文化財保護法は、歴史上または学術上価値の高いものを「文化財」と定義し、そのうち重要なものを「国指定の文化財」として保護している。1日現在、国宝と重要文化財は全国で計約1万3千件、史跡・名勝・天然記念物は計約3千件に上る。一方、都道府県と市町村は条例などを設けて独自に文化財を指定。昨年5月1日現在、全国で計約11万件ある。
更新日:
出典 共同通信社 共同通信ニュース用語解説共同通信ニュース用語解説について 情報
1950年制定の文化財保護法によって一般に用いられるようになった語で,cultural propertiesの訳語。同法では〈わが国の歴史,文化等の正しい理解のため欠くことのできない〉また〈将来の文化の向上発展の基礎をなす〉貴重な国民的財産と定義している。
文化財は人工文化財と自然文化財に大別される。人工文化財はまた,動産文化財,不動産文化財,および無形文化財,民俗文化財に分けられる。(1)動産文化財 彫刻,絵画,書跡,陶磁器,金工品,漆芸品,考古資料などのいわゆる美術工芸品といわれるもの,各種古文書,美的価値よりも学術的価値に重きをおいた地図類や,歴史上の著名な人物の遺品などの歴史史料等からなる。(2)不動産文化財 各種建造物(石造・金工の塔婆や,船舶も含まれる),史跡,庭園などの人工名勝からなる。なお史跡,名勝の詳細については〈史跡〉の項目を参照されたい。(3)無形文化財 古くから伝えられた各種技術,演劇,音楽などの芸能において,後世に伝承すべき〈わざ〉を,それぞれの技芸保持者によって後継者を育成するため,個人あるいは団体を認定し保護するもの。(4)民俗文化財 国民生活の伝統的な風俗慣習や芸能を保護するもの。住居,衣服,食器などや,生業,信仰,年中行事,民俗芸能に用いる用具などの有形民俗文化財と,これらを行う習俗などの無形民俗文化財とに分けられる。自然文化財としては,天橋立や耶馬渓といった自然名勝と,動植物・鉱物その他の天然記念物がある。
これらと性質を異にする文化財に埋蔵文化財がある。文化財の性質による種類ではなく,埋蔵文化財とは,地下,水底,海底(領海内に限る)その他,土地の上下を問わず人目に触れない状態において所在している遺跡,さらにそこから発掘によって出土した遺物の両様の意味に用いる。遺跡のうち,全国で国および地方の台帳に登録されたものを〈周知の遺跡〉と呼び,遺跡分布図,地名表などが公刊されて周知徹底が図られている。周知の遺跡は,全国で10万ヵ所を超えているが,火山灰や沖積土に覆われたり,水底,海底にあって未知のものは,その数倍あると考えられている。
文化財はすべて〈指定〉という行為によって保護されるもので,数多くの同類のもののなかからそれぞれの基準によって,国(文化庁),各都道府県市町村が選び出すことになっている。指定には段階をとるものがある。美術工芸品,建造物は,国宝および重要文化財の2段階の指定を行い,史跡,名勝では,とくに重要なものを特別史跡,特別名勝に指定する。指定は単一に行うものも多いが,その性格によって,例えば高松塚古墳では壁画を重要文化財,古墳全体を史跡に,慈照寺(銀閣寺)庭園は特別名勝と特別史跡,高千穂峡谷は名勝と天然記念物というように,二重に指定することもままみられる。また,無形文化財,民俗文化財においても,重要無形文化財(その保持者を俗称して人間国宝という),重要民俗文化財の指定が行われる。これらの指定物件は法令によって保護され,また保護と公開を義務づけている。埋蔵文化財の保護は,その包蔵地は史跡に指定することで,出土した遺物は美術工芸の考古部門によって重要文化財に指定することで行われる。なお周知の遺跡を学術調査や土木開発のために発掘するときは,事前に届け出ることを義務づけている。
文化財の大半は指定を受けることによって保護されるが,そのほかに〈選定〉という行為が行われている。一つは宿場町,城下町,農漁村などの伝統的建造物群保存地区を,市町村が都市計画または条令によって定め,その価値の高いものを文化庁が選定するものである(町並み保存)。いま一つは有形・無形文化財を保存するため欠くことのできない,修理,模写,模造に関する伝統的な技術・技能,またその材料の生産,その用具の製造にかかわる技術・技能の保持者や保存団体を選定し,その指導,助言,援助を行うものである。
さらに,1996年文化財保護法改正により,登録有形文化財が新設された。これは従来の〈指定〉制度では対象外になる,重要度の高い文化財の保護を目的とする。開発や都市化により危機にさらされている近代建築物などで,歴史的景観に寄与し,造形の規範となり,再現が困難なものを登録し,その現状変更に対して届出制度と,指導・助言・勧告を基本とする緩やかな保護措置を講ずる。登録されると税の軽減や,保存策への低利融資などの特典がある。
文化財の保護は各国それぞれの歴史によって多様である。美術品の収集は古代ローマにすでにみられ,その後も各国の王侯貴族によって盛んに行われたが,史跡,名勝などの保存は18世紀ころから体系づけられたといえよう。日本においても美術品の収集は大名や富商,豪農らによって行われた(コレクション)。しかし,明治維新直後の廃仏毀釈により多くの仏教関連美術が破壊されたり,廃藩による武士階級の没落が美術品の海外流出などを招くなどの打撃を受けた。そのため,1871年には早くも古器物保存を政府が命令し,明治10年代,20年代のフェノロサ,岡倉天心らによる全国社寺の調査を経て,97年に国宝保存法,特別建造物保存法などが制定され,行政として体をなしてきた。〈史蹟名勝天然紀念物保存法〉は1919年に公布をみたが,同法は28年内務省から文部省に移管され,ようやく一貫した文化財保護の体制が完成したといえる。ところが1897年の国宝保存法は,社寺の宝物のみを対象としており,第1次世界大戦後の不況で個人所有の宝物が多く海外に流出した。1929年の新しい国宝保存法により個人所有の宝物にも保護が及ぶように改正され,国宝のほかに流出するおそれのあるものを重要美術品と選定した。第2次世界大戦後,これらの法律を廃止し,50年,参議院において議員立法第1号として文化財保護法が制定され,一括した総合的法体系が完成した。この法律では立案の中心になった山本有三の強い指導のもとに,諸国に先駆けて無形文化財が取り入れられた。今日文化財に対する国民的関心は大いに高まってきているが,行政的には予算規模も国家予算の0.01%を下回るもので,なお不十分であるといわねばならない。
→文化財保護法 →埋蔵文化財
執筆者:坪井 清足
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
文化財という語は一般的にあまり用いられなかったが、1950年(昭和25)に文化財保護法が制定公布されてから、しだいに用いられるようになった。その後の社会情勢などの変遷により、これに適合させるため、75年この法律に大改正がなされ、文化財という語の意味する内容を次のように分類し、定義づけている。
(1)有形文化財 建造物、絵画、彫刻、工芸品、書跡、典籍、古文書その他の有形の文化的所産で、わが国にとって歴史上または芸術上価値の高いもの、および考古資料ならびに学術上価値の高い歴史資料。
(2)無形文化財 演劇、音楽、工芸技術その他の無形の文化的所産で、わが国にとって歴史上または芸術上価値の高いもの。
(3)民俗文化財 衣食住、生業、信仰、年中行事などに関する風俗慣習、民俗芸能およびこれに用いられる衣服、器具、家屋その他の物件で、わが国民の生活の推移の理解のために欠くことのできないもの。
(4)記念物 貝塚、古墳、都城跡、城跡、旧宅その他の遺跡で、わが国にとって歴史上または学術上価値の高いもの。庭園、橋梁(きょうりょう)、峡谷、海浜、山岳その他の名勝地で、わが国にとって芸術上または観賞上価値の高いもの、ならびに動物・植物、地質・鉱物で、わが国にとって学術上価値の高いもの。
(5)文化的景観 地域における人々の生活または生業および地域の風土により形成された景観地で、わが国民の生活または生業の理解のため欠くことのできないもの。
(6)伝統的建造物群 周囲の環境と一体をなして歴史的風致を形成している伝統的な建造物群で価値の高いもの。
文化財保護法では、これらのうち重要なものを国が指定し、保護することができることを規定している。指定に際しては、前記の定義により、有形文化財のなかで重要なものは重要文化財に、無形文化財のなかで重要なものは重要無形文化財に、民俗文化財のなかでとくに重要なものは重要有形民俗文化財、重要無形民俗文化財に、記念物のなかで重要なものは史跡・名勝・天然記念物に指定する。さらにこれらのなかで、重要文化財のうち、世界文化の見地から価値が高く、たぐいない国民の宝であるものを国宝に指定し、史跡・名勝・天然記念物のうち、とくに重要なものについても特別史跡・特別名勝・特別天然記念物に指定している。なお、重要無形文化財に指定する場合には、同時にその保持者(俗に人間国宝とよばれる)も認定することとなっている。さらに文化的景観のなかでとくに重要なものを重要文化的景観に、伝統的建造物群のなかで価値のとくに高いものを重要伝統的建造物群に選定している。このほかに埋蔵文化財があり、発掘されて有形文化財となり、さらに重要文化財・国宝に指定されることもある。
なお、無形文化財のうち文化財の保存のために欠くことのできない伝統的技術または技能で保存措置を講じる必要のあるものを選定保存技術として選定し、その技術の保持者、保存団体を認定している。
1996年(平成8)改正文化財保護法が施行され、近代の文化財の保護を図ることを目的に、従来の指定制度を補完するものとして、緩やかな保護措置を講ずる制度(文化財登録制度)が導入された。登録の対象は、当初は有形文化財のうち建造物のみとされていたが、2004年の同法改正(施行は2005年)により、建造物以外の有形文化財(美術工芸品)まで拡充され、さらに有形民俗文化財および記念物の登録制度も創設された。保存と活用がとくに必要なものについて、それぞれ登録有形文化財、登録有形民俗文化財、登録記念物として登録される。
以上は、国の文化財であるが、地方公共団体(都道府県市町村等)では条例の定めるところにより、当該地方公共団体の区域内に存するもののうち、重要なものを指定して、その公共団体の文化財としている。
[榎本由喜雄]
『文化庁編『文化財保護法五十年史』(2001・ぎょうせい)』▽『文化財保護法研究会編著『最新改正 文化財保護法』(2006・ぎょうせい)』
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
人間のさまざまな生産活動の所産として伝えられた有形・無形の遺産。対象は遺産の概念規定や把握の仕方によってしだいに拡大しているが,現在の文化財保護法では,建造物・絵画・彫刻・典籍・歴史資料・考古資料などの有形文化財,演劇・音楽・工芸技術などの無形文化財,衣食住・生業・年中行事などにかかわる風俗習慣とその関連物や民俗芸能などの民俗文化財,遺跡・庭園・自然景観・動植物などの記念物(史跡・名勝・天然記念物),伝統的建造物群に分類され,また土地に埋蔵されている文化財(埋蔵文化財)や,文化財の保存に必要な技術も保護の対象となる。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
…美術,工芸,書跡・典籍,考古資料,歴史資料,建造物など国が指定する重要文化財のうち,とくに製作がすぐれ,学術的価値が高いもの,かけがえがなく歴史上きわめて意義が深いものを,文部大臣が国宝に指定する。その規準は1950年制定の文化財保護法および75年の文化財保護法施行令に定められており,その事務は,はじめ文化財保護委員会が担当したが,68年に文化庁が発足してからはそこが主務している。…
…文化財を保存するために必要な科学,特に自然科学,およびその応用技術。ただし,この言葉の定義はまだ明確に定まっていない。…
…土地に埋蔵された状況にある文化財をいう。それには,河川,湖沼,海などの水中にあるもの,あるいは地表面に露呈しているものも含まれる。…
※「文化財」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
太陽の表面にあるしみのように見える黒点で起きる爆発。黒点の磁場が変化することで周りのガスにエネルギーが伝わって起きるとされる。ガスは1千万度を超す高温になり、強力なエックス線や紫外線、電気を帯びた粒...
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加
9/20 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
7/22 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
6/17 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
5/20 小学館の図鑑NEO[新版]昆虫を追加