涸・枯・嗄(読み)かれる

精選版 日本国語大辞典 「涸・枯・嗄」の意味・読み・例文・類語

か・れる【涸・枯・嗄】

〘自ラ下一〙 か・る 〘自ラ下二〙 (「かる(離)」と同語源) 水分がなくなる。
[一] (涸)
① 池、川、井戸など、常に水のあるはずの所に水がなくなる。干る。また、涙が出つくしてそれ以上出なくなる。
※万葉(8C後)一六・三七八八「耳無しの池し恨めし吾妹子が来つつ潜(かづ)かば水は涸(かれ)なむ」
② (乾・燥) 湿り気がなくなる。かわく。乾燥する。
※西大寺本金光明最勝王経平安初期点(830頃)一〇「喉舌乾(かレ)燥きて口に言ふこと能はずして」
気力、感情、才能などが出なくなる。
※浄瑠璃・百日曾我(1700頃)五「茶を受け手向けをなし〈略〉三杯にかれたるたましひをさぐり」
[二] (枯)
① 植物が、水気がなくなって生気がなくなる。また、花や葉が落ちる。
※万葉(8C後)一八・四一一一「み雪降る 冬に至れば 霜置けども その葉も可礼(カレ)ず」
② 人、虫、魚などの生き物が、死んでひからびる。また、死ぬ。
※中務集(989頃)「かへるのかれたるをおこせて、人かれにけるかはづの声を春立ちてなどなかぬと思ひけるかな」
③ 皮膚などに生気がなくなり、やせ衰える。また、病み衰える。
※西大寺本金光明最勝王経平安初期点(830頃)九「乾(かレ)痩せて頭の髪少く」
④ 腫(は)れ物の膿(うみ)が出たあとがかわく。
※栄花(1028‐92頃)峰の月「督の殿々御瘡かれさせ給つれど」
⑤ 朽ち滅びる。絶える。
※説経節・説経苅萱(1631)中「よなきするこは、七うら七さとかるると申」
⑥ 勢い、盛んなさまがなくなる。
※歌舞伎・日本晴伊賀報讐(実録伊賀越)(1880)序幕「まだ炭もかれず、丁度湯加減もよろしいから」
技芸、人間味などに未熟なところや余分なところがなくなる。
※宇津保(970‐999頃)内侍督「めのまへのえだよりいづる風の音はかれにし物とおもほゆるかな」
置炬燵(1890)〈斎藤緑雨〉上「欵乃(ふなうた)の節かれたるが哀れと、不図耳について」
[三] (嗄) のどに湿り気がなくなり、声がかすれる。しゃがれ声になる。また、声が出尽くしてそれ以上出なくなる。
※万葉(8C後)一〇・一九五一「慨(うれたき)や醜霍公鳥(しこほととぎす)今こそば声の干(かる)がに来鳴き響(とよ)めめ」

から・す【涸・枯・嗄】

〘他サ五(四)〙
[一] (涸)
① 乾燥させる。かわかして水分をなくす。
※羅葡日辞書(1595)「Torreo〈略〉エンテンニ モノヲ テリ carasu(カラス)、または、カンテンニ イテ carasu(カラス)
※二人女房(1891‐92)〈尾崎紅葉〉下「気長に待つが可(え)えなどと、鰹節でも乾(カラ)しておくやうなことを言って」
② 汲み出したり、蒸発させたり、流入を防いだりして、池や川の水などをなくす。
※地蔵十輪経元慶七年点(883)二「業を良田と為(し)、〈略〉愛をば慈潤と為(し)ぬる三種の流れを枯(カラし)(か)れしめむと欲ふ」
③ (水を汲み尽くす意から) 物事をやり尽くす。ものを先々まで言い尽くす。
日葡辞書(1603‐04)「コトバノ サキヲ carasu(カラス)
※咄本・近目貫(1773)なぞ「はて先きをからさずと、かけて見やれ」
④ 気力、感情、才能などをなくさせる。また、出ないような状態にする。
吾輩は猫である(1905‐06)〈夏目漱石〉二「胃病の源を涸らす訳だから」
ヰタ・セクスアリス(1909)〈森鴎外〉「情熱を枯らしたやうなのは」
[二] (枯)
草木を枯れさせる。また、花や葉を落とす。
書紀(720)皇極二年二月(岩崎本訓)「雹りて、草木の花葉を傷(カラセ)り」
平家(13C前)七「冬の霜の群葉をからすに同じ」
② 未熟なところをなくす。熟達させる。
※甲陽軍鑑(17C初)品四〇下「手をからしたるためし物の上手にて」
[三] (嗄) 声をかすれさせる。しゃがれ声にする。声を出し尽くして、それ以上声が出ないようにする。
源氏(1001‐14頃)賢木「松虫の鳴きからしたる声も折り知りがほなるを」
※彼女とゴミ箱(1931)〈一瀬直行〉インチキ・レビュー、万歳、安来節、其の他「芸人の殆どが咽をからしてゐる」

から・びる【涸・枯・嗄】

〘自バ上一〙 から・ぶ 〘自バ上二〙 (「から(涸)」の動詞化)
① かわいて水分がなくなった状態になる。草木が枯れたさまになる。かれる。〔日葡辞書(1603‐04)〕
※随筆・孔雀楼筆記(1768)二「いと久しくからびたる居風呂桶に縄をとほし」
② 物事の様子に生気や豊かさがないさまになる。やせたり、また貧弱なさまになる。かれる。
※玉塵抄(1563)四四「女房の年のよってからひたを姑と云ぞ」
③ 表面的な華やかさが消えて、深みをもったさまになる。さびがでる。かれる。
※無名抄(1211頃)「ほそくからびたる哥 宵の間の月の桂の薄紅葉照るとしもなき初秋の空」
④ (嗄) 音声にうるおいがなくなりかすれる。しわがれる。かれる。
※今昔(1120頃か)二八「此の目代(もくだい)、太く辛(から)びたる音(こゑ)を打出して」

かれ【涸・枯・嗄】

〘名〙 (動詞「かれる(涸)」の連用形の名詞化)
① (涸) 水がなくなってかわくこと。湿り気がなくなること。乾燥。
② (枯) 草木が枯れること。
※苦の世界(1918‐21)〈宇野浩二〉一「しだいに枯れにちかづいてゆく草原と」
③ (嗄) 声がかれること。しわがれ。
④ 取引相場で、現品がなくなることをいう。〔新聞語辞典(1933)〕

から・ぶ【涸・枯・嗄】

〘自バ上二〙 ⇒からびる(涸)

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