いくつかの鉱物から構成されている鉱石を処理して、そのなかの有用鉱物と不用の鉱物とを物理的手段で選別、分離すること。有用鉱物が2種類以上ある場合は、これらを互いに分離することも含む。広義にはこの選別、分離を含む処理技術全部をいう。石炭の選別の場合、とくに選炭という。
鉱山より採掘されたままの鉱石(原鉱または粗鉱)中には、目的とする有用鉱物以外に、不用鉱物すなわち母岩(鉱床周囲の岩石)および脈石(みゃくせき)(鉱床内の無価値の鉱物)を多く含み、そのままでは利用できないのが普通である。たとえば銅鉱石の場合、原鉱品位が銅として1%前後、銅鉱物としても数%ぐらいで、このような低品位の鉱石をそのまま製錬して金属銅を採取するのでは、費用がかかり経済的に採算がとれない。したがって費用の少ない選鉱作業によって有用鉱物の品位を高め、大量の不用鉱物を選別除去することが必要となる。
[麻生欣次郎]
選鉱技術の主体は選別、分離である。これは鉱物によって物理的あるいは物理化学的性質の差があることを利用して、物理的に鉱物の選別を行うものである。
[麻生欣次郎]
もっとも古い選鉱法は手選(てせん)で、鉱物の色、光沢、形などの違いを目で判別し、手で選別する方法であるが、現在では人件費の高騰、鉱石の低品位化などでほとんど行われていない。手選を機械化したものに色彩選鉱機があり、一部用いられている。
[麻生欣次郎]
鉱物の密度(比重)の差を利用したものが比重選別(比選)であり、最初は水平水流中の鉱物粒子の運動の差を経験的に応用したもので、樋(とい)流し法から始まってシェーキングテーブルshaking tableへと発達した。また、ざるの中へ鉱石を入れて水中で上下に揺り動かし、比重の大きな鉱物粒子を下層に集めることからジグjigが生まれた。比選でもっとも遅れて開発されたのは重液選別(重選)であるが、アルキメデスの原理に基づく理論的に簡単で優れた方法が最後になったのは興味深い。
[麻生欣次郎]
磁鉄鉱などの強磁性鉱物を磁石で選別する磁力選別(磁選)も古くから行われた方法であるが、最近では高勾配(こうばい)磁選と称して、強い磁場の上に高い磁場勾配により磁性の弱い常磁性鉱物の選別も可能になってきた。鉱物の電気伝導度の差を利用する静電選別は、処理能力が小さく、特殊の場合に使用される。
[麻生欣次郎]
現在、選鉱の主力は浮遊選別(浮選)で、種々の薬剤(浮選剤)を用いて鉱物の表面性質を調整し、その鉱物間の水または空気に対する親和性の差を利用したものである。初め金属硫化鉱物の選別に用いられたが、その後、酸化鉱物、珪酸塩(けいさんえん)鉱物など非金属鉱物にも適用範囲が広がり、さらに最近では水溶液中の重金属イオンの分離除去にまで応用されている。
このほか、放射能、粒子の形状、破砕性なども選別に利用される。以上述べた選別とは性質が異なるが、商品によっては粒子の大きさがその品質を規定する場合がある。たとえば石炭、砂利、砕石などで、この場合篩(ふるい)分け、分級という分粒操作(大きさ別に分ける方法)が一種の選別法として用いられる。
[麻生欣次郎]
物理的操作で選別分離を行う場合、各粒子がそれぞれ別の単一鉱物から成り立っていることが必要であり、この状態を単体分離という。単一鉱物からなる粒子を単体粒子、有用鉱物と不用鉱物がくっついている粒子を片刃(かたは)粒子という。鉱山から採掘されたままの鉱石は片刃状のものが大部分で、選別する前に単体分離の状態にせねばならない。このためには原鉱を破砕、粉砕する。昔は高品位の鉱床を採掘していたので比較的粗く砕いても、十分単体分離されており、その大きさに適した選別法(たとえば比重選別)が用いられていた。現在の非鉄金属鉱床は低品位で、細かく微粉砕しないと単体分離が十分ではない。さいわい浮選によって微粉の選別が容易になったが、いずれにしても選別分離の前段階として単体分離が必要条件となる。
選別は粗粒の場合の磁選など乾式でなされることもあるが、粒子が微細になると湿式で行うのが普通である。たとえば浮選の場合、鉱石粉末を水に懸濁させた状態(鉱液またはパルプ)で選別を行う。このため選別の前処理である単体分離のための粉砕も湿式であり、これに伴って湿式分級(水中での沈降速度の差を利用して粒子の大きさ別に分ける方法)が必要となる。また、選別分離後の産物もパルプ状であり、この中から固体の鉱物粒子を取り出すための濃縮、濾過(ろか)などの単位操作も広義の選鉱技術に含まれる。次に、以上に述べた各種の単位操作を組み合わせた選鉱の例を金属鉱石の浮選について述べる。
[麻生欣次郎]
採掘された鉱石は坑内貯鉱舎に切羽(きりは)(鉱石の採掘場)別または品位別に蓄えられる。選鉱では原鉱品位が均一であることがたいせつで、これを考慮して各貯鉱舎より所定の割合で鉱石を抜き出し、選鉱場へ運搬する。選鉱系統は大別して前後二段に分かれる。前段が受入れ、破砕の系統で、原鉱を受け入れたのち、通常、粗砕、中砕の二段破砕を行い、最大数十センチメートルの原鉱を約10ミリメートル以下に破砕して粉鉱ビンに貯鉱する。この系統は坑内作業との関係で普通昼間の一番方のみの操業で、後段の粉砕、浮選の三方連続24時間操業との関連で貯鉱ビンがこれを調節している。破砕には粗砕用としてジャイレートリークラッシャーgyratory crusherまたはジョークラッシャーjaw crusherが、中砕用にコーンクラッシャーcone crusherが使用される。なお、それぞれの段階で砕く必要のない細かい粒子をあらかじめ除くため、篩を組み合わせて用いる。原鉱の性質によっては、この時点で単体分離される不用の鉱物、岩石を重選で除去することもある。また、原鉱中に浮選に悪影響を与える微粒子(一次スライム)を含む場合は、これを除去する分級装置が組み込まれる。
粉鉱ビンから後の系統は粉砕、浮選および産物処理である。粉砕は分級と組み合わせて湿式閉回路で行われ、粉砕機にはボールミルball mill、分級機にスパイラル型または湿式サイクロンwet cycloneが用いられるのが普通である。粉砕粒子径は鉱石の性質により異なるが、最大約200マイクロメートルである。粉砕の目的は単体分離であるが、あまり微細に砕きすぎると浮選に悪影響がある。
粉砕後パルプは条件槽に送られ、ここで捕収剤が添加される。捕収剤は目的とする鉱物と反応してその表面を疎水性(水にぬれにくい性質)にする。ついでパルプは浮選機に送り込まれ、十分攪拌(かくはん)されると同時に空気が導入される。空気は添加された起泡剤の働きと攪拌作用によって細かい気泡となり、パルプ中の鉱粒と衝突する。このとき、疎水性の鉱粒は気泡に付着するが、捕収剤の作用していない鉱物は親水性で気泡に付着せず水中にとどまる。気泡は付着した鉱粒とともに浮上して、パルプの表面に泡の層(フロスfroth)をつくり、溢流(いつりゅう)するか、または掻(か)き出されて精鉱となる。目的とする金属鉱物が2種類以上ある場合は、抑制剤を用いて一方の鉱物が捕収剤と作用しないようにして他の鉱物と分離する。一度抑制された鉱物をふたたび捕収剤と作用させるには活性剤を用いる。
浮選機にはいろいろの型があるが、現在もっとも多く使用されているのは、機械攪拌・空気導入型のもので、必要とする浮選時間に応じて所要台数を直列に並べて操業する。
浮選で採取された精鉱はなおパルプ状であり、水を分離するため、まずシックナーthickener(濃縮機)で濃縮し、ついでフィルター(濾過機)で脱水されて製品となる。精鉱をとった残りの尾鉱(廃石)もパルプ状であり、濃縮のうえ廃滓(はいさい)ダムへ流送廃棄される。近年、ダム用地の取得が困難となり、廃滓の処理、処分法として、採掘跡の坑内充填(じゅうてん)のほか、その有効利用が研究されている。
浮選以外の選別法の場合もその系統は同じで、まず単体分離のための破砕、粉砕、そして選別、産物処理となる。
選鉱技術は鉱物の選別に対して発展したものであるが、現在ではこの技術が、固形廃棄物の選別処理、各種廃水の処理に用いられており、資源のリサイクルrecycle、環境保全に役だっている。
[麻生欣次郎]
鉱石の中に含有される有価成分を主として物理的手段によって分離する技術。分離技術そのものを指す場合(狭義の選鉱)と,それにともなう工程すべてを総称する場合(広義の選鉱)がある。すなわち広義の選鉱は,採掘したままでなんら手を加えていない鉱石(原鉱石,原鉱,粗鉱,元鉱などともいう。英語ではraw ore,run-of-mine ore)を処理して,精鉱と廃石とに分離するための操作の総称である。一般に鉱石は多種の鉱物の結晶粒が複雑に共生した状態で産出する。鉱石中の目的成分の含有率を品位gradeと呼ぶが,金属の原料となる鉱石,すなわち金属鉱石の場合,鉄鉱石中の鉄の品位は20~60%,銅鉱石では0.5~3%,鉛・亜鉛鉱では鉛と亜鉛を合わせた品位が4~15%,金鉱石では5~20g/tすなわち5~20ppm程度であり,これらの鉱石をそのまま化学薬品に溶かしたり,加熱溶融したりして,金属成分を分離・回収するのでは,経費がかかりすぎて実際的でないのが普通である(金鉱石の場合には多くの場合に粉砕ののち直接湿式製錬する処理方法がとられている)。そこで,これらの化学的分離技術に代わる物理的・機械的処理技術によって,ある程度までの分離を行うことが必要となる。
選鉱によって分離された有価値の産物を精鉱concentrate,無価値あるいはそれに近い産物を廃石(尾鉱)という。精鉱は目的とする鉱物を主体とする粒子の集まりである。精鉱がそのまま最終製品として利用される場合もあるが,多くの場合には,さらに精製のための工程を経て利用に供される。それは物理的分離手段によっては異種鉱物粒子の分離が完全ではないことにもよるが,鉱物粒子どうしが単位分離していないことが一つの理由であり,さらにまた鉱物自身が一般には2種以上の元素からなる化合物であり,いずれかの元素が分離・回収の目的となる場合が多いからである。たとえば現在銅資源の主力を占める銅鉱物はCuFeS2の組成をもつ黄銅鉱であり,選鉱における分離の限界はこの鉱物を他の鉱物から完全に分離することまでである。
鉱物粒子を選別するためには,各鉱物に固有の物性あるいは改質によって賦与される物性の差が利用される。着目される物性には,表面の光学的性質,比重,表面の物理化学的性質,磁気的性質,電気的性質,粒子の形状などがある。
鉱物の比重差を利用した比重選別法は,浮遊選鉱法と並ぶ最も重要な選鉱法の一つである。浮遊選鉱法においては,浮選剤によって鉱物粒子の表面を改質し,すなわち鉱物粒子の表面の物質化学的特性を利用することによって分離性を飛躍的に改善することに成功している。浮遊選鉱のほかにも表面物性の特殊な応用として,グリーステーブルによるダイヤモンドの選鉱が挙げられる。これは,グリースを塗布した盤に粉砕されたダイヤモンド鉱のパルプを流し,その過程で親油性のダイヤモンド粒子をグリースに選択的に付着させて回収する方法である。
粒子表面の光学的特性は色や光の反射率によってとらえられる。人間が目で判断し,コンベヤベルトなどの上から手作業によって粒子をより分ける原始的な選鉱法は手選(てせん)/(しゆせん)と呼ばれている。
最近では,人間の目に代わってテレビカメラやレーザー光線の反射光を検知する半導体の光センサーなどを用い,人間の判断をマイクロコンピューターに,また人間の手をノズルからの圧縮空気の噴出に,それぞれ置きかえた装置(光電選別機または色彩選別機)が使われるようになった。また光検出器を放射能検出器に置きかえた放射性鉱物用の選別機も一部に使われている。
磁気的性質を利用した選別法は磁力選別または磁選と呼ばれて,強磁性鉱物粒子を含む鉱石に対する有力な選鉱法として広く応用されている。電気的性質の差は静電選別において利用されている。アスベスト,雲母,黒鉛などの特徴的な粒子形状をもつ鉱物は,ふるい分けなどの方法を巧みに利用して選鉱することができる。
選鉱過程は種々の工程の組合せでなり立っている。分離に先立つ第1の工程は原鉱石を粉砕し,粒子の大きさをある程度そろえることである。この粉砕操作の大きな目的の一つは分離すべき鉱物を粒子として他の不要な鉱物粒子から単体分離liberationさせることであるが,さらに次の分離操作に適した粒度にする意味もある。
多くの選鉱工場においては,原鉱石は100μm以下くらいの粒度にまで粉砕されたのち,浮遊選鉱,その他の選別工程によって鉱物の分離が行われる。この間,一部の工場では,選鉱過程の経済性を高めるために,1~50mmの粗粒段階で比重選別や色彩選別などの方法によって予備選別を行い,ごく低品位の部分だけを分離・除去することも行われている。粉砕はふつう,原鉱石を7~25mm以下の粒度にまで粗砕する工程(これを破砕という)と,ほぼ100μmの粒度にまで微粉砕する工程とに分けて行われ,前者にはクラッシャー,後者にはボールミルなどの粉砕機が使用される。また粒度をそろえながら粉砕するために,トロンメルや振動ふるいのようなふるい機やハイドロサイクロンなどの分級機が使用される。日本ではほとんど例がないが,外国の選鉱工場では原鉱石に含まれる粗い粒子によって鉱石自身を粉砕する方法(自生粉砕)も使用されている。粉砕は水を使って(湿式で)行われる場合が多い。
選鉱工程によって分離された精鉱は,濃縮,ろ過の工程によって脱水され,製錬の原料などとして出荷される。一方,廃石は濃縮ののちダムなどに廃棄される。この際分離された水の一部は,選鉱用水として循環使用される。また,廃石の一部は坑内の充てん(塡)材や道路舗装材として利用されている。濃縮にはハイドロサイクロンやシックナーなどの装置が使われる。精鉱のろ過は真空ろ過機によって行われるのが普通であるが,加圧ろ過機の一種であるフィルタープレスあるいは遠心分離機などが利用される場合もある。
現代の選鉱工場は各種の計測・制御装置の導入によってかなり高度に自動化されている。鉱石流量の自動計測はふつうコンベヤベルトに設置されたベルトはかりによって行われ,この計測結果にしたがって,貯鉱舎(ビンbin)からの鉱石の排出量が制御される。さらに微粉砕された鉱石パルプ(スラリー)の流量は電磁流動計によって計測され,同時にγ線密度計や超音波密度計などによって求められるパルプ濃度の計測値と合わせて鉱石流量が算出される。浮選過程ではpHの自動制御はもとより,一部の工場ではオンライン蛍光X線分析装置の導入により,スラリーのままで精鉱,尾鉱その他の中間製品の品位が自動的に測定され,空気量や浮選剤添加量をコンピューター制御するシステムが使われている。オンラインの粒度分布測定装置も実用化され,粉砕回路の自動制御などに利用されるようになってきた。
執筆者:井上 外志雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…砂金や砂スズのように砂鉱床に含まれる鉱物を水で崩し,水とともに吸い上げて,その中から鉱物をより分けて採取するドレッジング(浚渫(しゆんせつ))と呼ばれる方法を用いる鉱山もある。採鉱
[選鉱]
採掘されたままの鉱石は,そのままでは消費者,使用者が利用できる状態になっていないのが普通なので,使える状態になるように手を加える必要がある。金属鉱石の原鉱の多くは,含有する金属成分はきわめてわずかで,そのまま溶鉱炉に装入することはむだが多い。…
…鉱山から採取された状態の鉱石は粗鉱と呼ばれ,目的金属の鉱物のほかに他の有用金属の鉱物や無価値の鉱物を随伴している。自然に産出する鉱物の化学結合の形を変化させないで目的金属分を分離濃縮することを選鉱という。選鉱したのちに製錬の直接対象となる鉱石を精鉱と呼んでいる。…
※「選鉱」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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