測定標準(読み)そくていひょうじゅん(英語表記)measurement standard 英語

日本大百科全書(ニッポニカ) 「測定標準」の意味・わかりやすい解説

測定標準
そくていひょうじゅん
measurement standard 英語
etalon 英語
étalon フランス語

量を測定する際に基準となる値の実現であり、不確かさ(測定結果のばらつきの程度)の記述を伴っている。量の値の定義は、実量器、測定器、標準物質、測定系(測定システム)などにより具現化される。

 国際計量計測用語VIMInternational vocabulary of metrology, ISO/IEC Guide 99 : 2007)では、standard(標準。英語)とetalon(エタロン。フランス語)を併記して定義している。英語の「standard」および日本語の「標準」には、物理的なハードウェアとしての標準器のように現実に具体的な基準を示すものと、基準文書のように規格として規定するものの両方の意味がある。これに対してフランス語では、前者のハードウェアをétalon、後者の基準文書類をnormeとして、両者を明確に区別している。

 VIMでは、測定標準を「何らかの計量参照として用いるための、表記された量の値および付随する測定不確かさをもつ、量の定義の具現化」と定義している。「量の定義の具現化」は、測定システム、実量器または標準物質によって与えることができる。また、測定標準は、他の同種の量に対して測定された量の値および付随する測定不確かさを確定し、それにより、他の測定標準、測定器または測定システムの校正を通して、計量計測トレーサビリティ確立する際の計量参照としてよく用いられる。

 そして、定義にある「具現化」の三つの手順を次のように示している。第一の手順は、その定義からの測定単位の物理的具現化であり、「厳密な意味」での具現化である。第二の手順は「再現」とよばれ、その定義からの測定単位の具現化ではなく、物理現象に基づいた再現性の高い測定標準を組み立てることで、たとえば、長さ(メートル)の測定標準を確立するための周波数安定化レーザー、電圧ボルト)確立のためのジョセフソン効果、または電気抵抗(オーム)確立のための量子ホール効果の使用などの場合にみられる。第三の手順は実量器を測定標準として採用することである。これには、1キログラム質量標準、100オーム(Ω)測定標準抵抗器などの例がある。

 なお、エタロンは、光学分野では2枚の反射鏡を向かい合わせた高分解能干渉計として知られている。

[今井秀孝]

さまざまなレベルの測定標準

ヨーロッパ国家計量標準機関協会(EURAMET:the European Association of National Metrology Institutes)が発行した『計量学――早わかりMETROLOGY - IN SHORT』第3版では、さまざまなレベルの測定標準を次のように定義している。

(1)国家計量標準(国家測定標準、国家標準) 国家または経済圏で使用するために国家当局が承認した測定標準であり、その量がかかわるその他の測定標準にその量の値を供給する基礎となる。日本の場合、国家標準となる特定標準器、特定標準物質等は経済産業大臣が指定する。

(2)国際計量標準(国際測定標準、国際標準) 国際協定の署名者によって承認され、世界中で用いられることを意図した測定標準。たとえば国際キログラム原器

(3)一次測定標準(一次標準) 一次参照測定手順を用いて確立されたか、条約で選ばれたアーティファクト(人工物)として製作されたもの。計量学的にもっとも高品位であると広く知られている標準、またはそのように指定された標準であり、その測定結果は、その量の同じ測定範囲における別な標準を参照することなく決定される。

(4)二次測定標準(二次標準) 同種の量の一次測定標準によって校正されることにより確立された測定標準。特定二次標準器、特定二次標準物質。

(5)常用参照標準(常用標準) 組織内または地域内にあるその他の同種の測定標準を校正するために設計された測定標準。

(6)実用標準 測定器または測定系の校正または検証のために日常的に用いられる測定標準。

[今井秀孝]

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