法的安定性(読み)ホウテキアンテイセイ(その他表記)legal certainty
Rechtssicherheit[ドイツ]

デジタル大辞泉 「法的安定性」の意味・読み・例文・類語

ほうてき‐あんていせい〔ハフテキ‐〕【法的安定性】

法律の制定・改廃・適用安定的に行われ、ある行為に伴ってどのような法的効果が発生するか予測可能な状態。
[補説]法秩序に対する人々の信頼を維持するための原則と考えられ、法の恣意的な運用や主観的な解釈などは避けなければならないとされる。

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共同通信ニュース用語解説 「法的安定性」の解説

法的安定性

ある行為が合法か違法かなど、法律上の規定や解釈が大きく変わらずに安定していること。歴代政権が憲法上認められないとした集団的自衛権の行使を、安倍政権憲法解釈の変更によって容認したことをめぐり、憲法学者から「法的な安定性を大きく揺るがす」との指摘が出た。政府は安全保障環境の変化に伴う限定的な行使容認で、過去の政府見解の基本的論理を維持したとして「これまでの憲法解釈との論理的整合性や法的安定性は保たれている」と主張している。

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改訂新版 世界大百科事典 「法的安定性」の意味・わかりやすい解説

法的安定性 (ほうてきあんていせい)
legal certainty
Rechtssicherheit[ドイツ]

昼と夜,春夏秋冬の四季循環が不規則に変化したりしたら,われわれの生活が成り立たなくなるように,法治国国民の生活も,法や法の適用が不規則に変化すると,さまざまな不都合をこうむる。人々は法が安定して適用されることを期待して行動しているから,この期待を裏切らないようにしなければならない。法的安定性とは,法や法の適用を安定させ,人々の信頼を保護する原則である。そこから,(1)立法上の原則として朝令暮改を慎むこと,(2)法適用を安定させること,(3)当事者の信頼を保護すること,などの原則が生ずる。

(1)官報や法令集に接する国民は少ないから,法がひんぱんに変わると,大多数の国民は予期に反して法の適用を受けるおそれがある。また,商品製造の許可基準などが変わると,製造業者はそのたびに機械規格を変える必要があり,ひんぱんな法の変更は大きな損害をもたらす。したがって法の改正は慎重にすべきものである。

(2)法の解釈や運用が官庁の窓口ごとに,あるいは日によって異なるならば,それに利害関係をもつ国民は,法的に不安定な地位におかれる。したがって上級機関は〈公定解釈〉によって運用を統一しようとする。

(3)例えばA→B→Cと商品が輾転譲渡された後で,登記や占有によってCの所有権を信頼してそれを買ったDが,A,B間の取引が無効だったというような理由でそれを取り戻されるとすると,だれもが安心して物を買うことができない。信頼が裏切られるからである。できるだけ善意・無過失の者を保護するという原則は〈取引の安全〉とよばれる。

 しかし法的安定性は法価値の一つにすぎず,絶対的価値ではない。それは正義,衡平,便宜,具体的妥当性などとしばしば衝突する。その場合にいずれを優先させるかの選択は,〈平和と正義の対立〉〈法的安定性と具体的妥当性の矛盾〉などとよばれる,法思想上の永遠のジレンマである。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「法的安定性」の意味・わかりやすい解説

法的安定性
ほうてきあんていせい
Rechtssicherheit

法の支配ないしは法治主義の法思想のもとにおける一種の法価値。法的安全,法的確実性ともいわれる。この言葉は法による安定性つまり法による社会秩序維持がもたらす社会生活の安定という価値と,法の安定性つまり法それ自体の安定からもたらされる法価値という2つの意味に用いられる。前者は後者を前提にして成り立ち,しかも平和ないしは秩序と同意義であるので,後者の法の安定性が固有の意味で法的安定性である。この安定性は次の要求を満たすことによって確保される。第1は法が実定法であること,第2はその法の解釈,適用が客観的であること,第3はその法の実効性があること。法的安定性はまた法の目的でもあり,法が追求すべき正義衡平などの高次の諸目的を達成するために,まず実現すべき卑近な第1次的な目的とされている。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「法的安定性」の意味・わかりやすい解説

法的安定性
ほうてきあんていせい

法秩序が明確で安定して適用され、どのような行為にどのような法的効果が結び付くか予見可能な状態を法的安定性legal certaintyという。それには、法律が朝令暮改でないこと、法の解釈適用が一義的で、裁判官や役所の窓口によってさまざまな解釈が行われることのないこと、などが条件としてあげられる。しかし、法的安定性だけが強調されると、個別的事情や具体的妥当性が無視される事態を招きやすい。ここに法的安定性と具体的妥当性の矛盾という法運用の問題があり、法領域によってそのいずれに重点を置くかが異なる。たとえば、取引の安全を重視する商取引法などは法的安定性を重視するが、親族法などでは具体的妥当性のほうが重視される。ジェローム・フランクなどは法的安定性の信仰を神話にすぎないとして批判した。

[長尾龍一]

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知恵蔵mini 「法的安定性」の解説

法的安定性

憲法を頂点とする法の内容や適用を安定させることで人々の法に対する信頼を守る、法治国家の基盤となる原則。法の内容や適用のむやみな変更を慎むことによる「法自体の安定」と、法により秩序が守られることでもたらされる「社会生活の安定」という二つの意味がある。

(2015-8-5)

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