消費量とそれを決定する要因との間に存在する関数関係のこと。国内総生産(GDP:gross domestic product)を支出面からみた国内総支出(GDE:gross domestic expenditure)は、消費、投資、政府支出、純輸出(輸出マイナス輸入)の四つからなっている。そのなかの最大の構成要素が消費であり、全体のほぼ6割近くを占めている。したがって、政府が総需要管理政策によって経済の安定化を図る場合には、消費支出がどのような要因により決定されるかを詳しく知ることが重要となるが、それを示すのが消費関数である。消費の決定要素としては、所得、利子率、物価水準およびその上昇率などがあげられるが、もっとも基本的なものは所得である。いま所得をY、消費をCとすると、一般的には消費関数は、次の式で示される。
C=f(Y)
ここでfはYの増加関数であるが、これが消費関数である。所得に占める消費の割合、つまりC/Yを平均消費性向という。また、所得がある水準から1単位増えたときに、それに誘発されて消費がどれくらい増えるかを示すものを限界消費性向といい、これは消費関数の傾きにより示される。
[内島敏之・前田拓生 2016年3月18日]
J・M・ケインズは、一次式で示される消費関数
C=cY+b, 0<c<1, b>0
を考えた。ここで定数cは限界消費性向を示し、また正数bは基礎消費であり、所得はゼロであっても消費者に欠くべからざる消費の大きさを示す。このようなケインズ型消費関数では、
が成立するので、所得が増加すると、平均消費性向は低下することになる。ケインズの消費関数は、ある一定期間内の消費パターンを示すものであり、「短期」の消費関数といわれる。
[内島敏之・前田拓生 2016年3月18日]
第二次世界大戦後の経済学研究における大きな成果の一つが消費関数論争である。この論争のきっかけは、S・S・クズネッツの1937年の消費性向の研究である。クズネッツは、アメリカの1869年から1938年にかけてのデータをもとに、このような長期においては、消費と所得との間には
C≒0.9Y
という関係があることを発見した。つまり、平均消費性向は、長期で考えるとほぼ一定の0.9になるということである。ケインズ型の消費関数では、定数bは正であり、クズネッツの定数項が長期ではほぼゼロである発見とは食い違っている。消費関数論争は、ケインズ型の短期消費関数とクズネッツ型の長期消費関数をいかに矛盾なく説明するかをめぐってなされたのである。これらの論争の結果、人々の消費は、現在の所得水準のみならず、過去の最高所得水準にも依存して決定されること(相対所得仮説)、また、所得のうち変動所得を除いた恒常所得に強く依存すること(恒常所得仮説)、個人の消費行動は単にそのときの所得により決定されるのではなく、その個人が一生の間に稼得する所得、つまり「生涯所得」により決定されること(ライフ・サイクル仮説)などが明らかにされた。
[内島敏之・前田拓生 2016年3月18日]
『篠原三代平著『消費函数』(1958・勁草書房)』▽『M・フリードマン著、宮川公男・今井賢一訳『消費の経済理論』(1960・巌松堂)』▽『J・S・デューゼンベリー著、大熊一郎訳『所得・貯蓄・消費者行為の理論』(1964・巌松堂)』▽『中谷巌著『入門マクロ経済学』(1981・日本評論社)』
経済分析で家計の消費行動を定量的に分析しようとする際に用いられる分析用具の一つ。経済分析では,家計は,各家計のもろもろの財貨・サービスへの好みの程度を表現できる選好場preference fieldをもっている,とまず仮定する。ある時点での所得がその家計の予算の制約となり,また財貨・サービスの相対価格体系がもう一つの制約となって,個々の家計はその選好場にてらして,最大の満足を得られるように,所得の各財貨・サービスへの配分を決めると考えられる。こうして求められたのが財貨・サービスへの消費需要である。各財の消費需要は,選好場の特性や予算制約,価格体系等に依存して決められることになり,その関係を量的な関数型としてとらえたのが消費関数である。第2次大戦後,アメリカの戦後の消費需要の予測をなるべく正確にとらえようとする目的から,またもう一方でS.クズネッツが提起した,短期的貯蓄率変動と長期時系列資料上での貯蓄率の一定性との関係を整合的に説明しようという目的から,いわゆる消費関数論争が展開された。F.モディリアニのライフサイクル仮説,J.S.デューゼンベリの相対所得仮説,J.トービンの流動資産仮説,M.フリードマンの恒常所得仮説などを中心に,消費関数の定式化について活発な議論が行われた。
執筆者:黒田 昌裕
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…Ct-1は1期前の消費支出でありt期においてはすでにその値が決まっているから,外生変数にこのような過去の内生変数を加えたものは先決変数と呼ばれる。(1)式は定義式であり,(2)式は消費者行動を示す方程式(消費関数と呼ばれる)だから確率的要因を含み,それが誤差項μとして含められている。一般に経済モデルでは,このほかに生産技術を示す技術関係式や税制などを示す制度式が含まれる。…
…たとえば,ケインズ経済学の立場から一つの国民経済をとらえた場合には,t期の国民所得Yt,消費Ct,投資It,政府支出Gtとおいて,経済体系は三つの構造関係式, Ct=α+βYt It=γ(Yt-1-Yt-2) Yt=Ct+It+Gtによって制約される経済変数の組(Yt,Ct,It,Gt)ということになる。これら構造関係式は,上から順次,消費関数,投資関数,総需給均衡条件式を示し,α,β,γは値の安定したパラメーターである。経済変数の動きについては,構造体系という制約条件があるために,経済外的与件とみなしうるような一部変数の各時点(期)の値が体系外から与えられ,さらに先行する時点――t期に対する(t-1)期,(t-2)期等――の各変数の値が初期値として別に与えられると,各t期の経済変数の値は,構造体系を通じて一義的に決まってしまう。…
※「消費関数」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
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