海岸に堤防,突堤,護岸,胸壁などの海岸保全施設を建設して,津波,高潮,波浪などの被害から海岸を防護するための法律(1956公布)。河川も海岸も自然の状態で公共の用に供されるいわゆる自然公物であるが,河川についてはかねて河川法による管理が行われてきたのに,海岸の管理に関しては以前は総合的な法律がなく,国有財産法,港湾法,漁港法,地方公共団体の条例などにより,断片的に規制されていたにすぎなかった。そこで本法が海岸の管理主体,海岸における行為の制限,海岸保全施設築造の基準,損失補償,費用分担などを定める体系的な法律として制定された。
この法律は,都道府県知事がこの法律の目的達成のため必要があると認めるとき指定する海岸保全区域にのみ適用される。この指定は陸地においては春分の日の満潮時の水際線から50m,水面においては春分の日の干潮時の水際線から50mをこえない範囲でなされるのが原則である。海岸保全区域の管理者は原則として都道府県知事,例外として市町村長であるが,海岸保全区域と,港湾法に基づく港湾区域もしくは港湾隣接地域または漁港法に基づく漁港区域とが重複して存するときは,その重複する部分については当該港湾区域,港湾隣接地域の港湾管理者の長または当該漁港の漁港管理者である地方公共団体の長がその管理を行うのが原則である。海岸保全施設の建設工事は海岸管理者が行うのが原則であるが,特に重要なものについては主務大臣が直轄工事を施工することができる。海岸保全区域で土石(砂を含む)の採取,施設の新改築,土地の掘さく,盛土,切土等をするには海岸管理者の許可を要する。海岸保全施設は,海岸を防護するという本法の目的から,自重,水圧,波力,土圧,風圧,地震,漂流物等による振動および衝撃に対して安全な構造でなければならない。釣りなど海岸保全施設を利用するレクリエーションの安全を守る観点はない。海岸保全区域の管理に要する費用は原則として海岸管理者の属する地方公共団体の負担とされるが,一部分は国が負担したり,市町村に分担金,海岸保全施設に関する工事により著しく受益する者に受益者負担金を課すなど,費用の分担の定めがある。主務大臣は原則として建設大臣である。
執筆者:阿部 泰隆
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
津波、高潮、波浪その他海水または地盤の変動による被害から海岸を防護し、海岸環境の整備と保全および公衆の海岸の適切な利用を図り、国土の保全に資することを目的とする法律。昭和31年法律第101号。海岸の保全に関する一般的、基本的な法律である。都道府県知事は、防護の必要ある区域を海岸保全区域として指定し、海岸の管理を行うが、市町村長が管理する場合もある。海岸管理者は、海岸保全施設の新設、改良、維持等の管理を行い、国土の保全上とくに重要なものについては主務大臣が海岸管理者にかわって直轄工事を行うことができる。保全区域の管理に要する費用は、原則としてその地方公共団体が負担する。例外として、主務大臣の行う直轄工事の費用は国が3分の2を、地方公共団体が3分の1を負担し、海岸管理者の海岸保全施設の新設または改良に要する費用は、国がその一部を負担する。
[宮田三郎]
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