沈降分離(読み)ちんこうぶんり(その他表記)gravity separation

改訂新版 世界大百科事典 「沈降分離」の意味・わかりやすい解説

沈降分離 (ちんこうぶんり)
gravity separation

広義には,重力,遠心力あるいは静電力の作用により流体中に分散浮遊している固体または液体の小さな粒子が,底部に沈んで分かれる現象の総称であるが,通常は,重力により液体中に懸濁する固体粒子群を沈降させ液体と分離する方法をいう。沈降分離は目的により,粒子の大小を分ける分級,密度の異なる粒子の分離選別,粒子と液体の分離に分類される。粒子と液体の分離はさらに,液体中の少量の固体粒子群を沈積させて固体濃度を高めることを目的とする沈降濃縮と,粒子を沈降させて粒子を含まない上澄み液を得るのを目的とする清澄化に分けられる。

 液体中に分散する粒子は粒子の大きさ,形,液体と粒子との密度差,液体の粘度,粒子の液中濃度などにより沈降速度が変化し,粒子密度が同一なら大きな粒子は小さな粒子より速く落下するので,粒子の大小を分けることができる。この現象を利用する装置が湿式分級器で,沈みやすい大きな粒子を槽底部から取り出し,沈みにくい微小粒子を溢流(いつりゆう)とともに槽外へ排出させる。密度の異なる鉱石の選別には,密度の大きな重液中での干渉沈降速度の差を利用する比重選鉱法が用いられる。沈降槽中で液体中に含まれる固体粒子群を沈降させると,槽底に濃厚な粒子沈積スラッジ層,上方に粒子を含まない上澄み液の層を生じ2層に分かれる。この現象を沈降濃縮と呼び,これを連続的に行う装置がシックナーである。上澄み液を得ることを主目的とする装置を清澄器と呼んで区別することもあるが,同じ現象として考えることができる。重力を利用する沈降分離装置はほとんど動力を要しないので運転費は低廉であり,固体含有量の少ない原液を大量に扱うときの前処理工程として沈降により固体の大部分を分離して,あとの工程の処理量を減らすのに適しており,鉱業,海水からの酸化マグネシウム回収やアルミナ製造のような化学工業プロセス,固体洗浄,上水下水あるいは排水処理などに広く用いられる。
沈降
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「沈降分離」の意味・わかりやすい解説

沈降分離
ちんこうぶんり
sedimentation

液体の比重より大きい比重の固体粒子が流体中に分散しているとき,重力の作用によって粒子が次第に落下していくいわゆる沈降現象を利用して,液体と固体粒子を分離する操作をいう。重力のみでなくて遠心力場での沈降分離も広く利用されている (→遠心分離機 ) 。沈降分離の目的は分級沈殿濃縮,清澄に大別される。一般に沈降分離を行う装置に沈降槽 (沈降タンク) settling tankがある。

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栄養・生化学辞典 「沈降分離」の解説

沈降分離

 単に沈降ともいう.液体中に分散している固体や液体の粒子を沈降させて分離すること.

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世界大百科事典(旧版)内の沈降分離の言及

【比重選別】より

…比重の異なる粒子群から,低比重の粒子と高比重の粒子を選び分けること。比重選別による選鉱および選炭をそれぞれ,比重選鉱,比重選炭という。比重選別は各粒子に対して作用する重力(または遠心力)の大きさが粒子の比重によって異なることを利用した粒子選別法であり,その方法は二つに大別される。その一つは高比重の液体または擬似液体の中での粒子の浮沈分離を利用する方法,すなわち重液選別である。他の一つは緩やかに傾斜したといや平板などの上を流れる水,あるいは上下方向に脈動する水の力学的作用を利用する方法である。…

【廃水処理】より

… 固液分離は,廃水中の浮遊物を分離回収することを目的としている。処理コストが安く運転管理も容易であることから,重力による沈降分離がもっとも広く利用されているが,浮遊物の沈降分離効率が沈殿槽の面積に依存するため,処理装置の敷地面積が制約されるところでは別の方法が必要になる場合もある。重力沈降とは逆に,浮上しやすい浮上物を水面に自然に集める方法,あるいは吹き込んだり減圧によって発生させた水中の微細気泡の上昇力を利用した強制浮上分離もあり,廃水中の油分分離や沈降しにくい活性汚泥の濃縮分離などに利用されている。…

※「沈降分離」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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