日本大百科全書(ニッポニカ) 「活魚輸送」の意味・わかりやすい解説
活魚輸送
かつぎょゆそう
水産動物を生きたままの状態で遠くへ輸送すること。種苗の生産、放流、蓄養などの増・養殖事業にとって、欠くことのできない過程である。古くから淡水魚のコイやウナギなどは養魚場から消費地まで活魚で輸送して取引されていたが、1980年代には、鮮度のよい海産の魚貝類も消費地においてとくに高く評価され、高価で取引されるので、産地の蓄養施設から消費地の魚市場の水槽まで、食用魚を生きた状態で輸送するのが盛んになった。活魚を多量に運ぶときは船で、少量で迅速性が求められるときは航空機で、その中間のときは貨車またはトラックで輸送されることが多い。増・養殖においては卵、仔稚魚(しちぎょ)、越年魚などが肥育、移殖、避寒、避暑などの目的で輸送されるが、種苗として輸送される場合は卵を水なしの状態で運ぶのがもっとも効果的で、卵の孵化(ふか)に長い時間を必要とする冷水性魚類のサケ・マス類、ワカサギなどで古くから行われてきた。魚卵は、受精後の発生により卵内で体が形成されるまでは、光、熱、振動などの物理的刺激に対して鋭敏で、奇形魚などを生ずるおそれがあるが、目が確認できる発眼期以後は刺激に対して強い耐性をもつようになるので、この時期に乾燥しない状態で輸送する。温水性魚類は孵化時間が短いので仔稚魚の状態でトラックを用い、水槽内に酸素ガスを吹き込みながら輸送し、少量の場合は酸素を封入したビニル袋に密封して航空機で運ぶ。仔稚魚で輸送されている魚種はアユ、キンギョ、コイ、ウナギのほか、ニジマス、ティラピア、アメリカナマズ、マダイ、ブリ(ハマチ)などである。食用魚はトラックや船で運ばれ、養殖されたコイ、ウナギではそのほぼ全量が、ニジマスは渓流釣り用として生産量の30%がトラックで輸送される。海産養殖魚のブリ、マダイは食用魚のほか種苗も、また漁獲された海産の魚貝類も船で運ばれる。養殖用種苗としての卵や仔稚魚の輸送は、魚の病気の伝播(でんぱ)を生ずることもあるので、防疫のため輸送する前に消毒を行う。
[出口吉昭]
『日本水産学会編『活魚輸送』(1982・恒星社厚生閣)』▽『本間昭郎他編『活魚大全』(1990・フジ・テクノシステム)』