海面下の海水の密度不連続面または密度変化のある層内におこり、海面では目だたない波。普通の海の波も、空気と海水という密度の異なる流体の不連続面におこり、本質的には同じ現象なので、内部波の存在は理論的には18世紀にわかっていたが、なかなか実証されなかった。1893年にナンセンがフラム号で北極探検に赴いた際、バレンツ海で海水の表層に清水の薄い層のある所は船脚が著しく遅くなる現象を発見し、このときに海水と清水との境界部に内部波がおこっていることを観測した。エクマンはこの現象を水槽実験で再現し、船の推進エネルギーの一部が内部波をおこすことに費やされるため速力が減少することを確かめ、この現象に「死水(しにみず)」と名づけた。同じ現象は日本でも「船幽霊(ふなゆうれい)」として知られていた。
内部波を精密に測定できるようになったのは1930年代に入ってからである。それでも、表面波のように境界面の上下動を直接測ることはできず、海水の温度が深くなるにしたがって冷たくなる性質を利用し、海水の上下動に伴う下層水温の時間変化や、内部波動に伴う海水の流速の時間変化を測定して、間接的に内部波を観測している。
外洋における内部波の周期は、潮汐(ちょうせき)に近い周期のものが、内部潮汐としてよく知られているが、海水密度の鉛直分布で決まるブルント‐バイセラ周期(海水の上に清水がのっているような場合は7~8分、普通は20~30分)から緯度による慣性周期(12時間÷sin緯度 日本付近で20時間前後、低緯度で70~80時間)のものまで広くおこっている。慣性周期が潮汐周期に近いときには共振して、深いところでは振幅が100メートルにもなることがある。
内部波は、海中の温度分布を変化させるから、水温に大きな影響を受ける水中音速の分布も変化させ、音波の到達距離や到達範囲に大きな影響を及ぼす。したがって、潜水船どうし、あるいは潜水船と母船との間の音波通信や、音波による潜水艦の探知などに及ぼす内部波の影響は深刻である。
また、表面の波と同じように内部波が遠浅の岸に押し寄せると、最後には内部くだけ波となって表面まで現れる。内部波はもともと下層の冷たい海水の運動であるから、内部くだけ波がおこると海岸の水温が著しく冷たくなり、漁業にも海水浴にも影響する。
[安井 正]
流体の密度が鉛直方向に変化する場合,その内部で最大振幅をもつ波をいう。この波の復元力が重力(と浮力)であり,内部重力波が最も一般的である。このほか,海洋や大気では,地球自転に伴うコリオリの力や,それの緯度方向の変化が復元力として作用する内部ケルビン波や内部ロスビー波などがある。内部重力波では,その周期は,バイサラ周期よりも長く,その緯度に対する慣性周期より短い。バイサラ周期とは,密度成層する流体のある小部分が重力と浮力の作用の下にその時間平均位置を中心として,上下方向に自由振動する場合の周期であり,その位置における密度の鉛直構造による。海洋では,表層に強い密度成層がある場合,小さい船のプロペラの推力が内部重力波を生起することに費やされてしまい,船がほとんど進行しないことがある。これは死水あるいは引き幽霊などと呼ばれる。潮汐によって生起される内部波は,半日や1日の潮汐周期をもつ。振幅が最大になる層の上下において,この波に伴う流れは逆向きとなり,定置網漁場などではこれは二重潮と呼ばれ,これにより網が損傷を受けることもある。
執筆者:寺本 俊彦
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