メートル法の基本単位である1キログラムの質量を現示する最高の標準器。パリの国際度量衡局に保管されているものを国際キログラム原器といい、この質量が1キログラムと約束されている。これは、1875年のメートル条約成立によってつくられた原器のなかから選定されたもので、1889年の第1回国際度量衡総会で決定された。直径と高さがそれぞれ39ミリメートルの円柱形分銅で、材質は白金90%、イリジウム10%の合金である。国際キログラム原器と同形同材質のものが、メートル条約加盟国その他に配られていて、国際原器との器差を補正して用いている。これらの原器は定期的に国際度量衡局で国際原器との比較が行われる。
日本の原器は6という番号のもので、当初は国際原器より0.170ミリグラムだけ大きかった。産業技術総合研究所の計量標準総合センターに保管されている。
現在は国際単位系(SI)の七つの基本単位のうち、キログラムのみが人工物により定義されている。しかしながら、最近の計測技術の進歩をとり入れれば、ほとんどの基本単位を、プランク定数、アボガドロ定数、ボルツマン定数などの基礎物理定数をもとに定義することの可能性が議論されてきた。そして、2011年の第24回国際度量衡総会において、その方向性が審議・決議された。それによれば、キログラムは、プランク定数をもとに定義する方向で各国の計量標準研究所が精密な実験を進めるように要請された。これに基づき、2014年の第25回国際度量衡総会においても、引き続きSIの基本単位の定義の変更の方向性が議論されたが、キログラムを含む定義の変更の決定は次の2018年の第26回国際度量衡総会以降に持ち越された。定義が変更されても、基礎物理定数を各国が測定することは合理的ではなく、実際のキログラムの国際計量標準は、白金・イリジウム製、ステンレス鋼製、石英製などの複数の標準器群により群管理することが考えられており、現在の優れたてんびんの技術は維持されるであろう。
[小泉袈裟勝・今井秀孝 2015年4月17日]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
メートル法の質量の単位キログラムの大きさを示す標準器。メートル法を国際的な度量衡単位系にするために,1872年の国際メートル委員会の決議に基づいて80年に製作され,89年の第1回国際度量衡総会で質量の国際原器として承認された。その質量が厳密に1キログラムである。10%のイリジウムを含む白金イリジウム合金で作られた直径と高さがほぼ等しく約39mmの円柱型の分銅で,上下の周縁部がわずかに丸められており,記号はつけられていない。0℃における体積は46.00014cm3±0.00014cm3,比重は21.55148±0.00007である。地金の成分は,白金Pt89.90%,イリジウムIr10.09%,ロジウムRh痕跡,鉄Fe0.01%,過剰分0.02%であった。
この原器は,メートル条約の定めに基づき,89年以降国際度量衡局に保管されており,質量を安定に保つためほとんど使用されず,通常の検査には6個の参照原器が使われる。これまでの検査で原器が参加したのは1939年,46年の2回である。メートル条約加盟国には規定の範囲内で国際原器と同型・同質の複製原器が配布された。日本国キログラム原器(No.6)は通商産業省の計量研究所に保管され,46年の値は1.000000169kg。
執筆者:三宅 史
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