いわゆる種(たね)と苗で、農産物の繁殖や生育のもとになるもの。また養殖用の稚魚や卵のこと。
一般に種とよぶもののなかには、植物学上の真の種子を用いるもの(マメ類、ウリ類、アブラナ科やナス科の植物、ワタ、ゴマ、ケシ、アサガオ、キンギョソウなど)のほか、植物学上は果実全体あるいは果実の一部が種子を包んだもの(コムギ、トウモロコシ、ソバ、アサ、ニンジン、ゴボウ、ヤグルマギク、シネラリアなど)や、果実をさらに付属物が包んだもの(イネの種もみ、皮麦、ホウレンソウ、フダンソウ)などがある。種を用いることの利点としては、繁殖が容易で一時に多くの個体が得られること、遠隔地への移動・伝播(でんぱ)に便利であること、交雑育種などにより優良品種の育成が可能であることなどがあげられる。一代雑種(F1(エフワン))種子の利用が盛んになり、穀物、野菜、花などの多くのものに用いられている。
しかし、不稔(ふねん)性作物や単為結果(種子ができずに果実が発達すること)するものでは種が利用できない。種を得ることが困難な作物では、栄養器官の一部を利用する。これらを種物(たねもの)とよぶ。種物となる茎には地上茎、根茎、塊茎、球茎、鱗茎(りんけい)などがあり、いずれもそれらの定芽の生育を利用する。根としては塊根、枝根、肥大直根が利用され、これらに生ずる不定芽を利用する。球形に肥大した地下茎や塊根などを園芸では球根とよぶ。葉が強い再生力をもつものでは葉挿しを行う。このほか株分けの場合は、切り分けた株(根、茎、葉の総合体)が種物とされる。種物に利用される栄養体の部分は、増殖の難易、栽培条件、目的などにより作物ごとにほぼ決まっている。栄養体を種物とすることの利点として、遺伝的素質の完全にそろった個体が短時日に得られることがあげられる。
種苗は、遺伝的にその品種の特性を正しく具備しているものであることがもっともたいせつである。また、畑に植えてから優れた生育をし、しかもそれらがよくそろっていなければならない。昔から苗半作といわれるように、作物栽培上優良な種苗を得ることはきわめてたいせつである。日本では種苗法により一定の規格を設けて、農林水産省や国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構の種苗管理センターまたは独立行政法人家畜改良センターで種苗検査を行い、発芽率、異品種や雑草種子などの夾雑(きょうざつ)物の有無、病害虫の有無などを検査している。
植物新品種の開発には特殊技術や多くの労力、時間、資金が必要であるため、育成された新品種には、法律的に育成者の利益を守る制度がとられている。日本では、1947年(昭和22)に制定された農産種苗法に種苗名称登録制度があった。一方、国際的には「植物の新品種の保護に関する国際条約」(UPOV(ユポフ)条約。UPOV=植物新品種保護国際同盟Union internationale pour la Protection des Obtentions Végétalesの略称)が1968年に発効した。新品種保護に対する国際的世論の高まりのなかで、日本は1982年に条約を批准した。これに先だって農産種苗法が改正・改題され、1978年12月に種苗法が制定された。その内容として、次のようなことが定められた。政令で指定する467種類の農林水産植物については、登録されている品種は登録者の許諾なしには営利目的での、(1)種苗の有償譲渡、有償譲渡のための生産および輸入、(2)種苗以外のものでも、植物体の一部で容易に繁殖できるもので農林水産省令で定めるものについては、その植物体の一部または全部を有償で譲渡すること、たとえば、登録品種のバラやカーネーションの切り花から挿木などで増殖してできた苗や切り花を売ることなど、(3)登録品種をF1品種の親として育成されたF1品種の種子を有償譲渡すること、などの行為はできないことになった。保護の期間は一般作物が15年間、永年性植物が18年間であった。その後、1991年のUPOV条約改正を受け、1998年(平成10)に種苗法が改正された。これにより保護対象となる植物が拡大、また新品種の育成者がもつ育成者権が強化された。保護の期間は延長され、一般植物は20年、永年性植物が25年となった。2005年(平成17)の改正では保護の期間がさらに延長され、一般植物は25年、永年性植物は30年となっている。ほかに新品種保護の制度としては、特許法により新植物を保護することが行われているが、保護の中心は種苗法にあるといえる。また、国として国際種子検査協会International Seed Testing Association(ISTA)に加入して、輸出入種苗についても検査をしている。
[星川清親]
水産増養殖の対象となる生物の種苗には、天然種苗と人工種苗がある。ウナギはすべて天然種苗で、天然の海洋で産卵・孵化(ふか)し、成長した稚魚を採集して種苗としている。コイ、キンギョ、ニジマス、マダイ、ヒラメ、クルマエビはほとんどが人工種苗で、人工的に親を飼育し、これから得た稚魚を種苗とする。アユは人工種苗も得られるが、主体は天然種苗である。種苗には一般に稚魚が用いられるが、ニジマスでは発眼卵もあわせて用いている。天然種苗は年により豊凶の差が甚だしいので、ウナギでも人工種苗を生産する試みがなされている。人工的に種苗を生産するためには、まずその生物の生活史を明確にし、それを基盤として、親魚養成、成熟、産卵、受精、卵の発生、孵化、仔稚魚(しちぎょ)の飼育、種苗輸送などの諸問題を解決する必要がある。
[出口吉昭]
農林業では繁殖のために使用する植物体の一部または全体をさし,種物(たねもの)ともいう。最もふつうに利用されるのは種子または果実であるが,このほかに苗や苗木,あるいは各種の地下茎や枝(接木や挿木に利用する),台木も種苗として取り扱われる。種苗の良否は収量や品質に大きな影響をおよぼすため,これに対する生産者の関心は強く,一般には種苗生産の技術をもつ専門の業者や公的な機関がその生産にあたり,広く頒布する方式がとられている。優良な種苗がそなえるべき条件としては,(1)遺伝的素性がすぐれていること,(2)品質が斉一で使用した場合に発育がよくそろうこと,(3)病原菌や害虫を保有しないこと,などがあげられる。このような優良な種苗を保護し,不良な種苗の流通を規制するために,世界各国でさまざまな措置が講ぜられているが,日本でもこの目的のために種苗法が制定されている。
執筆者:山崎 耕宇
園芸が発展するにつれて花卉(かき),野菜,果樹などの種苗,苗木や栽培に必要な薬剤,肥料,器具などの需要が多くなり,これにこたえるための義務を果たす会社が各地で設立されるようになった。とくに戦後は外国の種苗会社の経営様式をとり入れ,優良種苗も導入されるようになり,生産者への種苗の提供はもちろん,都市近郊にはガーデンセンターも設けられて一般市民の需要に直接こたえるようになってきた。会社の規模によって違いはあるが,各地に農場をもち品種改良を行い独自の種苗を生産,提供するようになり,現在では総合,専門の形式に分化されつつある。
執筆者:浅山 英一
水産分野では養殖や移殖・放流に用いる魚介類の稚仔や海藻の幼体をさすが,受精卵あるいは胞子を含む場合もある。種苗は人工種苗と天然種苗に大別される。
人工種苗とは養殖あるいは漁獲された親から人間の管理下で生産された稚仔あるいは幼体のことで,これを生産するにはまずよく成熟した親を得ることが必要である。そのため成熟度を検査して親を選別するが,ホルモンを注射したり,日長・水温を操作して成熟度を調整することも行われる。成熟した親から採卵するには自然産卵させる方法と切開または搾出といった人工採卵法とがある。人工採卵した卵には人工授精を施し,孵化(ふか)器に入れ,孵化させる(人工孵化)。
人工種苗の生産技術が確立していないウナギやブリ,また天然種苗の入手が容易で人工種苗より経済的なカキやホタテガイなどでは天然水域で産卵・孵化した受精卵や稚仔を採集して種苗としている。ウナギ養殖では12月から5月に河口付近で採捕されるシラスウナギを,ブリ養殖では5~6月に黒潮域の流れ藻についている幼魚(モジャコ)を,それぞれ種苗としている。アユの養殖あるいは放流には人工種苗のほか,琵琶湖などのコアユや海産稚アユが種苗として広く利用されている。
→養殖
執筆者:若林 久嗣
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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