法政策学(読み)ほうせいさくがく

改訂新版 世界大百科事典 「法政策学」の意味・わかりやすい解説

法政策学 (ほうせいさくがく)

法律学の一分野の名称として用いられる語。その意味は,用いる者により異なり,また,明確に規定されているわけではないが,〈一定の法目的の実現のために最も有効で能率的な法技術の体系を科学的に探究する学問〉(碧海純一)というのが,現在までに試みられた最も明確な定義である。これによれば,法政策学(ドイツ語のRechtspolitikにあたるとされている)に属する代表的な学問分野は,刑事政策学Kriminalpolitikだと解されている。政治または政策を意味するPolitikという語を付して学問分野の名称とするのは,ドイツ語圏に特有な用法であるが(刑事政策学のほか,社会政策学Sozialpolitik,地政学Geopolitikなどがある),Rechtspolitikの語を学問分野の名称として用いるのは,ドイツ語圏でも一般的ではないようである。しかし,Politikの語を用いた他の学問分野の性格から推し測れば,法政策学とは,国家のとるべき立法政策の研究・提唱をする学問ということになり,上述の定義に帰着することになろう。もっとも,立法政策といっても,刑事政策におけるのと異なり,犯罪原因の探究,その対策,犯罪者の処遇というような具体化・特定化された目標をもたないから,法政策学の具体的なイメージを上述の定義から得るのは困難である。

 最近では,法政策学の語をPolitik概念との関連で用いるという伝統から離れて,〈法と政策決定〉の縮約したものとして用い,その内容を具体化しようとする試みが,一部の法律学者により行われている。それによれば,法政策学とは,経済学・経営学,問題解決の技法等で発展してきた〈意思決定〉の概念(多数人の利害にかかわる公共的な意思決定が〈政策決定〉である)を法的に再構成し,これと現行の実定法体系とを結びつけることにより,〈法制度設計の一般理論と技法〉を作ろうとする試みとして定義される。これは,あたかも技術者や工学者が一定の目的のために橋や機械を設計するのと同様に,法制度を設計することにより,解決を迫られている各種の社会問題に対処し,これをコントロールしようとする考え方である。最近,法政策学という語が用いられる場合には,このような考え方を意味することが多い。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「法政策学」の意味・わかりやすい解説

法政策学
ほうせいさくがく

広義には、現在の社会状態の客観的認識に基づいて、新たにどのような立法が必要か(立法政策)、あるいは現行法制度の解釈運用をどのように現状に即応したものにできるかといった問題を研究する学問であるといえるが、明確なイメージや方法・体系があるわけではない。しかし近年平井宜雄(よしお)が、コース、カラブレジ、ポズナーらの、厚生経済学を理論的基礎とする「法と経済学」law and economicsに刺激されつつ、現代法を資源の効率的配分を実現するシステムとして再認識し運用する考え方を「法政策学」の名で提唱し、注目されている。それによれば、現代法は、裁判を中心とする個別的正義を目ざす権利・義務型の法から、政策的志向を強くもった資源配分の法へと重点を移してきており、それに即応できる法制度設計の技術を提供するのが法政策学だとされる。

[名和田是彦]

『平井宜雄著『法政策学』(1987・有斐閣)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「法政策学」の意味・わかりやすい解説

法政策学
ほうせいさくがく

立法学」のページをご覧ください。

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世界大百科事典(旧版)内の法政策学の言及

【法学】より

…広義には法を対象とするさまざまの学問の総称である。その中には法解釈学,法政策学のほか,法史学(法制史),法社会学比較法学などの法現象を事実認識の対象とする経験諸科学,および法の概念や法学の学問的性格などの問題を取り扱う法哲学が含まれる。このうち法解釈学は,法哲学とともに最も古くから発達し,かつ法学者の大多数によって研究されている学問であり,ふつう法学または法律学といえば法解釈学をさす。…

※「法政策学」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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