日本大百科全書(ニッポニカ) 「投資関数」の意味・わかりやすい解説
投資関数
とうしかんすう
investment function
投資(設備投資、住宅投資、在庫投資)がいかなる要因により決定されるかを関数形で表したもの。ここでは企業の設備投資の決定に焦点を絞る。
[内島敏之]
加速度原理型投資関数
これは投資関数の標準的なものであり、1917年にJ・M・クラークにより提示された。加速度原理によると、今期の投資Iは前期から今期にかけての生産量Yの変化分に比例して決定される。つまり、
I=v(Y-Y-1)
と示される。ここでY-1は前期の生産量であり、正の定数vは加速度因子を示す。毎期毎期、生産量が増加し続けるときにのみ、プラスの投資がなされるのである。
加速度原理型投資関数は、その単純明快さのためにマクロ経済理論でよく用いられてきたが、またさまざまな批判もなされてきた。重大な欠点とされるのは、加速度原理が企業のいかなる行動様式に基づいて導かれているかが不明確であるという点である。
[内島敏之]
新古典学派の投資関数
加速度原理には企業の行動モデルがないという点に着目して、新古典学派の理論的枠組みを用いて新しい投資関数を導いたのは、D・ジョルゲンソンである。新古典学派の投資関数は、初めに望ましい資本ストックを明確にし、次に現実の資本ストックの望ましい資本ストックへの調整を取り上げる、という二つの段階を経て導出される。
(1)望ましい資本ストック 企業は、生産活動において労働や資本ストックを使用する。資本をどれくらい使用するかは、利潤最大を目的として決定される。資本をより多く使用すると、生産量は増加する。他方で資本を増やすことは、生産費用が増えることを意味する。資本を追加することによる収入の増加分と費用の増加分の両者を考慮に入れて、企業は資本の使用量を決定しなければならない。資本を一単位追加することによる生産量の増加分を資本の限界生産力という。生産量の増加分を生産物価格を乗じて金額で示したものが資本の価値限界生産力である。資本を一単位追加することによる費用の追加分を資本のレンタル費用あるいは資本の使用者費用という。利潤最大を目的とする企業は、資本の価値限界生産力が資本のレンタル費用より大きいと、資本をさらに追加することにより利潤を増やすことができる。これに対して、資本の価値限界生産力が資本のレンタル費用より小さいと、資本を追加すると利潤は減少する。したがって企業は、資本の価値限界生産力と資本のレンタル費用とが等しくなる水準に資本ストックを決定するであろう。この資本ストックを望ましい資本ストックという。
望ましい資本ストックは、資本のレンタル費用と生産量との二つに依存していると考えられる。資本のレンタル費用を具体的にみると、それは利子率である。企業は投資資金を借入れで調達すると、利子率に相当する費用を負担しなければならない。このように資本のレンタル費用が高くなると、企業が使用したいと考える資本ストックの水準は小さくなろう。また、企業の生産量水準が高ければ高いほど、企業の手持ち資本ストックは増えるであろう。つまり、望ましい資本ストックK*は、資本のレンタル費用Rの減少関数、生産量Yの増加関数として示されるのである。式で示すと、
K*=K(R,Y)
となる。
(2)資本ストックの調整 企業が現実に保有している資本ストックは、望ましい資本ストックとは異なっているであろう。現実の資本ストックを望ましい資本ストックに瞬間的に調整することは困難である。投資計画を実行するには通常は時間がかかるとか、あるいは急いで投資資金を調達するとそれだけ利子費用も大きくなるとかのためである。企業は現実の資本ストックKと望ましい資本ストックK*とのギャップを瞬間的に埋めることをしないで、そのギャップの一定割合αを毎期埋めるような投資計画をたてる。投資の計画量Iは、
I=α{K*-K}=α{K(R,Y)-K}
と示すことができる。
この新古典学派の投資関数は、投資は、資本のレンタル費用ならびに現実の資本ストックの減少関数、産出量の増加関数となることを示している。
[内島敏之]
『中谷巌著『入門マクロ経済学』(1981・日本評論社)』▽『R・ドーンブッシュ、S・フィッシャー著、坂本市郎他訳『マクロ経済学』上下(1981、82・マグロウヒルブック)』