取引をする双方が,姿も見せず言葉も用いることなく行う交易。無言交易ともいう。交易方法の原初的なものと考えられ,異種族間の交易方法として,その一風変わった形式から注目されてきた。ある決められた場所に品物を置き,合図をして姿をかくすと,取引相手があらわれて等価と思われる品物を,相手の品物の傍に置いて去る。取引の両者が相手の品物に満足すれば,相手の品物を持ち帰り,交易が成立する。このような形式の交換では,取引相手は必ず1対1(部族どうしあるいは共同体どうし)に限られ,交換レートをほかの尺度に置き換えて用いるような一種の貨幣の形成もあまりみられない。よく引用される例として,ヘロドトスの《歴史》に,カルタゴのフェニキア人と古代リビア人との交易の記述がある。P.J.H.グリアソンの《沈黙交易》(1903)は,世界各地にみられるこの交易方法についての資料をまとめ紹介したものとして著名である。
→交換
執筆者:藤井 せい子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…このような交換回路には,海岸部と内陸部の種族間で海産品と山の産物が一定の時期に交換されたり,あるいはA→B→Cというように種族や集団が連鎖状に連結した交易関係を呈する事例などがある。こうした異種族間の交易の方式で著名なのが沈黙交易である。これは,交易を行う一方の側が慣習的に定められた一定の場所に自己に属する産品を置いて姿を消すと,やがて他方が来てこれを収受し,そこに代りの産品を置いておき,やがてこれを一方の側が収受するという交換の方式である。…
…財の交換の歴史的な起源は定かにはいいがたいが,たとえば前5世紀のヘロドトス《歴史》にカルタゴ人の商品とリビア人の黄金が双方の直接的接触,口頭での交渉なしに交換される様子が描かれている。このような交換はのちに〈沈黙交易〉として世界各地にその例が見いだされ,集団間の交換(交易)の原初的形態とも考えられてきた。個々の史実とは別に,そもそも交換の発端をどのようなものとみるかについては大きくわけて二つの立場がある。…
※「沈黙交易」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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