未固結の砕屑(さいせつ)粒子が水中で攪拌(かくはん)され混濁し、周囲の水よりも密度の高い状態となって、重力の影響で水底斜面を流れ下り、平らな水底面上に広がる密度流のこと。乱泥流ともよばれる。普段は水流が弱いために砂粒などの砕屑物が運搬されない深海底などへ、大量の砕屑物を運搬する。海底だけでなく湖底でもおこることが知られている。海底斜面上での砕屑粒子の攪拌や混濁の原因としては、地震を引き金とする海底地すべり、砕屑物の斜面上への供給が過剰となり不安定になること、波の影響などがあげられる。
混濁流は斜面を流れ下るときに斜面を侵食し、海底谷をつくることがある。斜面を流れ下って平らな深海底に達したとき、速度が十分速いと海底面上の半固結状態の泥岩を侵食し、フルートマークflute markという扇形のくぼみを形成する。混濁流の速度が徐々に小さくなってくると、砕屑粒子を保持できなくなり、粗粒なものから順番に海底上に定着させるために、級化層理を形成する。シルト・粘土サイズの粒子は、混濁流の速度がかなり小さくなっても、海水中に保持されるため、長時間かかって級化層理を示す砂岩の上に堆積(たいせき)する。
混濁流によって堆積した地層はタービダイトturbiditeとよばれる。1回の混濁流によって堆積したタービダイトの単層の内部には、特徴的な堆積構造の規則的な積み重なりが認められる。それは下部より、(1)級化層理部、(2)下部平行葉理部、(3)斜交葉理部、(4)上部平行葉理部、(5)泥質部の五つに分けられ、ブーマ・シーケンスBouma sequenceとよばれる。多くのタービダイトでは、ブーマ・シーケンスの五つの堆積構造がすべてそろっていることはなく、級化層理部と泥質部のみのものが多い。タービダイトは級化層理を示す砂岩層と泥岩層がリズミカルに互層する厚い堆積物を形成する。フリッシュとよばれる地層の一部はタービダイトである。
[村田明広]
乱泥流ともいう。水中における堆積物重力流の一種で,砂,泥を多く含んだ密度の高い流れであり,海底の斜面にいったん堆積したものが地震などを引金にして斜面を流れ下るときにみられる。このようにして運搬され堆積した堆積物をタービダイト(乱泥流堆積物)と呼ぶ。混濁流の概念は最初スイスのレマン湖の堆積物を研究していたF.フォーレルにより1885年に提唱され,R.デリーによって支持された。P.キューネンは実験室で混濁流を作ることが可能であるとした。自然現象として実際に混濁流が観測されたのは,1929年アラスカ沖グランド・バンクスで地震が起こったときであった。地震発生後一定の時間をおいて海底電線が次々と切断された。後の研究によりこれは地震によって二次的に引き起こされた混濁流によるものであることがB.ヒーゼンらによって明らかにされた。混濁流の先端から得られたピストンコアには1m以上の級化層理をもつシルト層があり,深海平たん面はタービダイトによって埋められた平たん面であることも明らかとなった。なお混濁流の速度は電線の切断された時刻より斜面では時速90km,平たん面では20kmと求められた。タービダイトは深海底のさまざまな場所から知られている。最近の実験では混濁流は(1)頭部,(2)頭部背後の渦列部,(3)腹部,(4)内部波を伴う尾部,(5)渦の拡散部の五つの部分に大別できることがわかっている。
日本でも四国沖の南海トラフ底などでは富士川からの土砂が駿河湾を通って延々と800kmも混濁流として運搬されて来ていることが最近の研究によってわかっている。
執筆者:藤岡 換太郎
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…この現象には,陸上,海底を問わず,地すべり,土石流が知られている。とくに海底での重力による堆積物流動現象は堆積物重力流sediment gravity flowと呼ばれ,混濁流turbidity current,水中土石流subaqueous debris flow,粒子流grain flowの三つに分類される。堆積物重力流はまわりの水塊よりも密度が大きい流れであり,代表的な密度流density currentである。…
… 大陸斜面も単調な斜面ではなく谷や平たん面(段丘)に特徴づけられている。大陸斜面上の海底谷は混濁流作用により海底で浸食された地形であると考えられる。大陸斜面上にたまった堆積物は不安定であり,何かの衝撃を受けるとなだれや地すべりを起こして斜面を下り,凹みに集中して泥流となって流れる。…
※「混濁流」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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