法廷技術(読み)ほうていぎじゅつ

改訂新版 世界大百科事典 「法廷技術」の意味・わかりやすい解説

法廷技術 (ほうていぎじゅつ)

広い意味では裁判の過程において,裁判をする人(職業裁判官,素人裁判官,陪審員など)を説得し,自分の側に有利な裁判を引き出すための事実上・法律上の技術をさす。したがって,民事・刑事を問わずすべての裁判過程につき,また民事事件の当事者(原告被告など)双方,刑事事件の検察官側・被告人側双方につき法廷技術が問題となる。しかし狭い意味では,刑事裁判の過程において,強大な国家権力を背景とする検察官の訴追に対して被告人の人権を守り,公正な裁判がなされるようにするための弁護の技術をさす。この言葉は,日本では1950年の戒能通孝《法廷技術》(《法律学体系法学理論篇》の一分冊として刊行され,1952年同名の単行本として刊行)以来広く使われるようになった。法廷技術は,事件を構成する事実を十分に把握し,それを基礎として主張・立証を行い,相手方の主張・立証をくつがえす技術である。立証においては,物証の提出とその意味づけのしかたが,人証については証人に対する主尋問・反対尋問など証言の引出し方が重要性をもつ。事件に適用される法の内容に関する知識も裁判に勝つうえに重要であるが,それは事件に即したものとして具体化されることが不可欠である。その作業もまた法廷技術の一環をなす。

 法廷技術は,法廷において事実を明らかにし,公平な法の適用を実現するためのものであるから,本来その担い手には高い技術水準とともに倫理的に高い資質が求められる。パーリー判事Edward Abbot Parryは,その資質として,事実を尊重する正直さ,俗論に抵抗する勇気,資料収集のための勤勉さ,機知雄弁,正否の判断,そして思いやりを挙げている。また,法廷技術が裁判において重要な役割を果たしうるためには,裁判をする人が予断偏見にとらわれることなく,適正な裁判手続に従い,証拠と法にのみ基づいて,独立して公平な判断を下すことが必要である。さらに,被告人に対する〈無罪の推定〉の原則の確立は,強大な国家権力による訴追に対して,被告人に対する実質的公平の実現のために重要である。要するに,法廷らしい法廷が,法廷技術の基盤である。第2次大戦後の司法制度改革によって,日本の司法制度もこのような前提条件を満たすに至ったが,いまだ十分とはいえない。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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