家庭医学館 「温度による健康障害」の解説
おんどによるけんこうしょうがい【温度による健康障害】
異常な高温の環境下でおこるからだの障害で、炎天下(えんてんか)でおこった場合は、日射病(にっしゃびょう)と呼ぶこともあります。
熱(ねつ)けいれん、熱疲労(ねつひろう)、熱射病(ねっしゃびょう)という3つの病態があります。
■熱けいれん
●症状
高温下の運動や労働で、もっともよく使用した骨格筋(こっかくきん)(下肢(かし)など)におこる、痛みをともなう強直性(きょうちょくせい)けいれん(いわゆるつった状態)を、熱けいれんといいます。
●原因
多量の汗をかいて、ナトリウムやクロール(塩素)が失われているのに、水分だけを補給したためにおこる低張性脱水(ていちょうせいだっすい)が原因です。
●治療
涼しい場所で休ませ、0.1%食塩水か、スポーツドリンクを飲ませます。
これでナトリウム、クロールを補給できます。
一般に、けいれんをおこした筋肉は、ストレッチ(伸ばす)を行なうと、けいれんが止まります。
■熱疲労(熱疲弊(ねつひへい))
高温下で多量の汗をかいたのに、水も塩分(ナトリウム)も補給しないと、ナトリウムが多く、水の少ない血液になります(高張性脱水(こうちょうせいだっすい))。水のほうが多く失われるからです。
この高張性脱水のためにおこるのが熱疲労です。
●症状
周囲の温度が高くなると、体温も上昇しますが、熱を体外に放散させるために皮膚血管が拡張し、血圧が下がります。
この結果、めまいや失神(しっしん)がおこります。疲労感、吐(は)き気(け)・嘔吐(おうと)などもみられます。
熱射病(この項目の熱射病)とはちがい、体温は上昇しても、40℃を超えることはなく、精神状態は正常で、中枢神経(ちゅうすうしんけい)のはたらきの低下もありません。
●治療
涼しい場所で休ませます。点滴による輸液が必要ですから、早く受診します。
■熱射病
体温より外気温が高いと、熱の放散がさまたげられ、体内に熱がこもります(うつ熱)。
この場合は、最初、出ていた汗が止まり、サラサラした皮膚になります(古典的熱中症(こてんてきねっちゅうしょう))。
激しい運動や労働で、放散を上回る熱が体内で発生している場合は、汗をかいています(労作性熱中症(ろうさせいねっちゅうしょう))。
●症状
体温を調節している温熱中枢のはたらきが失調し、体温が40℃以上に上昇します。
前触れとなる症状なしに、虚脱状態(心身の弱り)、けいれん、昏睡(こんすい)がおこります。
高温の環境で意識がおかしくなったときは、熱射病の疑いがあります。
死亡率が高いので、救急車を呼ぶなどして、一刻も早く治療の受けられる医療機関へ運ぶことが必要です。
●治療
冷水、冷風、アルコール湿布(しっぷ)などを用いて体温降下療法を行なうとともに、生命を救うための救命救急治療が必要です。
偶発性低体温症(ぐうはつせいていたいおんしょう)
低い外気温に体温が奪われ、体温が異常に低下した状態で、このために死亡するのが凍死(とうし)です。
冬山のほか、ふだんの生活でも、寒い季節にはひとり暮らしのお年寄りや酩酊者(めいていしゃ)にもおこります。寒冷環境での作業でおこることもあります。
●症状
最初、寒け、震え、筋肉の硬直などがおこります。これは、体温を下げないための防御反応です。
つくられる熱よりも、奪われる熱のほうが多くなると、震えが止まり、体温が下がってきます。やがて、無関心(ボンヤリ)や不穏状態(騒ぐ)になります。
体温が30℃前後になると、意識が薄れてきます。やがて、呼吸数の減少が現われ、生命が危険になります。
●治療
できるだけ早く、医療機関へ運ぶことが必要です。
生命を救うための救命救急治療を実施すると同時に、全身を加温します。