1965年製作のフランス映画。〈ヌーベル・バーグとはゴダール・スタイルのことだ〉とジャン・ピエール・メルビル監督にいわしめた衝撃のデビュー作《勝手にしやがれ》(1959)以来,映画の文法や概念そのものを覆しつつ,映画とは何かを問い続けてきたジャン・リュック・ゴダール監督の9本目の長編作品である。漫画本から詩,絵画,哲学,ミステリー小説,映画等々に至る無数の引用に彩られた〈ゴダール・スタイル〉の頂点ともいうべき作品で,《芸術とは何か,ジャン・リュック・ゴダール?》と題する長い賛辞をこの映画にささげた詩人のルイ・アラゴンによって,絵画の〈コラージュ〉に匹敵する映画として評価された。ゴダール自身も,色彩や画面づくりなどの技術的な面も含めて,この映画をみずからの体験や感覚や記憶のコラージュと定義する。《勝手にしやがれ》のメルビル監督,《女と男のいる舗道》(1962)の哲学者プリス・パラン,《軽蔑》(1963)のフリッツ・ラング監督,《恋人のいる時間》(1964)のロジェ・レーナルト監督に次いで,ゴダールの敬愛するアメリカの映画監督サミュエル・フラー(《最前線物語》など)が特別出演し,〈映画とは戦場のようなものだ。愛,憎しみ,暴力,アクション,死,ひと口にいえば,感動だ〉と語る。《小さな兵隊》(1960)から《メイド・イン・USA》(1966)まで7本におよぶゴダールとその〈永遠のヒロイン〉であったアンナ・カリーナとの〈愛の映画〉の頂点でもあり,ゴダールはナボコフの小説《マルゴ》とライオネル・ホワイトの犯罪小説《妄執》を下敷きにしてプロットを組み立て,パリから南フランスへ下る男(ジャン・ポール・ベルモンド)と女(アンナ・カリーナ)を主人公にした冒険映画の装いをもつ〈華麗なメロドラマ〉に仕立て上げた。
執筆者:山田 宏一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…〈シネマテーク・フランセーズ〉のアンリ・ラングロアや映画史家のルイジ・キアリーニによって〈ゴダール以前〉の映画と〈ゴダール以後〉の映画という映画史の区分さえ生み出される。 コンピューターによって管理された未来社会を描いた《アルファヴィル》(1965)はマルセル・デュシャンによって〈サイバネティックス映画の傑作〉と評され,《気狂いピエロ》(1965)はアラゴンによって〈コラージュの傑作〉と絶賛された。映画が他の分野の芸術家をこれほど熱狂させたのはおそらくチャップリン以来のことといえよう。…
※「気狂いピエロ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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