EBM 正しい治療がわかる本 「水虫・いんきんたむし」の解説
水虫・いんきんたむし(白癬)
●おもな症状と経過
水虫やいんきんたむしは、皮膚糸状菌(ひふしじょうきん)(多くは白癬菌(はくせんきん))という真菌(しんきん)(カビの一種)によって生じる病気です。足に現れるものが水虫(足白癬)、爪(つめ)は爪水虫(爪白癬(つめはくせん))、股部(こぶ)はいんきんたむし(股部白癬)、体はたむし(体部白癬(たいぶはくせん))、頭部はしらくも(頭部白癬(とうぶはくせん))と呼ばれています。
白癬菌は高温多湿を好み、皮膚のたんぱく質であるケラチンを栄養源とするため、足の裏、足指の間などによくできます。ふつうは皮膚表面に感染しますが、頭部の毛穴から皮膚内部へ入り込み、広範囲におよぶ脱毛をおこすケルスス禿瘡(とくそう)を引きおこすことがあります。
水虫は足底などに小水疱(しょうすいほう)をつくるもの、足指の間にできた小水疱が破れて白くふやけ、びらんとなるもの、足の裏の角質層が厚く硬くなるものの3タイプがあります。角質層が厚くなるタイプ以外のものはかゆみを伴います。
爪水虫になると爪が白く濁り、爪の角質がぼろぼろになります。
いんきんたむしは鼠径部(そけいぶ)(足のつけ根)に慢性湿疹(しっしん)に似た赤いブツブツができ、次第に周囲へ広がるものです。強いかゆみを伴います。
たむしは環状の皮疹(ひしん)が特徴で、コインの形をしていることから“ぜにたむし”とも呼ばれてきました。
しらくもは頭部に大小の円形の白い斑点(はんてん)ができます。
●病気の原因や症状がおこってくるしくみ
いずれも白癬菌による感染症です。しらくもは犬、猫などのペットから感染します。白癬菌は高温多湿の環境を好むため、汗ばんだり濡れたりした皮膚をそのまま放置していると、感染しやすくなります。また、糖尿病や副腎皮質(ふくじんひしつ)ステロイド薬(やく)の外用・内服によって免疫力が低下している場合も、感染しやすくなります。
●病気の特徴
白癬のなかでもっとも多い水虫は、2100万人が悩んでいると推計されています。水虫は男女とも年齢が高くなるほど多くなる傾向を示しています。なかでも男性では、20歳代から50歳代にかけて患者さんが増えます。いんきんたむしは青年期の男性に比較的多い病気です。
よく行われている治療とケアをEBMでチェック
[治療とケア]抗真菌薬の外用薬を用いる
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 非常に信頼性の高い臨床研究で、効果が確かめられています。(1)~(3)
[治療とケア]爪白癬には抗真菌薬の内服薬を用いる
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 爪水虫(爪白癬)に対して、非常に信頼性の高い臨床研究で、効果が確かめられています。(5)(6)
よく使われている薬をEBMでチェック
外用抗真菌薬
[薬名]メンタックス/ボレー(ブテナフィン塩酸塩)(1)~(3)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]マイコスポール(ビホナゾール)(4)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]アスタット(ラノコナゾール)
[評価]☆☆
[評価のポイント] いずれも塗り薬で、ブテナフィン塩酸塩、ビホナゾールの両抗真菌薬については、非常に信頼性の高い臨床研究で、効果が確かめられています。ラノコナゾールについては、臨床研究は見あたりませんが、専門家の経験と意見から支持されている薬です。
[薬名]ラミシール(テルビナフィン塩酸塩)(1)~(3)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]フロリードD(ミコナゾール硝酸塩)(1)~(3)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]エンペシド(クロトリマゾール)(1)~(3)
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] テルビナフィン塩酸塩、ミコナゾール硝酸塩、クロトリマゾールについては、非常に信頼性の高い臨床研究で、効果が確かめられています。
内服抗真菌薬
[薬名]ラミシール(テルビナフィン塩酸塩)(8)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]イトリゾール(イトラコナゾール)(7)(8)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]ジフルカン(フルコナゾール)(7)
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] テルビナフィン塩酸塩、イトラコナゾール、フルコナゾールの内服薬については、非常に信頼性の高い臨床研究で、効果が確かめられています。
総合的に見て現在もっとも確かな治療法
患部は濡れたままにしない
原因となる白癬菌は高温多湿の環境を好むため、汗ばんだ皮膚をそのまま放置していたり、入浴後などにも患部の水分をよくふき取らずに濡れたままにしたりしていると、かかりやすくなったり、治りにくくなったりします。白癬のできやすい部分の汗や水分はこまめにふき取るようにしましょう。
手足など一部の白癬には外用薬を
体部、股部、手や足など、限られた範囲の白癬に対する抗真菌薬の使用は、もっとも標準的で確実な治療法です。
ただし、外用薬で一見治ったように見えても、完治していないことが多く、使用を止めてしまったために再発することが少なくありません。真菌が巣食っている皮膚角質層がすべて脱落し、真菌が完全に消滅するまで、長期間塗りつづける必要があります。その際、塗る回数などは少しずつ変えていくこともあります。たとえば、最初の1カ月間は外用薬を毎日塗布し、改善がみられてきたら週に1回ずつの塗布を数カ月間続ける、といった具合です。辛抱強く、正しく使っていけば、ほとんどの患者さんが治ります。
爪水虫などには内服薬を
一方、症状の重い白癬、爪や頭皮、鬚(ひげ)のある部位などの白癬では、外用薬では効果があまりみられないため、抗真菌薬の内服が必要になります。長期間服用しなければならないため、肝機能障害をはじめ、さまざまな副作用の可能性もあります。皮膚科医とよく相談のうえ、注意して指示通り服用しなくてはなりません。
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出典 法研「EBM 正しい治療がわかる本」EBM 正しい治療がわかる本について 情報