日本大百科全書(ニッポニカ) 「洞窟動物」の意味・わかりやすい解説
洞窟動物
どうくつどうぶつ
本来は、石灰洞や溶岩洞などの洞窟にすむ動物の総称。井戸の地下水や河川間隙(かんげき)水、土壌の下にある風化した母岩の堆積(たいせき)層などにすむ動物は、形態的、生理的な適応変化のようすが洞窟の場合と同一なので、学問上は洞窟動物に含める。
洞窟動物のさまざまな生活環境に共通する最大の特性は、多くの条件が恒常的であるということである。日光のない完全な暗黒であるために、光合成をする葉緑素をもつ植物が生育できない。したがって、ある種の菌類を除けば植物は皆無に近い。温度の季節変化がほとんどなく、気温・水温ともに地上での年平均値に近い。したがって、多くの動物が活動する夏季の温度は、地上の場合に比べてはるかに低い。湿度は高くて陸上でも飽和状態に近く、季節的に乾湿のようすが変動するような場所では、動物も湿った所を追って地下での移動を繰り返す。栄養源は極端に限定されているのでつねに乏しく、水の酸素溶存量も小さいので、大形の動物は一般に洞窟動物となりえないし、緑色植物が存在しないので、草食性のものもみられない。しかし、環境条件の変化がきわめて小さいので、競争の激しい地上で滅びてしまったような古い型の動物が数多く残存し、その多くが特殊な生活条件に対する著しい適応を示している。
洞窟内でみられる動物には、適応の様式や段階にさまざまなものがある。単に洞窟へ迷い込んだだけでやがて死に絶えるものを外来性動物とよぶが、これは本来の洞窟動物ではない。コウモリやカマドウマのように、洞窟をねぐらとして利用し地上で採餌(さいじ)を行うものは、周期性洞窟動物とよばれ、栄養の供給者として重要であるが、形態的な特殊化はほとんど示さない。同じ現象は、周期性洞窟動物の糞(ふん)に依存して生活しているもの(グアノ動物という)にもみられる。原則として地上でみつからないにもかかわらず、グアノ動物は形態的にも生理的にも変化していないのが普通で、目もはねも体の色素もほぼ完全に残っている。これらに対して、いわゆる洞窟動物特有の変化を示すのが、狭い意味での洞窟動物であって、その頂点にくる真洞窟性動物では、皮膚が薄くなって色素が消失し、目やはねが退化してなくなり、基礎代謝が非常に緩慢になる。また、脚(あし)や触角が細長く伸びて触覚や嗅覚(きゅうかく)が発達し、成育が遅いかわりに寿命は長くなる。真洞窟性動物の大多数の種類は肉食性であるが、個体数は一般に少ない。種類数のもっとも多いのは昆虫類と甲殻類で、クモ類とヤスデ類がこれに次ぐ。巻き貝やミミズなどにも真洞窟種があり、脊椎(せきつい)動物の魚類やサンショウウオ類にも盲目の洞窟種が知られている。
真洞窟性動物は、洞窟の中で進化してきたものではなく、水生動物の場合は河川や海浜の間隙水、陸生動物の場合は土壌層と岩盤との間の地下浅層にその本拠がある。洞窟動物は一般に体がきわめて小さいので、幅が数ミリにすぎない砂や礫(れき)の間隙でも、それがかなりの延長をもって続いていれば、洞窟と同じ環境になりうる。人間の体の大きさを基準にして決められている洞窟は、洞窟動物にとってはすみ場所の一部にすぎない。
[上野俊一]