日本大百科全書(ニッポニカ) 「水酸化スズ」の意味・わかりやすい解説
水酸化スズ
すいさんかすず
tin hydroxide
スズの水酸化物。酸化数ⅡとⅣのスズの化合物が知られている。
(1)水酸化スズ(Ⅱ) Sn(OH)2式量152.7。スズ(Ⅱ)塩の水溶液は、酸を加えないと加水分解して白色沈殿を生じやすい。この白色沈殿の組成は古くSn(OH)2と書かれ、これが水酸化スズ(Ⅱ)とされた。しかしこれは実は、3SnO・H2OあるいはSn(OH)2・2SnOと書かれるのが正しく、構造もSn6の八面体からなるクラスター化合物のSn6O4(OH)4であることが確かめられている。沈殿は過剰の水酸化アルカリで亜スズ酸イオンSn(OH)3-を生じて溶ける。亜スズ酸イオンのアルカリ性溶液は強い還元作用をもつ。
(2)水酸化スズ(Ⅳ) 確実なSn(OH)4の組成の物質は得られていない。塩化スズ(Ⅳ)水溶液にアンモニア水を加えるとSnO2・nH2Oとして得られる。これはα(アルファ)スズ酸とよばれる。これを水中で煮沸するとβ(ベータ)スズ酸とよばれるものとなる。また金属スズを濃硝酸で処理してもβスズ酸が得られる。βスズ酸はメタスズ酸ともよばれる。いずれも無色の粉末。αスズ酸は酸、アルカリに溶ける。βスズ酸は不溶。110℃で乾燥するとH2SnO3の組成のものが得られる。過剰のアルカリでスズ酸イオン[Sn(OH)6]2-を生じて溶ける。窯業用顔料、うわぐすり(釉)、研摩剤としての用途がある。
[守永健一・中原勝儼]