翻訳|terrace
河川,海,湖に沿って,あるいは谷筋に沿って分布する階段上の地形。ほぼ水平で平たんな地表面(段丘面)とその前方あるいは背後の急傾斜な崖(段丘崖)からなる。〈台地〉とほぼ同様な地形をさすが,台地が〈低地〉に対立する語として用いられ,その階段状の平たんな地形を構成する地層や地質のいかんによらないのに対して,段丘は過去の水面(河川,海,湖など)に関連して水中で形成された平たん面がその後に離水した地形をさし,河岸段丘,海岸段丘,湖岸段丘lacustrine terraceなどに区分される。したがって溶岩台地とはいうが,溶岩段丘とはいわない。また,とくに段丘の成因を強調して表現する場合には,それぞれ河成段丘,海成段丘,湖成段丘という。
段丘地形は過去の河床,海底面,湖底面である平たん面と,その平たん面が形成されていた当時の崖(平たん面の背後にある)からなり,河床変動や海面・湖面の相対的低下によって離水するとともに,その平たん面は段丘化して段丘面となり,その前面には新しい崖地形と新しい平たん面が形成される。このように,過去の河床,海底面,湖底面が次々と離水するにつれて,段丘面と段丘崖からなる階段状の地形が形成される。時代が古くなるにつれて,段丘面や段丘崖は陸上での浸食・削剝作用によってもとの地形が壊されていく。そこで段丘面や段丘崖を刻んでいる谷などの地形を埋め戻してもとの地形(原形)を復元し,段丘形成当時の形態を知ることが必要となる。ある地域の段丘地形を形成時期の違いによって区分することを段丘の分類または段化といい,異なる地域に分布する段丘面のうち同一の形成時期にあるものを判定することを段丘の対比という。段丘の分類と対比によって,段丘地形から過去の同時代の河床面や旧海岸線を復元することができる。さらに,段丘の成因を知るためには,段丘の形態や分布の特徴だけでなく,段丘を構成している基盤岩石や堆積物など構成物質や堆積物の厚さなどを調べて,段丘の構造を明らかにする必要がある。
段丘はその構成物質によって,岩石段丘(基盤岩石だけ,あるいはその上にのるごく薄い段丘堆積物からなる)と砂礫段丘(基盤岩石の上にのる厚い段丘堆積物からなる)に区分される。また段丘は,段丘面を形成した浸食・堆積作用により,浸食段丘erosional terraceと堆積段丘accumulation terrace,fill terraceに区分される。したがって,両者の組合せによって段丘面は,(1)砂礫堆積面段丘(フィルトップ段丘filltop terraceともいう),(2)砂礫浸食面段丘(フィルストラース段丘fillstrath terrace),(3)岩石浸食面段丘(ストラース段丘strath terrace)に三分される。砂礫堆積面段丘は,一度浸食によって刻みこまれた谷地形が厚い砂礫層の堆積によって形成されたもので,そのような浸食と堆積をもたらした河床変動や海面・湖面変動などの地形・地質学的証拠となる。砂礫浸食面段丘や岩石浸食面段丘は河床や海面,湖面の低下とその一時的停滞を示す。段丘地形から過去の河床面や旧海水面,湖水面を復元する際には,現存する段丘面や段丘崖の平面的分布,段丘面の高度分布,段丘崖の比高,段丘地形の連続性などの段丘の形態的特徴とともに,段丘の構造にもとづいて,段丘の区分(段化)と対比を行い,その成因を考察することがたいせつである。
河川の上流から下流にわたって復元された旧河床面は,時期を異にするものが互いに収斂・埋没・交差などして,必ずしも現在の河床面と平行するとは限らない。それぞれの旧河床面が形成されていた当時の地形・気候環境に対応して,河川の流量や河川運搬荷重などが異なっていて,河床縦断面形に違いを生じている。河床縦断面形は,一般に氷期には急勾配,間(後)氷期には緩勾配になるといわれている。また海面も氷期には現在より大幅に低く,間氷期にはほぼ現在(後氷期)に近い水準にあったので,河口の位置や高度も時代ごとに大幅に変化した。さらに火山活動によって流域に多量の火山噴出物が供給されたり,寒冷期には山地での氷河や凍解融結現象の発達に応じて,岩屑の生産・運搬が河川の荷重を大きくして河床での堆積や谷底の埋積がおこり,温暖期になって荷重が相対的に減少したため,河川の下刻によってそれらの砂礫段丘が段丘化したり,浸食段丘が形成された。またアメリカ,アジア,アフリカなどの大陸内陸部では気候変化によって内陸湖が発生・消滅し,湖岸段丘を形成した。旧湖岸線あるいは旧海岸線に基づいて形成された段丘面は当時は水平であったが,その後の地殻変動によって変位・変形された。したがって同一時代の旧湖岸線や旧海岸線の現在の高度分布を調べることによって,それらが離水してから現在にいたるまでの地殻変動の量や様式を知ることができる。
段丘は現在の河川や湖,海に沿って分布しており,平たんで高燥な場所であるため,早くから集落,畑地,道路などに利用されてきた。しかし,水利の便が悪い場合には,開拓・開発から取り残されたこともあり,灌漑施設の設置によって水田化が進行した場所も多い。
執筆者:米倉 伸之
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
川、湖、海などに面して、急崖(きゅうがい)とその上の平坦(へいたん)面からなる階段状の地形。平坦面は段丘面、崖(がけ)は段丘崖とよばれる。段丘面はかつての河成平野、湖岸平野、海岸平野などのような低地の一部なので、その構成物質(段丘堆積(たいせき)物)から、低地が形成された当時の古環境や形成時代を知ることができる。
段丘面はその分布する場所によって、河岸段丘、湖岸段丘、海岸段丘とよばれる。段丘面の成因を重視する場合は、河成段丘、湖成段丘、海成段丘とよぶ。波による侵食によって段丘面背後の段丘崖が生じた湖成段丘や海成段丘の段丘崖の平面形は直線的である。急流の石川(礫床(れきしょう)河川)がつくった河成段丘の段丘崖の平面形も比較的直線的であるが、緩勾配(かんこうばい)の砂川(砂床河川)がつくった段丘崖は、川の蛇行(だこう)を反映して、平面的に湾曲した形状を示す。段丘には以上のもののほかに、火山砕屑物(さいせつぶつ)や溶岩などの火山噴出物あるいは崩壊、地すべり、土石流堆積物などが段丘状の地形として川沿いに残されたものがある。なお、幅広くて周囲が崖になっている段丘は台地とよばれる。
低地が段丘化するためには、海面や湖面や河床が相対的に低下する必要がある。海面の低下は、気候変化による氷河性海水準変動(海面変化)による海面低下と陸地の隆起によって生ずる。河床低下は、下流では海面低下に伴って生ずるが、上流では隆起し続けている山地を流れる川で継続的に生じている下刻(かこく)に加えて、気候変化、火山活動、大規模な山地崩壊などによって上流山地からの砂礫供給量や流水量が変化することによって生ずる。なお、長期間にわたって残っている段丘の多くは、段丘崖の基部が強い岩石からなるために侵食から保護された段丘(岩石保護段丘)であることが多い。
[池田 宏]
『太田陽子著『日本列島の海成段丘と活断層の調査から』(1999・古今書院)』▽『小池一之・町田洋編『日本の海成段丘アトラス』(2001・東京大学出版会)』
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… 海台plateauかなりの広さを有する平たんないしはほぼ平たんな地域で,その一方またはそれ以上の方向が急に深くなっているもの。 海段terrace―bench―deep sea terrace比較的平たんで,水平または緩く傾斜する表面を有し,しばしば長くかつ狭い。一方は急な上り斜面で,他方は急な下り斜面で境されている。…
…建物の庭園側正面に設けられる一段高くなった壇。石やタイルで貼られ,室内と庭園を結びつける散策のための張出しである。18世紀イギリスのピクチュアレスクの美学の理論家たちは,このテラスの役割を,建物の人工的な造型の延長物であり,庭園の自然を際だたせるものだとした。現在では建物から屋外に張り出したタイル貼りなどの部分を一般にテラスと呼ぶ。また,テラス・ハウスの略称としても用いられる。【鈴木 博之】…
…雪崩や岩雪崩で落ちてきてたまった雪塊や土砂をいう。 テラスterrace岩登りの中継点として利用できる岩壁の棚状になった部分。 鉈目(なため)樹木の幹に鉈の切れめを入れて道標としたもの。…
※「段丘」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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