損失補償(読み)そんしつほしょう

共同通信ニュース用語解説 「損失補償」の解説

損失補償

国や地方自治体の適法な公権力行使によって財産権侵害された人に対し、その損失を補い償うこと。「私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用いることができる」と定める憲法29条3項に基づく。公平の見地から、補償するのは、土地の収用など特定の人に特別の犠牲を強いた場合とされている。適法ではない公権力行使に対する損害賠償とは区別される。

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精選版 日本国語大辞典 「損失補償」の意味・読み・例文・類語

そんしつ‐ほしょう‥ホシャウ【損失補償】

  1. 〘 名詞 〙 国や公共団体などが、適法な公権力の行使によって人に財産上の損害を与えた場合、その損失を補償すること。適法な行為に基づく財産権の侵害である点で、不法な行為に基づく損害賠償と区別される。〔地方自治法(1947)〕

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改訂新版 世界大百科事典 「損失補償」の意味・わかりやすい解説

損失補償 (そんしつほしょう)

国や公共団体が適法行為によってある人に損害をあたえたとき,その損害を埋め合わせるために支払う金銭を損失補償という。国や公共団体の公務員違法行為によってあたえた損害を塡補(てんぽ)するための国家賠償と異なる。しかし,損失補償といわれているものにも,いろいろの内容のものがある。もっとも典型的な場合は,土地収用法に基づく土地の強制収用・使用に伴う損失補償である。そのほかにも個別的な法律によって損失補償を認めたものも数多い。たとえば,災害関係では,災害のための応急措置に伴って生じた損失を補償する災害対策基本法,災害の際に緊急対策のため従事することを命ぜられたものに対する災害救助法,あるいは,水害対策のため私人の財産に損失をひきおこしたときそれを塡補する水防法における各補償規定などを挙げることができる。また道路工事,河川工事などに伴う損失を塡補する道路法や河川法の規定もある。さらにまた,ダム建設とか埋立事業によって営業ができなくなった場合の損失を埋め合わせる水資源開発促進法とか公有水面埋立法に基づく規定もあれば,立入り調査をする必要から生じた損失に対して補償することを定めた都市再開発法,宅地造成等規制法の規定のようなものもある。また異なったタイプの補償として,公共の事業のために,いままでの漁業を営みえなくなる場合に支払う漁業法の損失補償もあるし,国の財産の使用許可を取り消すことによって生ずる損害を補償する国有財産法の規定も存在する。戦後行われた農地改革の場合の土地の買収金も法律上広く損失補償としてとらえられる。なお企業の強制買収を規定した地方鉄道法(現鉄道事業法),軌道法などの補償もこの損失補償のなかに入るし,タバコの葉の買上げ,米の買上げに伴う代金も旧たばこ専売法ならびに旧食糧管理法に基づく損失補償といわれた。

 損失補償については,憲法29条3項によって,〈私有財産は,正当な補償の下に,これを公共のために用ひることができる〉と規定されており,憲法上の保障を受けている。しかし,〈正当な補償〉とはどの程度の額をさすのかということについて意見が分かれる。農地改革の場合の買上げ代金は,社会的に見て相当額であればよく,完全に土地の時価を基準にする必要はないとされたが(最高裁判決),今日では,完全補償でなければ私有財産制の趣旨に反するという説も強くなってきている。さらにダム建設の場合のように,生活の基礎が根底からくずされるような場合には,財産権の補償だけでなく生活再建のための措置も講ぜられなければならぬとする主張も強くなってきている。

 損失補償という言葉は元来強制的に財産を公共の用に供させる場合にのみ用いられるものであるが,ときには民法上の売買方法を用い,しかも協議の整わぬとき強制収用に移ることができるような場合,しばしば公用収用の損失補償の観念を売買代金に擬制して補償と称することもある。政府はこのような場合の補償基準につき,1962年〈公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱〉を定めた。

 なお,本来補償しなくとも違憲にはならぬが,法律でとくに補償することを認める場合もある。たとえば,伝染病予防法に基づく伝染病毒に汚染された建物の処分などに対する補償がこれにあたる。それも広義の損失補償と称せられている。
土地収用
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百科事典マイペディア 「損失補償」の意味・わかりやすい解説

損失補償【そんしつほしょう】

公法上の,または行政上の損失補償ともいう。公共事業の遂行などの適法な公権力の行使によって特定人の財産に加えられた特別の損失(収用や使用の制限)に対し,公平の見地から社会全体の負担においてこれを調節するための財産的補償。広い意味での行政救済の一つであり,実定法上の一般的な根拠規定としては憲法第29条第3項がある。土地収用に対する損失補償,農地の強制買収の対価の支払などが典型例。公権力の行使に関わる違法な行為に対する行政上の損害補償(国家賠償法)とは異なる。→公用収用

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「損失補償」の意味・わかりやすい解説

損失補償
そんしつほしょう

適法な公権力の行使によって加えられた財産上の特別の犠牲に対して,私有財産の保障と平等負担の見地から,これを調整するために行われる財産的填補。明治憲法下においては,法律の特別の規定がなければ,損失補償について裁判所に出訴することは認められなかったが,現行憲法下においては,憲法 29条の財産権保障規定 (1項) および「私有財産は,正当な補償の下に,これを公共のために用ひることができる」という規定 (3項) ならびに 14条の平等原則の規定を根拠として,一般に「正当な補償」が認められるべきものとされている。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「損失補償」の意味・わかりやすい解説

損失補償
そんしつほしょう

補償

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世界大百科事典(旧版)内の損失補償の言及

【国家補償】より

…これらの場合を総称して〈国家補償〉という。しかし,〈国〉の活動と称しても,その公務員が違法な活動をしたり,その施設の設置管理にミス(瑕疵(かし))があったために賠償する国家賠償の場合と,土地収用に対する補償のような損失補償の場合とでは,かなり内容が異なる。これらの場合を含めて,〈国家補償〉と総称するようになったのは,比較的最近のことであり,また,それには一定の理由があった。…

※「損失補償」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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