い粒子はより大きな速度で流下する。分離板の中心近くにはスリットが設けられており,盤面上をゆっくりと流下してきた高比重粒子だけが,そのスリットを通過することにより分離される。ライケルトコーンはこのような分散板と分離板をなん段にも重ねて配置し,その回路構成によって多様な繰返し選別を行うことができるように設計されている。
〈ジグjig〉は鉱石や石炭の粒子層に対し,上下に脈動する水流を作用させることによって比重選別を行う装置である。その原理を図4に示す。ウェッジワイヤなどで作られた網(床網)の上に鉱石や石炭の粒子群を乗せ,これに1秒前後の周期で上下に脈動する水流を作用させると,高比重の粒子は粒子層(ベッド)の下部へ,低比重の粒子は上部へ移動し成層する。これを上層と下層に分けて取り出すことによって,比重選別を行うことができる。ベッドは鉱石や石炭自身によって形成させることもできるが,連続的に供給・排出される鉱石や石炭とは別に,人工的に作ることも可能である。一般に鉱石用のジグにおいては,直径3~5mmの鋼球や高比重の鉱物粒子などを床網の上に敷いて,ベッドとする場合が多い。一方,石炭用のジグでは人工ベッドを用いないのが一般的であるが,粉炭用ジグにおいては,長石あるいは立方体のセラミックスによって人工ベッドを形成させる場合がある。
ジグにおいては床網を通過して槽の下部(ハッチ)に入った粒子はそこから回収される。重産物のすべてをハッチから回収する操業方式もあり,この方式は鉱石用のジグや人工ベッドを用いた粉炭用ジグにおいて一般的である。ジグは脈動水流を発生させる機構によって,ピストンジグ,ダイヤフラムジグ,パルセータージグ,空気動ジグなどに分類される。現在石炭用ジグの主流となっている空気動ジグair pulsator jigは,圧縮空気によって脈動水流を発生させるしかけとなっている。空気動ジグは粒子群を成層させるための水槽(網室)と,脈動水流を発生させるための水槽(空気室)から成り,両者の間で水が往復運動するようになっている。このほか入排気のための空気弁,産物の分離・排出機構,ベッドの状態を自動的に検出し,サーボ制御を行うためのフロート(浮子)などが付属している。空気動ジグの一種で,従来その主流であったバウムジグBaum jigにおいては,空気室が網室に隣接する構造となっている。日本の高桑健によって考案されたタカブジグ(海外ではバタクジグBatac jigの名で知られる)は,空気室を床網の下に分散配置した設計で,大型化に適しているなどの特徴のため,近年,全世界に広く普及しつつある。
乾式処理用の比重選別装置は,湿式に比べて発達が遅れているが,空気テーブル,空気ジグなど,振動と空気流によって粒子群を半ば流動化させる機構のものがなん種か使われている。しかし,最近はとくに製錬,化学工業,廃棄物処理などの分野で,乾式処理への要求が高まっており,今後の技術開発が期待される。
執筆者:井上 外志雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報